和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

石清水に唇をつけて飲む。

2021-01-03 | 本棚並べ
神田秀夫著「荘子の蘇生」(明治書院・昭和63年)。
そこに、明治と大正の時代にふれて

「ただ、その中で最大の事件は、前田利鎌によって
『臨済・荘子』(昭和4年)が書かれたことである。」
(p181)
そこから、すこし飛ばして引用すると

「当時、荘子の研究書としては、
武内義雄の『老子と荘子』(昭和5年)があり、
その本文批評は、同じ著者による名著『論語之研究』とともに、
当時最高のレベルを示していて、私なども繰返し参照しては啓発
されたものだったが、文献の客体的な処理操作に終始した本だから、
読者としては蒸留水を飲まされ続けるようなもので、
なぜ著者が『老子と荘子』に関心を持つのか、
その動機は、ついにのみこめなかった。
今になって考えてみれば、やはり所詮は講壇の哲学だったのである。

それにくらべると、戦後の学者でもある福永光司氏の
『荘子』(昭和41~42)は、石清水に唇をつけて飲む思いがする。
・・・・」(p184)

この福永光司氏の荘子内篇解説には、こういう指摘がありました。

「『荘子』の思想を哲学的に把握して、これを近代的な
論理で最も明快に解釈しているのは、前田利鎌の『荘子』を
第一とする。・・・私の訳解が最も多くを負うているのは、
彼の荘子解釈である。」(p24・「荘子内篇」朝日文庫)

うん。「石清水に唇をつけて飲む思い」が
ここには、箱根マラソンのたすきリレーのようにして
つながっている気がしてきます。

それはそうと、昨年末に気になって古本検索をしていたら、
「飲食男女 老荘思想入門」(朝日出版社・2002年)があり、
福永光司が話し、聞き手は河合隼雄とある。それを注文して
あったのが今日ポストに届いておりました。

はい。荘子を買ったのだから、老子も気になります。
「飲食男女」の「はじめに」で、河合隼雄さんが
書いております。

「・・・日本人のセカセカ病に対する処方箋のひとつとして、
『老荘思想』というものがある、と私は思っている。そして、
現代人の心の病を治療しているとき、私を支えている強力な
思想は老荘ではないかとも思っている。そして、
毎日の臨床活動のなかで疲れたとき、老子の『道徳経』を読んだり、
その一節を思い出して、ほっとしたりしている。
 ・・・・・

そこで、『老荘』とか『道教』とか言えば誰でも思いつく、
福永光司先生に『個人授業』をお願いできないか、と考えた。
それに、福永先生は公職を退いた後、九州・中津の方に引退されて、
一般の者はその謦咳(けいがい)に接する機会がほとんどない。
・・・宝の持ち腐れという感じさえする。
・・・早速この企画を朝日出版社の仁藤輝夫さんに持ちかけると、
二つ返事で賛成・・・・・・・・・・・・・・・

何回かのお話を伺った後に、『私はおもしろかったし、
得をしたなと思うけれど、これは本にはならないのでは』と、
仁藤さんに申しあげた。聞いているのは滅法おもしろいのだが、
書物にするにはまとまりがなさすぎる、と思ったのだ。ところが、
『必ずできますよ』と仁藤さんは自信満々。・・・・

現代における老荘思想の重要性については、
本文中に語られているので繰り返すこともないだろう。
要は、・・・日本人がもう少し落ち着きを
取り戻すために、非常に大切なものではなかろうか。
それに、日本人は本来そのようなものを、いろいろなところに
今も残留されているのだ。それを、もう少し意識し、
生かしてゆくことを考えてみることが必要である。」

はい。「はじめに」の最後も引用しておきたくなります。

「本書は『入門書』であるし、一般の方々のためのものでもあるが、
専門家が読まれても結構役に立つところもあるように思う。
自由な話であるために、体系化されないで話されていることの節々から、
案外新しい考えへのヒントが生まれてくるように思うからである。

まことに残念なことに、福永光司先生は、この書物の出版を待たずに、
お亡くなりになった。予期せぬことで驚き、悲しみも深かった。
それだけに、このような形であれ、先生の思想の片鱗を留めることに、
少しでもお役に立てたことを有難いと思った。
・・・・この書物によって福永先生の該博極まりない知識と思想が、
少しでも日本人の心を豊かにするために役立てば、
『聞き手』としてはこれに過ぎる幸いはないと思っている。
   2002年6月吉日      」

はい。期せずして今年最初に届いた古本となりました。
はい。まだ『はじめに』しか私は読んでいないのです。



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