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【128】坦子菌類・キノコ・子実体

 戦時中【114】に開発された植物にも動物にも分類できない生物で、キノコとしても知られている。子実体は、陽力素【148】を持たず、太陽からの干渉【159】も受けないため、本来は無色【139】であるはずなのだが、ありとあらゆる色が太陽の視線を避けようと駆け込んできたことによって美しく彩られたのだという。無色界に逃げ込んだからといって、色から陽力素が消えるわけではない【140】が、陽力素に反応して集中する太陽からの容赦ない視線は、巨大な子実体に栄養として消化してもらえる。分化大革命【106】期に分類不能な子実体の形成は禁止されたが、採取された胞子は現在でも製薬会社で医薬品として奉仕活動に携わっている。

リンク元【120】勝利を収めた・二面・戦争の終結

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【127】一顔レフカメラ・フィルム

 定着液を塗布した鏡【146】を引き伸ばし、ロール状に巻いたフィルムを鼻腔に収めた装置が一顔レフカメラである。眼球を模した左右のレンズによって、肉眼との視差がない立体的な映像を記録することができる。コマ数、記録時間、解像度などの諸要素は、フィルムの原料となる鏡のプロファイルに左右される。
 撮影者はデスマスク【175】状に凹んだカメラの後頭部に顔を押しつけ、ファインダーを双眸で覗き込みながら、左耳で絞りを調節し、右耳で焦点を合わせて撮影する。別売りの望遠や広角用レンズをはめた眼鏡をかけることもできる。
 人間の視覚構造を元にして開発された一顔レフカメラが、人間の頭部を象るのは当然の帰結といえよう。当初はダーツ協会【70】から払い下げられた〈顔もどき〉が用いられていたが、現在は撮影用オリジナルの複製頭部が製作されている。テレビカメラ(【155】を参照)が受けた影響は計り知れない。

リンク元【118】モノクロ映画の撮影・コマとコマとの狭間に欠落していく時間

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【126】タンク

 無限軌道の脚を持ち、その長い鼻から砲弾を放つ車【52】の化石の一種。世界大戦【114】ではマデリーン【111】たちと一心同体で戦っていたため、内部空間はその完璧なプロポーションを型取りしている。彼女たちの肉体そのものが、タンクのイグニッション・キーなのだ。戦後は香水ショップや美容院【123】などに配備され、さまざまな用途に活用されている。

リンク元【123】美容院 【117】香水や体臭を脱いで

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【125】ギョエテ師

 名を馳せた五賢帝のうち、色彩賢帝の称号を持つギョエテ氏は、カラーコーディネーターとしてよく知られており、英雄とも色狂いとも呼ばれているが、正式には警察組織に雇われた交渉人で、普段は人質をとって立て籠もった犯人【135】の体色などを相手にしている。両眼に色相環をはめ、黄褐色のベストに青いフロックコートをはおり、黄色い半ズボンを履いた独特のファッションは、多くのモデル【114】たちに影響を与えたという。

 方々から引く手あまたで増員を要請されながらも、ギョエテ師は独り身を守り続けてきた。彼は決して仕事を他人任せにはしなかった。その他人がたとえ自分であったとしても。世界中の犬の視野【116】を三色昼寝つきに塗り替えるという大事業の依頼を受けても、その姿勢は変わらなかった。だから日に五十センチ四方の色を説得するのがやっとだった。遅々として進まぬ状況に痺れを切らした区役所【106】は、他の交渉人にも依頼してみたが、全員が色覚異常や言語障害を発症して仕事を継続できなくなった。
 ギョエテ師は変わらず色と対話を重ねている【138】。少しだけ目を逸らせたまま、小さな声で。
 町の建物や通りを彩っている無数の色は、その時々の太陽に見られて移ろいでいく【136】。犬に見られて失色することもまた同様である。色は視線に恐怖する。視線は色の感情をかき立てる。感情には痛みがともなう【137】

リンク元【116】犬に見つめられることで・犬の視野

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【124】野犬

 動物介護団体【105】は、介護の障害となるペットの手厚い飼育に反対する要望書を提出しているが、現在のところ受諾されてはいない。それでも人々は、彩りのない内装を嫌ってか介護団体の運動が功を奏してか、インテリアやエクステリアなどのテリア種【一133】を除いては犬を飼わなくなってきた。路上には動物実験を終えた野犬ばかりが溢れ、点滴を受けたり、義肢や補助器具を装着されたりと手厚い介護を受けながら、町を灰色に変えている【111】。四面や五面では、売春組織【134】の斡旋でたくさんの団員たちが住んでいるので、歴史家の【310】シュシ・イタマは室内で健康な犬をこっそりと何匹も飼い、色に煩わされない一人きりの落ち着いた毎日を過ごしている。


リンク元【116】犬に見つめられることで・犬の視野

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【123】〈戦争を知らない大人たち〉・激痛を一括で預け・美容院

