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【174】とどめ・心珠

 人のほぼ全身にわたって浸透しているココロイド【196】が、皮膜となって何層にも凝集したものが心珠である。ベジタリアンにおける「息の根」や、武林や警察における「とどめ」なども同じものである。球面に揺らぐ虹色の光沢は、脳波【85】の干渉から起きるオーロラ【95】の光を反映している。肉体が死んで脳波が失われても、心珠の光沢が消えることはない。

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【142】切除や摘出した部分をはめ込み【132】大幅な後処置【52】車・容器を抱えた人々の列・機関坊【25】仏教徒・米国

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【173】野生のかわいいもの

 アリシアはそのかわいさから、大規模な詐欺組織に幾度となく勧誘されてはその都度そのかわいさで断ってきた。私の元に訪れるのはあんな人たちばかり、と彼女が嘆くのも無理はない。彼女は一度として、そのかわいさを利用して悪事を働いたことがないつもりだった。薬事法には〈野生のかわいいもの〉との接触を禁じる力はないが、共同生活を禁じることはできる。だから寄ってくるのは無法者ばかり。このままでは公に結婚生活【184】を送ることもできない。モデル(【111】【114】【115】を参照のこと)になるには背が低すぎるし、美容院【123】に行けばきれいになっちゃう。どうなるんだろう私、とアリシアは肩を落としてアルハサン家【181】に買い物にでかけ、冷蔵庫の中から上等な肉【181】を勝手に取り出すと、アルハサンをじっと見つめた。仕方ないなあ、そうやって見つめられると……今日もおじぎ【163】はいらないよ。アリシアは落とした肩を拾って家に帰るのだった。

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【165】愛らしさ

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【172】平行線の焦点を結べばよいのです・色と物質は同じものである!―― ノキタハ博士の論文7

 まあお聞きください。区役所【106】がどれだけ規制しようと、物質と色は容易には切り離せないほど相互的に影響しあっています。物質の種類の多さを表すのに〈色々〉という言波が使われるほどですし、オレンジやローズなどのように物質の名称が色そのものを表している事例も珍しくありません。同色であっても、物体ごとに独立した人格(色気)を有しているわけですし、異なる色が混ざっていてもひとつの物体ごとに、一人の色として振る舞うことからもわかるように、色々というのは物体に限定されながらも統合された共通意識であると考えることができるわけです。
 ここでひとつ疑問が湧きませんか? 我々人間の体を覆っている色は、なぜ沈黙を守っているのでしょう。宿主にびくびくしながら寄生しているから、でしょうか? オホン、ゴオン。失礼。まだ仮説の段階ですが、これをお話しすることで、世界はわたくしの存在を疑いはじめるかもしれません。率直に言いましょう――

 我々は色という生物の一種族なのです。

 考えてもみてください。我々はいつも相手の顔色を窺っています。色眼鏡にかなったりもします。有色人種【178】はカラーズと呼ばれています。そう呼んでいるのはホワイトです。我々は長い年月に渡って、自然界には存在しなかった色々な色を産み出してきました【179】
 信頼のおける床屋【53】であるタヴィアーニの旦那【298】に、カルサワ君【12】という人物の皮膚を一部分、綺麗な林檎形にカットしていただき、ギョエテ師【125】に対話を試みてもらいました。予想していたとおり、肌の色は何も物語ってはくれませんでした。つまるところ人間とは、頭に感覚器官や思考器官を集中させることによって、発声や思考を行う際の痛みから解放された、色なのです!【180】

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【162】色の方では宿主の実在を疑っている――ノキタハ博士の論文5【147】弁護士のメイソン氏【140】色から陽力素が消えるわけではない・物質と色の同一性―― ノキタハ博士の論文1【136】太陽に見られて移ろいでいく

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【171】太陽の色々・太陽が爆発を繰り返していた――ノキタハ博士の論文6

