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【116】犬に見つめられることで・犬の視野

 網膜彩胞の錘状体が乏しい犬の視野に入ると、あらゆるものが彩りを奪われてしまう。野生化してはいるものの、薬局で調合された鎮静剤としての効能を保っているわけである。傷を負った野犬【124】が多く徘徊する頃合いには、景観がおぼろげなモノクロームへと減色していくため、せめて食事時だけでも控えていただきたい、なぜなら黒いトマトなど食べたくはないから、なぜなら黒いトマトなど、なぜなら、と犬厭家の住民たちは輪唱するも、掛け合いに応じるべき動物介護団体【105】の面々が閉口栓をくわえている昨今、犬は紫、青、黄色も識別できるという実験結果が提出されたため、区役所から依頼されたギョエテ師【125】が犬の視野を三色昼寝つきに塗り替えようと準備を整えている。トマトが何色になるのかは発表されていない。

リンク元【111】マデリーンたちははなからそんなことを問題にしているのではなかった

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【115】販売

 大戦前には犯罪更衣と呼ばれていた。通りを練り歩いているモデルたちに素敵な衣装を売ってくれるようお願いすると、婦女奉公しているスタイリストが現れ、客の好みにあうモデルルームを設置してくれる。中に入るとモデルが衣装を脱いで手渡してくれるが、最もウェストがくびれたモデルになると副業に砂時計を営んでいるほどなので、一般的なスタイルの客にとっては二次元のデザイン画を試着するようなものである。それでも無理に袖を通してボタンを留め、さらりと着こなしている風を装っているうちに、誰だか判らなくなるほどに顔が鬱血してくる。体の各所ではドーナツ【43】の小爆発が連鎖的に発生し、時には骨が粉々に砕けてしまうこともある。ファッション・マッサージと呼ばれる服作用である。客は命の危険を感じた時点でようやく購買を思いとどまるが、見る間にモデルルームが撤収されていくので大人しくおじぎ【163】をするしかない。その時に苦虫【285】を噛み潰すのは、買った衣装に袖を通せないからではなく、服交換神経の発達したモデルが、衣裳登録されたばかりの砕身モードに平然と身を包んでいるためである。

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【114】某ファッションブランド・国家・拘束衣・牧場・傷痍モデル

 かつてファッションブランドごとに国家が存在する牧歌的時代があった。つまり国家とは牧場を指していたわけである。
 牧場で罪を犯した者は、牛革の拘束衣で身をきつく締め付けられたあと、乳牛【45】と同様の焼き印(バーンド)を頬に押され、装飾動物の家畜として自覚させられる。だが、その服役が何世代にも渡るうちに、拘束衣の強制による痩身効果のせいか肉体が変容をはじめ、拘束衣自体の機能美が着目されるようになった。人々はいつしか囚人たち(もしくは拘束衣)を洗練された美的存在と見なすようになり、品評会を開いてはその優劣を牧場同士で競い合いはじめた。憧れの対象となった囚人たちは牧師として敬服され、やがて牧場を統治するまでになった。頬にあった焼き印(バーンド)は拘束衣に移されて服印(ブランド)となり、拘束衣は群服に様変わりすると、ヌーディストたち対抗勢力を屈服させながらフォーマルやカジュアルに分岐して一般の人々にまで浸透した。今でも拘束衣の名残はネクタイやサスペンダー、ブラジャーやガーターベルトなどに見られる。
 それぞれに独自の服印(ブランド)を持つ服祉国家がヘンリー八世式【98】モードで全体主義的に群美を整え、モデルたちを服印兵として他国へ送り出すようになると、妬みから小競り合いが生じて見る間に世界大戦へと発展し、恋愛至上主義を称揚する恋合群側(マデリーン【111たちも所属)が、勝利を収めた【120】。敗戦国の民衆は、老齢の頃から着慣れているような素振りで恋合国側のファッション【121】に服従し(それこそが戦争の原因だったと言われている)、区役所の指導にもかかわらず国境は失われてしまった(今でも食卓ではフランスパン【一五】やジャーマンポテトたちが皿の縁を国境に見立てて籠城を続けている)。ただし国家の消失は、旅行会社が行ったモデルたちの輸送業務による服作用【122】だという説もある。

 戦後は手足や顔が部分的に欠損した多くの傷痍モデルたちが活躍し、ギリシャ人による代理石を使った欠損彫刻が盛んになって、犯罪人体測定学【119】に導かれた美の基準は崩れてしまったかに見えたが、現在では出版社【205】からの技術提供によって戦前の水準まで復興できただけでなく、完璧な美への感心が一層高まっている。この気運に応じて、質量の単位がプログラマーの理想的な体重を基準とするグラムに改められた。モデルたちが、骨格や肉付きや肌の質感をよりよく見せるために気に入ったブランドを雇い、彼らに憧れる人々、いわゆる〈戦争を知らない大人たち〉が床屋に足しげく通い【123】、ブランドのニューアイテムも総体的には売れ続け、百科店【83】は発展していった。つまり世界は縮小している。

