the other side of SmokyGitanesCafe
それとは無関係に・・・。
 





GITANESを吸っていそうな彼。
それとは無関係に・・・。


もう夜になった。

リビングの窓から見える景色に違和感があった。

我が家のケンタロ(柴犬オス)がやけにくっきり見える。
いつもと見え方が違う。

観察して違和感の原因がわかった。

彼のテリトリーはフェンスのあっち側。それなのにフェンスのこっち側にいる。
だからはっきりと姿が見えるのだ。

さては隙を見つけて脱出したのか飛び越えたのか、人間が閂を忘れたのか。


近づいてみた。

ケンタロではなかった。

その柴犬は雌。
目が大きくてべっぴんさん。体毛が生え替わりのシーズンでモコモコになっているのは
ケンタロと同じだ。
赤い首輪を巻いており、それには鋲(スタッズ)があしらわれていて、リードが取り付けられる金属の突起もついている。
首輪の先は噛んだ跡で傷んでいた。

つまり、よその犬が単独でうちに遊びに来ていたのだった。


私が近づいても逃げない。それどころか、近づいてきて足元の匂いをかいでいる。
きっと人間と良好な関係の生活をしているのだろう。


これは、ちょっと困った。
この花子(すぐに命名だけはやってしまう)はどこの家の娘なのだろうか。
わからない以上、エサも水もおやつも遣る訳にもいかない。
どんな病気や癖や嗜好をもっているかもわからないからだ。

とりあえずリビングへ戻った。
どうするべきか。

しばらくすると、犬は歩き去ったのか見えなくなっていた。

とりあえず、管轄の警察署に電話で尋ねてみる。

K「はい、東警察です」
私「遺失物のことで訊きたいのですが」
K「はいはい?」
私「ええと、よその犬がうちの庭に迷い込んできたようで」
K「はあ、なるほど」
私「で、『犬が行方不明になった』なんて知らせが入ってないかと思いまして」
K「わかりました。では特徴を教えてください」
私「はい、柴犬の・・・」

数分後
K「お待たせしました。今のところそのような犬の届けは入っていないですねえ」
私「わかりました。お手数かけました」
K「いえいえ、ところでその犬は今どんな様子ですか?」
私「さっきまでうちの犬とヒソヒソ話をしていたのですが、とりあえず一区切りついたようで
散歩に出かけました」
K「アハハハハハ!」

豪快に笑う婦人警察官だった。



もう立ち去ったのだからいいか。それにしても人騒がせな犬だ。
どれ、もう一度様子を見るか。
と、フェンス付近に近づいてみると、また花子がやってきていて
フェンス越しにケンタロの様子をうかがっていた。


一体、どんなやりとりになっているのだろうか?
息を潜めて観察してみた。

微かな、「キューン、キューン」という声で、ケンタロを呼んでいる。
それを耳にしたケンタロが面倒臭そうに、しかし思いっきり尻尾を振りながら
でもあくまでもめんどうくさそうに「クンクン。」と鳴く。
フェンス越しに鼻と鼻をくっつけたりした後、花子はやや遠ざかる。
ケンタはロしばらく「クンクン」と鳴くが、花子が遠ざかってしまったもんだから
諦めて庭の奥に引っ込む。

引っ込むとまた花子が「キューン」と鳴く。ケンタロも戻ってきて「クン」と鳴く。

一生やってなさい という感じのやり取りだ。そして、種類を超えた「女子の戦略」という文字が頭に浮かびもした。


隣の管轄の警察署にも電話したが、そちらにも迷い犬の情報は入っていなかった。


どうしたものか。

手荒に追い返せないし、丁重にもてなす訳にもいかないし。


夜中になった。

小さい小さい「キューン」と「クン」の応酬は、間遠くなりながらも続いていた。



そういえば近所のW氏の実家には、赤い首輪の柴犬がいたなあ。
朝になったら電話で尋ねてみよう。
それと、保健所に問い合わせる人がいるかも知れないし、そっちにも訊いてみるか。



クンクン という小さい声を聴きながら眠ってしまった。





目が覚めるともう、全力の夏の朝だった。
ケンタロは物陰で日差しを避けている。

花子はどこにもいなかった。





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