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【251】雨・水の卵

 羊【35】の毛が刈り込まれる頃になると、頻繁に雨が降るようになる【255】。羊毛産業の盛んな六面【32】では、建物の窓にかかるほど低い位置でいつも鈍色の羊たちが漂っている。窓を開けていると、部屋の中をメエメエ通り抜けていくこともある。
 天地を無数の銀線でつなぐ雨は息を呑むほど美しいが、どの銀線にも八本の脚を伸ばしたクモが一匹ずつつながっていることを忘れてはならない。言い換えれば、クモが尻から糸を吐き出しながら羊から飛び降りてくるのだ。地上に降り立ったクモは、素早く動き回ってクモ隠れする場を探しだすと、背中の殻を割って脱皮し、水滴への変態を終える【256】。この一連の行程が、雨と呼ばれる気性現象【257】である。
 水滴は羊水池に貯め込まれるが、そのままでは円素【13】の含有量が多すぎて飲料水には向かない。三角や四角の不純物など混入する余地のない完全な球面は、互いに滑り合うため扱いが難しい。一粒ごとつまんで喉に流し込んでも、金融器官【19】の内壁に吸収されないまま流れ出てしまうため、円を下落させて液状の羊水(ラムネード)になるまで溶かしてから、羊水路を通じて市民に供給する。
 人々の体内を隅々まで巡るうち、諸器官の多様な形状に汚染される羊水は、気味の悪い排泄物として下水道に流され、水滴の姿を取り戻そうと闇雲に変態を繰り返しながら海にたどり着く。そこでカルサワ君【12】たち愛円家が投入する円化ナトリウム【13】を吸引すると、形態がようやく安定期に入り、海【87】という巨大生物(【90】【180】を参照のこと)の彩胞として鼓動を始めるのである。
 海は太陽のいやらしい視線【159】に犯されると、おびただしい量の微細な卵を産卵し、海上に霧として漂わせる。上昇気流で従力の均衡な浮遊層にまで吹き上げられた霧は、羊たちの餌となり、羊歯ですりつぶされるたびに減数分裂してクモへと孵化するのだ【258】。

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【244】この部屋を元通りにしてほしい【169】この事実には戦慄せざるをえません。【35】空にはみっしりと羊が浮かび・羊歯

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