ととじブログ

書きたい時に書きたい事を書いている、あまり統一感の無いブログです。

雲の宴 / 辻邦生

2019-01-20 20:54:50 | 本/文学
辻邦生著作、『雲の宴』は1985年9月7日より1987年1月17日まで朝日新聞に連載され、上下巻二分冊の単行本が、朝日新聞社から1987年3月20日に発行された。
その後、1990年に版を改め朝日文庫から発行されている。
2004年から2006年にかけて新潮社から発売された『辻邦生全集』には収録されていない。

以下、ネタバレ有り。


作品は三上敦子、白木冴子、郡司薫(男性)の三人を中心に、「現在の物語」と「過去の物語」が並行していく構成となっている。

過去の物語では、大学、就職、会社、仕事、社会、家族、恋愛といったごく普通の日常生活、オーソドックスな純文学的ストーリーが淡々と進行していく。
その一方で、現在の物語では、郡司薫がアフリカの小国「セレール共和国」でのクーデターに加担するという、エンターテインメント性が前面に強く押し出されている。

身近な多くの人々が傷つき、あるいは死んでいく。
その容赦ない厳しい現実から、愛とは? 幸福とは? 死とは? 等々、人間の生とは何か? という辻邦生らしい世界観が散りばめられた作品となっている。

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自死を決意した白木冴子の最後、これは過去の物語の最後でもあるのだが、その一シーン。
『短く額を囲む髪にブラシをあて、唇にルージュをさし、しばらく子供っぽい、異国風の眼を見つめ、口の形だけで「冴子、さようなら」と鏡の中の自分に言った。』
※雲の宴(下) 辻邦生 朝日新聞社 1987年3月20日 P399
最後のさよならはやっぱり自分に言うのかな?
あいみょんの『生きていたんだよな』をふと思い出す。

なお蛇足ながら、郡司薫がクーデターに加担した動機はセレール国内の「ウラン鉱脈」の利権奪取のためだった。「ウラン鉱脈」とは言うまでもなく原子力発電の燃料としてのウランだ。
連載は1985年9月7日より1987年1月17日。
現実の世界では、1986年4月26日にチェルノブイリ原発事故が発生した。
この事故は作品の進行に影響を及ぼしたのだろうか?
意識しながら読み進めたのだけれど、それはわからなかった。

最後に、一言余計な事を。
水無瀬大吉はどうなった?