リンク元【111】マデリーンたちははなからそんなことを問題にしているのではなかった【55】有蹄の四つ足が生えた生物・分化人

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【113】美しさ

 美しさとは、古くは骨相学にはじまり、犯罪人体測定学【119】が極められていく過程において決定づけられた人間性そのものを指す。一生を表す座標では、足跡【42】という時間軸と直角に交わる空間軸を形成している。ただし国家間の垣根【129】が失われ、多様な審美眼【57】が普及してからは、美しさの絶対的な基準も危ういものとなった。区役所【106】ではその基準を個人から取り戻すために、美しさの本質を取り替えや修正が可能な外面にすぎないとして切り離し、これまで架空のものだと考えられてきた内面の存在を公式に打ち出して人間性の一本化を計ろうとしたが、結局は変わり映えのしない審美眼ばかりが流通したことによって危機は去り、内面の存在は撤回されたようである。

リンク元【111】マデリーンたちははなからそんなことを問題にしているのではなかった

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【112】乳牛の内臓・午前と午後

 乳牛の内蔵のうち、特に馴染み深いのは、腕時計として使われる子午の心臓であろう。使用するには腕の血管をつないで、自らの血流で鼓動させなければならない。つまりは自身の心拍モニターに過ぎないのだが、午前と午後という区分が生まれたことからも分かるとおり、一般的な時間の観念を保つためにはそれなりの効果があるようだ。腕時計を身につける必要のない人(例えばベグライテン拍爵【337】の鼓動のリスナーたち)にも愛用者が多いのは、血液が腕時計を循環するときに分泌される厳格剤の中毒になっているためである。
 時計の他にも臓器にはさまざまな用途がある。例えば腸はネクタイとして首にぶらさがり、臍から腹腔に滑り込んで金属の消化を助けてくれるし、脾臓はVTRの素材として役立てられている。

リンク元【108】荘園・雑木林 【45】乳牛 【20】東方・午前の区分

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【111】マデリーンたちははなからそんなことを問題にしているのではなかった

 マデリーンとは、ポップコーン【99】によってこの世で最も人数を増やすことに成功した一個人である。その美しさ【113】から某ファッションブランド【114】の戦属モデルとして艶やかな衣装を着服し、扮装地域に現れては、モンロー主義にのっとった同時多発的なウォーキングによって販売【115】を行ってきたが、近年は動物介護団体【105】が推し進める犬の闊歩によって廃業の危機に直面している。磨きあげた靴【46】を糞で汚されるばかりか、犬に見つめられることで【116】衣装から色彩が失われてしまうからだ。モデルたちは団体への抗議行動として毛皮を身に纏うようになったが、ファッショナブル【121】に見えるだけでなんの効果も上げられないまま、未だ路上では、香水や体臭を脱いで【117】こそこそと歩き回っているため、客も同じようにこそこそと後を追うしかなく、町からは人影が消え、びょうびょうという犬の鳴き声だけが聞こえてくる時間帯にはモノクロ映画の撮影【118】が行われている。

リンク元【105】動物介護団体・スクラップ場

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【110】胴元

 スクラップ場において激しい労働に就いているかに見える従業員たちは、警察の目【38】を逃れるために博徒たちが扮装した姿である。連中は手持ちの駒となる一群の廃品を分配されると、複雑なルールに基づいて動かし、相手の部品をうまく挟み込んでより多くプレスすることで配当を得るのだが、動物介護団体の関与によってすべてが遠い過去の話となってしまうため、胴元は支払いをせずにすんでいるだけでなく、あらかじめ参加費を徴収しているので損害もない。スクラップ場は胴元がまだ靴も履ききらない頃に辿り着くが、賭博師たちはまだ人間ですらない哀れな生き物に配当を請求できず、団員たちは動物介護団体【105】を発足させるために解散を免れないであろう。したがって靴を履いた胴元の元には大量の屑鉄がもたらされ、それを元手に事業を始め、常に腰元をはべらすことを忘れないであろう。


リンク元【105】動物介護団体

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【一○九】人間以外

 動物介護団体が最も奨励しているのは動物実験である。被験して傷ついた動物たちの介護ばかりが目当てではない。実験結果を受けて無数の動物情報で満たされた人間が生と死を逆転させ、手厚い介護の機会を与えてくれる時を強く待ち望んでいるのだ。彼らの活動は、日々生いていくために介護の手を必要としない我々に起因していたのだ。

リンク元【一○五】
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【108】荘園・雑木林

 英国王【98】に貸し出されている領地で、農民一世帯あたり四十行(一行につき四十字)の土地を所有している。主にトウモロコシ【93】やそら豆、羊歯【35】葡萄【181】乳牛【45】などを栽培しているが、実際のところは眼球、腎臓、歯、筋肉、乳房を育てているのと変わらない。それに加えて乳牛の内臓【112】がさまざまな用途に活用されることから臓器林と呼ばれている。昆虫【26】たちには複眼を略奪される目抜き通りとして恐れられている。

リンク元【103】トウモロコシ畑における現地調査【98】ヘンリー八世式・英国王ヘンリー【45】乳牛

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【一○七】観客に対するイメージそのもの

 オーロラ【九五】はモノクルを覗きこむ人物を反映する。その抽象的なイメージを読み取れない観客は、占い師を代理人にしてオーロラを見てもらうのだが、占い師が自身のオーロラを見ているにすぎないと判明したのはつい最近のことであった。それからは自分とよく似た容姿や性格をもつ占い師を探し出すようになったが、占いを生業にしている段階ですでに自分たちとかけ離れていることを知り、彼らのプロファイルに少しでも近づこうと付き人になる者が増えていった。専属占い師と何から何まで瓜二つになった占い師たちが、自身のオーロラを占えばいいと気づくまでにはまだ数年の月日がかかりそうである。

リンク元【一○一】
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