源太郎のブログ

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「ティー・レイディー」

2011年04月06日 | インポート
 ティー・カップに冷たいミルクを少々、まず入れて、それからポットの紅茶を注ぐ、と言うのが、英国流紅茶の入れ方。ミルクが先か、紅茶が先か、どっちでも同じじゃない、と思うのは我々だけ。ミルクが先、に英国人は大いなる拘りを持っている。どっちが「旨い」か、長い間の論争に決着をつけたのが「英国王立科学会」。2003年の共同通信の記事を引用すると、「カップに先にミルクを入れてから紅茶を注ぐのがおいしいミルクティーのコツ。紅茶文化の本場、英国の王立科学会は24日、「完ぺきな紅茶の入れ方」を発表した。あらかじめ温めた陶製のポットにティーバッグでないアッサム産の葉を入れ、ミネラル分の少ない軟水を沸かしたお湯を注いで3分間待つ。できた紅茶は陶製のカップに入れ、熱すぎると音を立ててすすることになるため、60度から65度の温度になるのを待って飲む。カップに注ぐのは紅茶が先かミルクが先かは紅茶好きの間で長年の論争となってきたが、熱い紅茶の中にミルクを注ぐとタンパク質が変質して風味を害しやすいことが化学分析で判明し、冷たいミルクをまずカップに入れてからお茶を注ぐのが好ましいと結論づけた。」

 もうすぐ、ティー・レイディーの来る頃かな~。毎日、午前と午後、「ティー・レイディー」と呼ばれる「おばさん」がワゴンに飲み物・食べ物色々載せて事務所内を回る。日本の新幹線のワゴン・サービスと同じスタイル。思い思いに注文し、仕事の手を止めて一時の憩いの時を過ごす。紅茶を頼めば、勿論ミルクが先。それ程高級な茶葉を使っているとは思えない紅茶が実に風味豊かで美味しい。その風味に匹敵する味を、日本では味わった事が残念ながら無い。ミルクの違い、紅茶の違い、水の違い、入れ方の違い、「空気」の違い、色々とないまぜになった「違い」のせいなのだろう。

 私が会社員として初めて勤めた会社、トーマス・クックの本社はロンドンのメイフェアー地区の一角、バークレイ・ストリート45番地にあった。旅行会社の元祖と言われる会社だ。トーマス・クック社はトーマス・クック氏によって今から170年程前創立された。「禁酒運動家」だった宣教師のトーマス・クックが「禁酒法」の成立を推進するデモに大勢の参加者を運ぶ為団体貸切列車を仕立てたのが世界最初の「団体旅行」の始まり、とされている。以来、今でも「旅行代理店」の老舗として営業を続けている。クック社を有名にしたのが「時刻表」の出版だ。今では、ヨーロッパの鉄道旅行社に欠かせない「時刻表」が初めて出版されたのが1873年と言うから、今から140年近く前の事になる。同社が理想の道連れ「ideal companion」とうたう大判折図の「ヨーロッパ鉄道地図「Thomas Cook Rail Map of Europe」もすでに16版を数える。いずれも日本のユーレイルパスユーザーには必須アイテムとして知られている。

 お昼のランチ。大抵は会社の近くのサンドイッチ・ショップで好みのサンドイッチを作ってもらって、近くのグリーン・パークで食べる、と言うのが日課。たまにはパブで食べる事もある。イギリス人はパブ派が多い。そんな時、勿論ビールは欠かせない。彼らにとってはお酒、というより「水」代わり、といった所だろうか。仕事中のお昼にビールとは、日本では考えられない事だ。

100人程の人が居た、私の所属するセクションではイギリスはもとより世界中から手紙で届く旅行にまつわる注文をこなすのが仕事。ネットなど無かった時代、「手紙」がその手段の一つだった。「ミルク」が先、ではないが「手紙」と言うのも、大いなる拘りの一つだった。レストランの予約でも電話は使わない。今はメールに変っても「書いたもので」やり取りする習慣に違いはないだろう。その手紙、ワープロの無かった時代、タイピストがその役割をこなす。手書きの原稿を書いて出しておくと、綺麗にタイプされた「手紙」が自分の所に戻って来る、と言う仕掛けだ。後はサインをして送るたけ。タイピストの居る部屋は「タイピングプール」と呼ばれ、常時十数人のタイピストが朝から晩までタイプをたたく音が響いていた。手書き原稿を作る時間の無い急ぎの時は、タイピストに向かって口述すると、その場でタイプを打ってくれる。今や、ワープロの時代、そんな風景は古き良き時代の「風物詩」だったに違いない。

 イギリスではクリスマスの翌日、12月26日はボクシング・デー(Boxing day)と呼ばれている。日本ではボクシングと言えば「拳闘」を思い浮かべるが、ボクシング・デーは違う。牛乳配達の人、新聞配達の人、郵便配達や配送する人、ティー・レイディーの人等、日頃お世話になっている人にプレゼントの箱(Box)を渡す日の事。日本にあってもいいな、と思う良い習慣の一つだ。

 もうそろそろ午後の3時、ティー・レイディーが回って来る時間だ。今日は、どんなお八つにしょうようかな~。