和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

そんなにみつむるな。

2007-08-22 | Weblog
ブログ「書迷博客」の「今日美術館」(2007年8月19日)が印象に残っています。
「今日美術館(英文名称 TODAY ART MUSEUM)では中国各地の藝術大学学生の作品展が開催中。おもに国画(中国画)と油彩の展示」とあり、ほんねこさんの興味を持ったことの指摘が、気になるのでした。こうあります。
「今回面白かったのは、油彩のほとんどと、中国画の一部で人間が描かれるときの、その人物の目だった。絵の中の人物のほとんどが、目をつぶっていたり、目を伏せていたり、なかには目そのものが描かれなかったりする。また目を開いていても、その視線はあらぬところにさまよっているか、何も見ていないかのように無表情である。かといって、その目は自分の内側を見つめているわけでもない。どうして人物の目がこうも虚ろなのだろうか。」

これに、八妹さんがコメントをつけているのが、また注目したくなるのでした。
八妹さんはこう書いております。「昨日放送された「日本人と自画像」というNHK教育の番組で、描かれた目について触れられていました。芸大では卒業制作に自画像が課され、全点が大学に収蔵されるのだそうです。そのうち戦時中の作品では、目が描かれないものが目立つということでした。人の顔の中でいちばん表情をもつ器官をあえて描かない、あるいは描けないというのはやはりそれなりの切迫した状況を反映するのでしょうか。」


ここでの八妹さんは日本の戦時中の学生の自画像を語っている。

ちょうど私はといえば、伊東静雄の詩を読んでいるところでしたので、それに関連しておもったことを付け加えたくなりました。伊東静雄の日記で、昭和14年9月19日に、こうありました。

「昨日よりやや爽涼、歯医者で五時に寒暖計みたら二十七度、先達中三十二、三度あつたのだ。今日いよいよ爽快、久し振り身體がしつとり感じ、皮膚がしづかに呼吸するのをおぼゆる。美しい詩が書きたい。

    永い永い夏
  
    わが服の紺色あせ

    人生と和解出来ぬ男

 そんなにみつむるな若い友、ふかい瞳に自然が与へる暗示は、それがいかに光耀にみちてゐるものであつても、つまるところ(それは)悲しみだ。自然は、変化だからだ、そして又僕らも変化。

 そんなにみつむるな若い友、自らを停めることによつて、自然へのまどはしの暗示をうくるな、歩きつつ道の花をつめ、多様のよろこびにはほほゑめ、ほほゑみは、自然と汝とを支へる唯一つのものだ。

   ほほゑみは受けることと与へることとの調和だ。

   風と光の中に身を粉々にせよ、自ら持するところあるな。

   詩を釣る勿れ。                   」


ちなみに、この詩は推敲の段階で、完成された詩は、また別にあります(いづれ引用してみたいと思います)。
さて、昭和14年(1939年)といえば、5月にノモンハン事件。8月に第二次ノモンハン事件。9月に第二次世界大戦勃発。

伊東静雄の日記の少し前、昭和14年9月1日も引用してみます。

「第一の興亜記念日なり。本日より学校始まる。始業式、分列式、神社参拝、大掃除等あり。頭重く、いんうつ也、夏の疲労つもつて甚しい感がする。朝校庭で分列式をながめながら、思索ばかりで行動なきものは発狂す、といふ言葉をつぶやいてゐた。この疲労はどうにかしなければいかん。・・・・日光つよく、後頭部いたみ、めまひを覚える。いくぶんの吐気と。
独逸とポーランド国境にて激戦中との号外あり。自分の頭脳では果して戦争に堪へるだらうか、二、三日前から自分はしきりにそれをあやぶんでる。ひる十二時記。」


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なにを見ている (ほんねこ)
2007-08-23 01:12:28
昔、散髪屋でひげをあたってもらっているときに、女理髪師の顔がすぐ目の前にあったので、その顔を見ていたら、
「何を見てるんですか?」
と真顔で言われだじろいだことがありました。
実は今日、飲んで帰って来たのですが(だから「書迷博客」は今日はお休み)、カラオケの小姐(おねえさん)に言われました。
「どうして私の顔を見ないの?」
視線には力がこもっています。
その場その時に適切な視線の力加減というものがあって、戦時中には戦時中の視線、安穏の日々の中には相応の視線というものがあるのでしょうね。私は日本を離れてから随分な年月が経ちますが、いま日本の人たちの視線はどうなっていますか?
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まなざし。 (和田浦海岸)
2007-08-24 00:09:16
ほんねこさん。コメントありがとうございます。
ちょうど、今日(23日)来た本を開いて感じた事を、ほんねこさんのコメントを思い描きながらブログで引用してみました。コメントと読んだ本の印象が重なるということがあるのだと不思議さを思いながら引用しました。
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