和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

山鳥のほろとなく。

2019-11-09 | 詩歌
鴨長明「方丈記」に
こんな箇所がありました。

「もし、夜、静かなれば、
窓の月に故人をしのび、猿の声に袖をうるほす。
草むらの蛍は、遠く槙(まき)の篝(かが)り火にまがひ、
暁の雨は、おのづから木の葉吹く嵐に似たり。
山鳥のほろとなくを聞きても、父か母かと疑ひ・・・」

さてっと、私に興味深かったのは、
「山鳥のほろとなく」という箇所。

そういえば、西城八十の「旅の夜風」の歌詞には
「比叡」「加茂の河原」という地名が出てくる。
ということで、映画「愛染かつら」の歌として有名な
「旅の夜風」を引用。

 花も嵐も踏み越えて
 行くが男の生きる途
 泣いてくれるな ほろほろ鳥よ
 月の比叡を独り行く。

  ・・・・

 加茂の河原に秋長けて
 肌に夜風が沁みわたる
 男柳がなに泣くものか
 風に揺れるは影ばかり。

  ・・・・・

歌詞の引用は、このくらいにして、
筒井清忠著「西條八十」(中公叢書)には
この歌詞を引用したあとに、こうありました。

「『ほろほろ鳥』は、琵琶歌の『石童丸』の中にある
『ほろほろと鳴く山鳥の声聞けば、
父かぞとおもふ、母かぞとおもふ』
という古歌が胸に浮んだので、
それを具体化したものであった。
高野山での石童丸と刈萱道心の邂逅を想ったのである。
・・・」(p227~228)

それとは知らず、
「花も嵐も踏み越えて・・・」の西城八十の歌詞が
琵琶歌「石童丸」へとつながり、
鴨長明「方丈記」へとつながっておりました。

浅見和彦校訂・訳「方丈記」(ちくま学芸文庫)には、
和歌のつながりが興味深くたどられます(p190~191)。

「 山鳥のほろほろとなく声聞けば
   父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ(伝行基菩薩)

 をふまえる。

 山深み馴るる鹿(かせぎ)のけぢかさに
   世に遠ざかる程ぞ知らるる(「山家集」1207)

という伝行基歌、西行歌をほぼ全面的に取り組み、
つなぎ合わせ、『方丈記』独特のリズム感のある
行文の創出に成功しているのである。・・・」(p191)

さてっと、紅葉の葉を踏み越えてゆく季節となりました。
 





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