和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

狐は人にくいつくものなり。

2023-05-18 | 古典
「絵巻で見る・読む徒然草」(朝日新聞出版・2016年)は、
絵・海北友雪筆「徒然草絵巻」(サントリー美術館所蔵)
監修・島内裕子。訳・絵巻解説上野友愛。

うん。古本で買ってみました。残念。
絵巻がひとつひとつ全部見れるかと思ったのですが、違いました。
でも、現在手にできる海北友雪筆「徒然草絵巻」に違いありません。

最後の方に上野友愛氏による解説がありました。そのはじまりを引用。

「 『 小説はほとんど読まないが、マンガはよく読む 』
  という人は少なくない。それは、ストーリーによって
  ≪ 読む・読まない ≫を判断しているのではなく、

   文字がページを埋めつくす本よりも、
   絵を見て目で楽しめるマンガに親しみを感じている
   ことが大きな要因だろう。

   昔の人も、そのような絵の魅力に心惹かれていた。
   仏典のエピソードや子どもへの教訓話、
   摩訶不思議な伝説や町の噂話、そして
   美女と貴公子のロマンチックなラブストーリーなど、

   私たちの祖先は古くから物語を愛好し、そして、もっともっと
   物語の内容を楽しみたいという熱い愛によって、
   物語は早くから絵画化された。

   目から具体的なイメージを得ることによって、
   物語の世界はより身近になり、理解しやすいものになったのだ。

   なかでも、『源氏物語』ほど、絵画と深く結びつきながら
   享受され続けた古典はない。・・・・・・・

   文学愛好の享受史のなかで、物語だけでなく、
   随筆である『徒然草』の絵画化も例外ではない。・・・  」(p162)


はい。このようにはじまっているのですが、
かえすがえすも、この本では海北友雪筆『徒然草絵巻』の
絵巻全部の紹介でないのが、残念。

それはそうとして、マンガ徒然草へ焦点をあてると、
長谷川法世著「マンガ古典文学徒然草」(小学館文庫・2019年)
バロン吉元著「マンガ日本の古典 徒然草」(中公文庫・2000年)
が古本で簡単に手に入る。

こちらは、両方とも第243段まで、きちんと載せております。
たとえば、島内裕子校訂・訳「徒然草」(ちくま学芸文庫・2010年)
の全段を読み通せなくとも、マンガでなら通し読みが簡単可能です。

とりあえず、ご注意しておきたいのですが、
バロン吉元さんの絵には、大人マンガの要素が混じります。

両方に魅力はあります。バロン吉元さんの絵は、それこそ、
まとわりついてくる徒然草と切り合うような、大人の魅力があります。
長谷川法世さんの絵には、徒然草の世界そのままを、吞み込むような
ふところの深い法師像です(初めての方におススメなら、長谷川法世)。


はい。何はともあれ、徒然草の全243段とむきあい、
鳥瞰するのに、おススメのマンガとなっております。

その意味でも「絵巻で見る・読む徒然草」が全243段あるのに、
それを全部入れていないのが何とも残念だと思えてしまいます。

せっかくの海北友雪筆による「徒然草絵巻」の全体が
本としては全段見れないことはかえすがえすも寂しい。
全段あると、マンガとの比較が俄然面白くなるのになあ。
まあ、無いものネダリは、このくらいにして、

今回は一か所とりだしてみます。
徒然草の第218段「狐は人にくいつくものなり」を

長谷川法世さんは、3コマで表現しております。
1コマ目は、狐が飛びかかる形相で、左前足の爪をたて今にもの場面
「堀川家の御殿で舎人(とねり)が寝ていて狐に足を食われた。」
2コマ目は、夜の本堂が描かれ、その屋根の上に
「仁和寺では夜、本堂の前を通る下法師に狐が三匹飛びかかって食いついた。」
3コマ目、家の前で法師と三匹の狐の争う場面。
「 刀を抜いて防戦し、狐二匹を突いた。
  一匹は突き殺した。二匹は逃げて行った。
  法師は体中を噛まれたが無事だった。 」

バロン吉元氏の第218段も3コマで納めておりまして、
こちらは、法師の大立ち回りで、狐の首が二つ飛んでおりました。

海北友雪筆の徒然草絵巻の第218段の場面は一枚の絵。

黒色の着衣まま、横に倒れたような恰好の法師。
左腕は、狐の頭を手で地に押さえ
右足の裾から腿へと狐が噛みつき、
三匹目の狐が背後から右腕に噛みついている。
右手に小刀をもちながら法師は、その三匹目を
アッと驚きながらも見据えている。

はい。徒然草絵巻はカラーで、法師の装束の黒を中央に
三匹の狐の茶色が、火焔がおそいかかるかのような構図。


最後には、忘れずに徒然草第218段の原文を引用。

「 狐は、人に食い付く物なり。
  堀川殿にて、舎人が寝たる足を、狐に食はる。

  仁和寺にて、夜、本寺の前を通る下法師に、
  狐三つ、飛び掛かりて、食ひ付きければ、
  刀を抜きて、これを防ぐ間、狐二匹を突く。

  一つは、突き殺しぬ。二つは、逃げぬ。
  法師は、数多(あまた)所、食はれながら、
  事故(ことゆゑ)無かりけり。       」

          ( p418 「徒然草」ちくま学芸文庫 )










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