 太陽を包み込んでいる色は、自らの内部で、自らの起源を遡るほど太古から、今では忘れ去られてしまった原因によって、今では存在しなくなった領土に向かって、間断なく画(かく)爆撃が続けられていることを知りません。書物のように言子【216】で構成されていたと考えられる複数の銀河【65】は、互いの攻撃で画爆発を繰り返しながら現在の大きさにまで収縮したのです。言子は画分裂の際に放出した単純な数子(すうじ)を媒体にしてさらなる連鎖反応を引き起こします。数子は遺伝子を形成して爆発的に色素を発現させます。その爆発は銀河の質量で球形にとどめられ、我々のよく知る太陽となったのです。
 頭上で行われている想像を絶する戦争を目にして、無力な我々になにができるでしょう。昼間に傘【177】をさすことくらいでしょうか。

※この項目は、ギョエテ師の献身的な協力なしには口述しえませんでした。彼は失明する恐れも顧みず、太陽の視線(【136】【145】【159】を参照のこと)をじかに見据えて面談【138】行い、その深層意識から以上の話を引き出してくれたのです。

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【159】傲慢で一方的な視線――ノキタハ博士の論文4【147】弁護士のメイソン氏【30】空間が赤く滲んできた

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【170】配送先・今やどこかの家の窓ガラス

 ノキタハ博士は、歴史家である【310】シュシ・イタマのアトリエへと運ばれ、窓【176】としてはめ込まれた。その時点からガラスと呼称され、一枚、二枚と枚数で数えられるようになった。
 窓の取りつけ工事の際に密告されて、飼い犬を奪われたというのに彩りのない部屋で、シュシ・イタマは一抱えもあるつややかな楕円状をした半透明の薄塊【340】に歴史を刻み込んでいた。博士はその姿を眺めながら、おやおや【63】、と呟くしかなかった。

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【158】無視あるいは回避・硝子化・透病――ノキタハ博士の論文3【85】脳波

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【169】この事実には戦慄せざるをえません。・透分

「これに関しましては、私の口から説明させていただきます」と、弁護士のメイソン氏【147】が落ち着いた様子で語った。「ノキタハ博士は必ずしも区役所【106】を否定しているわけではありません。区役所が阻止しようとしているある事実【180】には、博士も声を震わせるほどに強い脅威を感じているのです。ここでいくつかポイントを挙げてみましょう。

 一つ目、博士も言ったように、我々の体の七十%を海水【90】が占めているらしい。

 二つ目、我々は透病【158】に罹りかねないと知りながら、酒類や果物に含まれる甘い透分を摂取するのが大好きである(透分は疲れた脳を癒してくれます。脳とは実質的に、海水を成分にしています)。

 三つ目、我々は海から上陸【46】する。

 四つ目、空の羊【35】からは雨が降り、大地を浸食していく
(滴は海の卵【251】です)。

 五つ目、〈水〉は〈見ず〉を語源とする。

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【158】無視あるいは回避・硝子化・透病――ノキタハ博士の論文3

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【168】カメラマンどうしの偏執作業

 撮影を終えたカメラマン【155】たちは、偏執室に集まると、円陣を組んだ椅子に愛猫を抱いて座る。カメラマンが記憶に留めた光景を魚【78】として吐き出すと、膝の上の猫【153】がそれを器用に食べる。猫の食事が終わると、名残を惜しむカメラマンたちと入れ替わりに一人の偏執者が入ってくる。偏執者は椅子の上に鎮座している猫を、一匹ずつ膝に乗せて、思う存分なで回す。そうすることで猫のヒゲから発せられる映像を脳波【85】で読みとることができるのだ。ただし人間の眼球【66】をカメラ代わりに使用しているため、偏執者でなければ吐いてしまうほど振幅が激しい。揺れ動く映像と自分の視線を一致させるトラッキング処理を行って画面を安定させながら、一匹、また一匹と、猫から送られてくる映像を記憶した偏執者は、白衣の助手が待つ奥の部屋に移動し、姿勢を正すと、瞼を高速で瞬かせながら頭の中で取捨選択をしてナレーションやテロップを想像で付け加えた魚を次々と泳がせていく。魚が喉の奥でひっかかると、前かがみになって二本指を喉に突っ込み、苦しげな唸り声をあげながら吐き出す。助手は、部屋の中で泳ぎ回る魚を一匹ずつ真空パックで包装してラベルを貼り、順番に天井レールのフックに掛けていく。真空パックの列は、左右に揺れながら控え室へと消えていき、放送日がくると放送室に滑り落ちてくる。そこにはケーブルにヒゲを結線された猫が物欲しそうに座っている。