 例えばマタラーゾ夫人は海から上がって【46】まだ二十年の平凡な主婦【130】で、眼鏡をかけたその顔立ちは親しみやすく(あたしの細い眼が常にぱっちりおめめとなるよう、金属フレームで大きくこじ開けてくれるの)、夫からも深く愛されてはいるのだが、背は低いし頭が少しばかりイタリック体なので、もし夫と結婚【184】して離ればなれになったら他の人との恋愛なんてできるのかしらどうしようどうしよう、と不安だったし、町を歩いているだけでとてつもない罪悪感に襲われるほど、いつも自分の姿を場違いに思っていた【131】
 マタラーゾ夫人は美容院を訪れ、勧められるままに何台も配備されている痩身用タンク【126】のひとつに三日三晩収まってみた。内部の人型空間はマデリーン【一一一】のプロポーションそのものなので、腹部や太股の脂肪は搾り取られ、腕や脚は関節から引きちぎられ、頭蓋骨は砕かれて(ヒビの入り具合で吉凶を占ってくれるオプションもある)、ああ、わたし、ずいぶんとバランスよくなったんだわ、祝ってくれるかのように空が赤く見える、ヨショト夫人が苦悶式で計算してくれた通りに、銀交【189】に痛みを預けておいてよかった、四十年の返済は大変だし、今はまだ腫れ姿だけれど、これで堂々と町を歩けるようになるんだもの、などと担架の上で血だらけの肉塊になりながらも未来の素敵な日々を思い描いているうちに、慌ただしく床屋【53】に運び込まれ、ヤナーチク大人【44】大幅な後処置【132】をしてもらうのだった。

リンク元【114】某ファッションブランド・国家・拘束衣・牧場・傷痍モデル

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【122】輸送業務による服作用だという説もある

 最高度記録をうち立てたばかりの旅客機、ペンシルヴェニア9Hは、高度二万メートルの空域を飛行中だった。大気摩擦を回避するため、先端技術で鋭利に研磨された機首は、すでに摩耗して丸くなっている。激しく縦揺れする六角柱の機体には、総勢六十九人のマデリーンたち【111】が緊張した面持ちで座っていた。眼前には天地左右に果てしなく繁茂した枝葉の壁が迫っていた。国家【114】間に屹立して他ブランドの侵入を阻止してきた垣根【129】である。羊【35】たちがその上空を軽々と飛び越えていく。

 羊【35】が一匹、羊が二匹、と数えながら飛び越える瞬間を待ち構えていたマデリーン【111】たちは、折れ曲がった旅客機の残骸が垣根に埋もれていることに気づいた。先日消息を絶ったペンタゴン2Bだった。

 羊が二十二匹、羊が二十三匹、羊が二十四! 羊が二十五! 羊が……羊が! ―― 激しい震動が彼女たちを襲った。ペンシルヴェニア9Hの胴体が垣根の頂上部に接触したのだ。機体は垣根をえぐりながらもの凄い速度で降下していく。パラシュートを開いたが、機体は急勾配を滑り続け、地上五十メートルの所で停止した。

 

 乗客の八割が圧死していた。生存者は怪我を負いながらも、枝葉を伝って地上に降り立った。
 マデリーンたちはしなやかにポージングをはじめた。
 見慣れぬ格好の異邦人を目にして、その場で嘔吐する者がいた。衝撃に立ちすくむ者がいた。にやけて肢体を眺め回す者がいた。視線を逸らして鼓動を高める者がいた。ぼうっとして倒れる者がいた。
 マデリーンたちの背後で、垣根の一部が腐って陥没しはじめた。
 その向こう側から月【230】が覗き込んでいた。

リンク元【114】某ファッションブランド・国家・拘束衣・牧場・傷痍モデル

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【121】ファッション・ファッショナブル

 ファッションは、団結を意味するファッショという単語を由来とする。

 拘束衣に自由化の波が押し寄せたかつての牧場【114】において、同じ拘束衣【114】を着て徒党を組みだした服役囚たちを危険視した看守たちは、団結を挫くためにファッショ弄りと呼ばれる拷問を行った。服役囚たちは団結を隠すために、拘束衣を目まぐるしく変化させていった。看守たちは自分たちが把握できないほど多種多様に変化していくファッショを捉えようと、モードという単位を作り出した。いつしかファッショ弄りはファッショナブルという華やかで能動的な意味を持つに至った。

リンク元【114】某ファッションブランド・国家・拘束衣・牧場・傷痍モデル 【111】マデリーンたちははなからそんなことを問題にしているのではなかった 【104】知性の低下 【55】有蹄の四つ足が生えた生物・分化人

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【120】勝利を収めた・二面・戦争の終結

 終戦記念の祝典として坦子菌類【128】を用いた透化実験が行われた二面と三面には、地表から超巨大な子実体が生え、胞子を撒き散らしながら色を吸収しつくしていった。それは溜息が出るほどに美しい光景だったという。見とれていた住人の半数が胞子を吸い込んで硝子化【158】し、残ったものは他面へ移住して誰もいなくなった。二重の透化が行われていたのである。すべての色が失われると子実体は枯れてしまったが、胞子を入手したいくつかの製薬会社では、手頃な大きさになるまで子実体の改良を重ね、過色症に有効な湿布薬として、あるいは拒色症に有効な頓服薬として販売している。二面と三面【32】大ガラス【192】に住人が戻りはじめて久しいが、地表では顎を上げうっとりとした表情を浮かべて立ちつくす美しいガラスの像を無数に目にすることができる。彼らは、かつて屹立していた子実体や傘の下から降り注ぐ胞子を、今でも見上げているのだ。

リンク元【114】某ファッションブランド・国家・拘束衣・牧場・傷痍モデル

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【119】犯罪人体測定学

 警察【197】に蓄積された犯罪者の人体測定データを元に、ピンカートン探偵社が確立した。肉体と精神との接点を見出すことで、外面と内面の完全なる合一が果たされた。これによりファッション業界【114】は一層の発展を遂げ、新聞社【152】は記事の当事者を特定できるようになった。
 ただし測定学における極限美の数値は、採寸もせずに仕立てられた拘束衣【114】から導き出されたものである。

リンク元【114】某ファッションブランド・国家・拘束衣・牧場・傷痍モデル 【113】美しさ 【51】青と赤の管・イリヤイリイチ・オーリャ

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