源太郎のブログ

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「岩菅山」

2010年07月22日 | 山行記

 首都圏の、2年振りと言う「猛暑日」の朝、私はシラフカバーにくるまって寒さに眠れぬ時を過ごしていた。標高2295mの「岩菅山」頂上避難小屋の朝はまだまだ寒い。

 7月の中旬、避難小屋を利用して「裏岩菅山」まで足を伸ばす、と言う企画で志賀高原に出掛けた。集合は新幹線の長野駅。新幹線は大宮を出ると上田に止まるだけで長野まで1時間25分の道のり。あっと言う間だ。長野からはバスも出ているが、帰りの事を考えて、今回はレンタカーを利用する事にした。高速を経由して志賀高原の「高天原」まで1時間20分程。「高天原」からはスキー用のリフトを利用して時間を稼いだ。標高差は約250mだから、我々の足で登ったら1時間以上かかる計算だ。本当は、長野オリンピックのスキー大回転のコース、東館山へのゴンドラリフトを利用すればもっと標高は稼げるのだが、今回は下山のルートも考えて「高天原」からのスキーリフトを利用する事にした。

 ルートは一旦「東館山」に登り、高山植物のお花畑を抜ける。ゴンドラ駅の周辺には観光客も多い。連休の後、と言う事もあってか、そこを抜ければ殆ど人の姿は無い。歩き始めてから約1時間半、2126mの「寺子屋峰」に着いた。三角点が無ければ、気付かない様なピークだ。続いて「赤石山」への分岐、「金山沢の頭」で暫しの休みを取ると先に進む。左手に、「尖った」岩菅山の姿がチラホラする。幾つかの登り下りを繰り返して、「ノッキリ」と呼ばれる分岐に着く。ここまで約4時間、時間の余裕があるせいか、のんびりと歩を進めた。それにしても「ノッキリ」とは些か面妖な「地名」だ。峠の分岐だから「霧が晴れる場所」「退く霧」「ノッキリ」とも「峠を乗り切る」「ノッキリ」とも言う説がある。私も定かではないが「峠を乗り切る」方が、それらしい気がする。ここまで来れば、距離的には「岩菅山」の頂上は近い。が、難所が待っている。「ノッキリ」を出て暫くすると岩ガラガラの急登が待っている。せっかく作られている階段道も壊れ放題で実に歩きにくい。そんな道と格闘する事小一時間、午後4時過ぎ、「岩菅山」の頂上に着いた。今日は頂上にある「避難小屋」泊りだから、のんびりと周りの景色を楽しむ、所だったが、それを邪魔する「伏兵」が居た。「ブヨ」の大軍だ。その数も半端じゃない。手を振り回せばブヨが何匹も手に当たる。顔にも、頭にもたかり、耳にも入る。もう居られない、慌てて「避難」小屋に入る。「避難」とは、そう言う事だったのか。

 「避難小屋」に泊まるには色々と道具立てが必要で、ちょっと敷居が高いイメージがある。日帰り山行には要らない、寝袋・マット・多くの食糧や水・ガスやコンロ・鍋や食器、これだけでも相当な重さだ。でも、「料理する」と言う発想を捨てれば、必要のなくなる物は多い。調理不必要な食べ物は数多ある。勿論、日帰りより重くなるが、「避難小屋」利用で山の世界がグーンと広がる。

 さて、そろそろ日没、夕焼けを見ようと外に出る。勿論待っていたのは「ブヨ」の大軍。それでも、2295mの頂上から見る日没と山々のシルエットは素晴らしい。

 翌朝、5時半過ぎには小屋を後にして標高2341の「裏岩菅山」へ向かう。晴れ上がった、その日、北アルプスの全山が一列に並んで見える。「ブヨ」も相変わらず活発に活動している。御蔭で、「牛に引かれて善光寺参り」ならぬ、「虫に追われてコースタイム」になり、丁度50分で到着。一頻り、景色を眺めると、踵を返し、再び「岩菅山」に向かった。「虫除け」も殆ど効かない「つわもの」に対処するには、悟りを開いて「明鏡止虫」しか無いのかも知れない。

 8時前、「岩菅山」からの下山開始。昨日苦労した、「瓦礫」の下りを慎重に行く、そして「ノッキリ」の分岐に戻ると、「アライタ沢」のルートを下る。その頃には、朝早く登山口を出た人達が上がって来た。皆、一様に、「早いですね~」と口々に言う。「はい、昨日は避難小屋に泊まったんです」と返す。

 「ノッキリ」から下る事1時間40分、「アライタ沢」に出る。橋の手前で休息。手と顔を洗ってさっぱり。水が、冷たく気持ちが良い。細い木橋を渡ると道は殆ど水平で気持ちの良い道が続く。脇を小川が流れる。この流れは「上条用水」と呼ばれ付近の水源となっている。もうすぐ「小三郎小屋跡」の分岐に着くと言う頃、小川の脇に岩の裂け目から清水が湧く場所がある。「底清水」だ。早速、飲んでみると、これが「絶品」の味。実に旨い。水の味もさることながら、「旨い」には訳がある。何しろ、実に「冷たい」のだ。冷蔵庫で冷やしたって、これ程「ギンギン」にはならない。ほんの少し手を浸しただけでしびれを感じる程だった。

 「底清水」から歩く事1時間、一ノ瀬に着く。そこが、下山の目的地。丁度、お昼、何か食べてお風呂に入ろう。思い返せば、「岩スゲェ山」か、と思ったら、そこは「虫スゲェ山」だった。だが我々は、山の魅力に浸る二日間を過ごし、その満足感で一杯だった。

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