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【155】カメラマン

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【167】あやふやな言波や観念が淘汰

 ジョージア嬢【36】は、初心者向けの憑依文字であるTシャツを身にまとい、ケーブルテレビ【154】を楽しんでいた。活字【23】新聞【152】購読者【28】の中からローテーションで召集されるというのだが、友達によると、それも憑依体質があってのことなのだという。このまえ食べた煮魚【七八】で知ったのは、普段から簡単な憑依文字を身にまとい、少しずつ複雑な柄に着替えていくという方法だ。年がら年中ケーブルテレビを見続けるのもいいらしい。
「まったく、あたしくらいじゃない。活字になって一度も紙面【32】を闊歩したことないなんて。よし、明日はYシャツを着てみよう。パパなら持ってるかしら」
 父親のワードローブを開けてシャツを探したが、変な覆面【222】が出てきただけだった。
「やあねえ、パパったら、こんなもの何に使うのかしら。いったいどこにあるのよう、Yシャツ。あら、もうこんな時間。〈デスマスク【175】〉がはじまっちゃう」
 ジョージア嬢は慌ててテレビの前に座った。〈デスマスク〉は今最も人気がある視聴者参加番組なのだが、オーガスト夫人は娘にこれを禁じ、ペテローレ御大【72】を小人の置物の中に隠した(〈デスマスク〉が発する視線は馬並みなので、気つけ薬のペテローレ御大が欠かせないのだ)。
 その後帰宅したオーガスト夫人は、テレビの前で気絶したまま倒れているジョージア嬢を発見し、そのまま気絶した。仕事から帰ってきたオーガスト先生【34】は歓喜の声をあげた。おまえたち、私を喜ばせようと、こんなにぐったりして、でかしたぞ、でかしたぞ、でかしたぞ!

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【154】ケーブルテレビ・クレイメーション

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【166】大恐慌・黒子病

 黒子病は全身に黒子が広がる伝染病である。過去に蔓延したときは、黒猫を感染源だと考えて大量に処分したのだが、後に昏睡状態に陥った色が黒子となって連鎖的に眠気を誘っていることが分かった。その頃にはすでに多くの猫【153】が世界から消えていた。慌てたのは文筆家【144】などの常習者ばかりではない。天敵である猫がいなくなったために、隠し通帳【299】として使われていた玻璃鼠が大増殖して市場を暴落させたうえ、食糧を食い尽くしながら各地に押し寄せてコーン【93】でさらに増殖していったのだ。玻璃ネズミの繁殖サイクルで公転していた十二の月【230】が衛星状態を悪化させ、太陽の至る所を一度に隠して太陽黒点を引き起こしたため、これまでその視線に依存しきっていた色が昏睡状態に陥り、黒子病の原因となったのである。

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【153】猫・ある種のプロセス【151】高級官吏ジジジ・リ【6】リンパ線

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【165】愛らしさ

〈愛らしいもの〉は依存性の高さから取り締まりの対象となっており、ほとんどが医師の処方でしか手に入らない。なかでも〈かわいいもの〉は特に効能が強く、医師を通じて入手するにも十歳になるまで待たねばならない。製薬会社は誰にでも訪れる生い(おい)のおかげで、ぬいぐるみや戯画化した薬剤によって多くの収益を得ているが、闇ルートでは子供から取り上げた〈かわいいもの〉を大人相手に売りさばいており、廃人同然の中毒者を増やしつつある。また、〈野生のかわいいもの〉【173】は、相手の判断力を無化して怪我を負わせたり騙したりするため危険だという。
 平べったく丸い形状のヒヨコ【17】は、愛らしさの程度がさほど強くないため食品として購買できるが、ケーブルテレビ【154】で紹介されるときにはモザイクがかけられるので四角い物体に見えてしまう。これこそが出荷時に円化ナトリウム【13】を注入される前の真実の姿なので、テレビには何も隠せねえや、と養鶏場のマラコス氏は口癖のように言うのだった。

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【153】猫・ある種のプロセス【17】成長の早いヒヨコ

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