和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

黒田三郎の『馬鹿』。

2021-05-10 | 詩歌
詩人の黒田三郎は、
昭和55年(1980)1月8日に61歳で亡くなっておりました。
年譜を見て気づく。そうだったんだ、61歳。その前年の1979年に
詩集『死後の世界』(昭森社)が刊行されておりました。
この詩集のはじまりの詩は、詩集の題名とおなじ。

  死後の世界

 退院して家に帰って来たら
 ふすまも障子も真新しく
 張りかえられていた
 寝具も新しい
 心身共に衰弱していて
 しかし全く無頓着だった

 ・・・・・・


うん。亡くなってから詩人の奥さんによる
「人間・黒田三郎」が出たのでした。
どこに置いておいたのか、読み直したくても出てこない。
うん。出てこないなら諦めることにして(この古本も高そうだし)
この詩集を、あらためて、もう一度ひらく。

   退院したら

 あら 痩せこけて違うひとみたいね
 八百屋の娘がそう言って笑った
 退院してから そんなことを言ってくれたのは
 小さな本屋の御夫婦
 理髪屋のアンちゃんたち
 近くの文学好きの若い主婦
 
 ・・・・・・・・・・・


最後に引用するのは詩『馬鹿』の全文。

     馬鹿

 オリンピック馬鹿なんてのがいる
 外国選手がゲリラに殺傷されようが
 どうしようが
 無反応
 自分の出場がどうなるかしか
 念頭にない
 いろんな馬鹿がいるが
 このごろでは詩人馬鹿なんてのも
 わんさといる

 ほんとは
 僕は
 自分が馬鹿だから 
 馬鹿が好きなのだ
 馬や鹿のように無口で
 ときにはいなないたり
 ときにはとびはねたり
 馬鹿というのはそんなのがいい
 弁舌さわやかで抜け目のない人間の反対

 ところが
 いろんな馬鹿がいるというのに
 僕の好きな馬鹿はいない
 どれもこれも小馬鹿
 どれもこれも小利口
 適度に馬鹿で
 適度に利口な奴ばかり
 ぐんと桁違いに
 馬鹿な奴がいないものか
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