『国士無双』
楽しさ ★★★★★ ★★★★★
歌舞伎・浄瑠璃・時代劇・無声映画・小芝居・漫画のパロディ化&利用の仕方 ★★★★★ ★★★★★
役者の表現における間のとり方 ★★★★★ ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★ ★★☆☆☆
1986年 日本
キャスト
中井貴一 (にせ<凡人>伊勢伊勢守)
原田美枝子 (八重)
火野正平 (小鹿)
笠智衆 (仙人)
中村嘉葎雄 (羽黒月仙)
江波杏子 (オケラのお六)
原日出子 (お初)
フランキー堺 (伊勢伊勢守)
岡本信人 (瀬高)
セント (近藤)
ルイス (土方)
テレビで映画『国士無双』を見た。
中井貴一 や原田美枝子他、わたしの好きな役者が一杯で満足。
火野正平と岡本信人の辛みはじつにうまく、最後にもう一度見たいと思ったが、最初に出演したきりで残念だった。
中井貴一も火野正平も実にいい。
役者達のセリフや仕草の間のとり方、淡々とした口調に満足。
高度なテクニックのコメディを品良く仕上げているのは、役者群の選択の良さか、或は昔の大映映画の意気込みか・・・。
中井貴一 (にせ<凡人>伊勢伊勢守)の淡々とした空気のような感情の行動の割には、女性に対してのまじめな情熱が心地よい。
愛する女性以外にも人としてやさしいが、まじめに一人の女性を思い、一方にははっきりとした態度で断る。
ほれるに値する にせ<凡人>伊勢伊勢守である。
この女性達、途中で心情を人形浄瑠璃の舞台 (おそらく『鏡山旧錦絵』(かがみやまこきょうのにしきえ)→間違いであれば、お知らせ下さい) にのせる。
わたしは文楽をほとんど見た事がないが、歌舞伎でなじみの『鏡山』を思い浮かべ 映画劇中劇を見ながら、
「これ、尾上。こりゃ便所下駄ではないかぇ。」(花組芝居パロディ)
の台詞を思わずつぶやくと、横で一緒に映画を見ていた家族は多少迷惑顔であった。(ゴ^メ^ン)
女達の名 八重とお初に注目したい。
付け加えるならば原田美枝子と原日出子の若い頃はじつに美しく、この映画に適役。
解説によると、【本モノよりも強いにせモノが捲き起こす騒動を描いた昭和7年製作の伊丹万作監督、伊勢野重任脚本のナンセンス時代劇の再映画化。】との事だが、わたしは見はじめてしばくして民話の『わらしべ長者』を思い浮かべていた。
わたしはこの映画に 物質による『わらしべ長者』ではなく、行動における『わらしべ長者』を見てとった。
何ともはやユニークではないか。
最後、地位と名誉であるはずの伊勢伊勢守の名をゆずり受けず、自分の好きな道を歩む。
にせ<凡人>伊勢伊勢守の最後の言葉「本物が正しいのではなく、強いものが正しいのだ。」は多少説教臭い向きはあったが、「本物が正しいのではなく、強いものが正しいのだ。」の『強い』を『誠実』に置き換えて、今の政◯家達に聞かせたいと感じる。
パロディ続きのこの映画、木枯らし門次郎が出てきたかと思えば『吹き出し』(これは無声映画の手法だと、横で見ていた家族が教えてくれた)があり、浄瑠璃があり、最後には歌舞伎のように花道のせり上がりから中井貴一 (にせ<凡人>伊勢伊勢守)と原田美枝子 (八重)が姿を現す。そして舞台中央では小芝居のショー風表情と動きで映画は終わった。