和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

「これを読め」と。

2021-01-23 | 本棚並べ
森功著「鬼才 伝説の編集人齋藤十一」(幻冬舎・2021年)。
その終章は、齋藤十一が亡くなってからの内容になってます。
そこに

「・・空洞化しているのは、新潮社や週刊新潮だけではない。
週刊誌に限らず、出版界、新聞、テレビにいたるまで、かつてのような
記者や編集者がいなくなり、伝える中身がスカスカになっている。
言論界全体が空洞化しているように感じるのは私だけではないだろう。」(p308)

はい。森功氏は、こう指摘をしたあとに、
あるエピソードをもってきておりました。


「齋藤の«息子»小川雄二はあるとき唐突に『これを読め』と
九鬼周造の「『いき』の構造」を手渡されたことがあるという。
  ・・・・
齋藤は京大哲学科の教授だった九鬼が1930(昭和5)年10月に
発表したこの短い哲学書を愛読してきた。齋藤自身、九鬼の
著書に感銘を受けてきた、と小川は考えている。

『九鬼周造の【「いき」の構造】・・
オジはそれを【読め】というだけで、答えは教えてくれませんでした。
ですけど、読んでみると、なんとなくわかるんです。
オジはあの生き様に共感している、と。
本人はけっして斜に構えている人生を送っているわけではなく、
もっと素直に人間をとらえていたように思います』 」(p308~309)


ここに「あるとき唐突に『これを読め』と・・・・
【読め】というだけで、答えは教えてくれませんでした。」とある。
読めといわれた、その本が、私は気になります。

そういえば。と京都を思い浮かべる(笑)。

入江敦彦著「読む京都」(本の雑誌社・2018年)の
最後の方に「京都本の10冊」という題の文章が載ってる。
その10冊リストの前口上に、こんな箇所がありました。

「好きか嫌いかと言われたらもちろん大好きで何度も
読み返している本ばかりだけれど・・・・
『お勧めの京都本10選』ですらないかもしれない。
あくまでこの奇妙な都市を読み解く手引きとして
ページを開いていただきたい書物たちである。」(p214~215)

この10冊リストの、5冊目はというと、
⑤『九鬼周造随筆集』岩波文庫
「偶然論を語りながら無常を思う『青海波』など、
『「いき」の構造』で知られる哲学者の随筆集」(p216)


そうだ。九鬼周造を、読もう。
本を読もうというはじまりは、
そのキッカケはいつも楽しい。

はい。読み始めてからの頓挫は、
いつも何度も経験してるのにね。

ということで、さいごは
黒田三郎の詩「紙風船」。

  落ちて来たら
  今度は
  もっと高く
  もっともっと高く
  何度でも
  打ち上げよう

  美しい
  願いごとのように

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