ととじブログ

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イノセント・デイズ / 早見和真

2019-01-22 04:37:16 | 本/文学
イノセント・デイズ
著者:早見和真 (はやみかずま)
発行所:新潮社
新潮文庫
2017年3月1日 第一刷発行

感想文、以下、ネタバレ有り。


幸乃が死刑制度を「利用」して死ぬことを決意し、本当にそのまま死んでしまった。
それに対する動機づけか足りないのではないか?
これが最初に感じた不満だ。

佐々木慎一が現れ、幸乃が犯したとされている事件の真相を暴いた。
非常に困難な道のりで、幸乃を想っての事だ。
それでもなお、幸乃が立ち止まることなく、死へ向かっていく。
人生をやり直してみようかと、思わなかったのだろうか?
幸乃自身の書き込みが足りない。
そう思った。

しばらく冷却期間を置き、もう一度考えてみた。
漱石の『こころ』を思い出した。
『こころ』では「先生」が「遺書」という形で自分が死に行く理由を語る。
独白だ。

そこで、思った。
「幸乃自身の書き込みが足りない」のではない。
そんなものは最初から無かったのだ。
『イノセント・デイズ』は『こころ』の対極にあたる。
関わった周囲の人間達が、一人の人間が死に行く理由を暗に語る。
そういうストーリーだったのだ。
そうか! そういうことだったのか!
なんという野心的な作品なのだろう!

そして、改めて本を手に取り、章ごとに内容をチェックしていった。
すると、あれれ?
第五章が幸乃の章だった。
幸乃が中心に描かれていた。

ちょっと違ったみたいだ。

そういわけで、やっぱり不満だ。
最初に戻ってしまうが、幸乃自身の書き込みが足りないと思う。
お前には人の痛みがわからないのか!
お前には幸乃の心の内がわからないのか!
お前には共感というものがないのか!
と責められそうだが、う~ん、やっぱり、どうもな…
慎ちゃん(佐々木慎一)と一緒にやり直してみたっていいんじゃないかと思うんだけどなぁ…

というより、幸乃自身について書き込んで、幸乃が死へ向かう決意に読者が共感してしまうと、衝撃のラストにならないってことかな?