注釈の注釈による超現実詩小説
棺詰工場のシーラカンス
【172】平行線の焦点を結べばよいのです・色と物質は同じものである!―― ノキタハ博士の論文7
まあお聞きください。区役所【106】がどれだけ規制しようと、物質と色は容易には切り離せないほど相互的に影響しあっています。物質の種類の多さを表すのに〈色々〉という言波が使われるほどですし、オレンジやローズなどのように物質の名称が色そのものを表している事例も珍しくありません。同色であっても、物体ごとに独立した人格(色気)を有しているわけですし、異なる色が混ざっていてもひとつの物体ごとに、一人の色として振る舞うことからもわかるように、色々というのは物体に限定されながらも統合された共通意識であると考えることができるわけです。
ここでひとつ疑問が湧きませんか? 我々人間の体を覆っている色は、なぜ沈黙を守っているのでしょう。宿主にびくびくしながら寄生しているから、でしょうか? オホン、ゴオン。失礼。まだ仮説の段階ですが、これをお話しすることで、世界はわたくしの存在を疑いはじめるかもしれません。率直に言いましょう――
我々は色という生物の一種族なのです。
考えてもみてください。我々はいつも相手の顔色を窺っています。色眼鏡にかなったりもします。有色人種【178】はカラーズと呼ばれています。そう呼んでいるのはホワイトです。我々は長い年月に渡って、自然界には存在しなかった色々な色を産み出してきました【179】。
信頼のおける床屋【53】であるタヴィアーニの旦那【298】に、カルサワ君【12】という人物の皮膚を一部分、綺麗な林檎形にカットしていただき、ギョエテ師【125】に対話を試みてもらいました。予想していたとおり、肌の色は何も物語ってはくれませんでした。つまるところ人間とは、頭に感覚器官や思考器官を集中させることによって、発声や思考を行う際の痛みから解放された、色なのです!【180】
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【162】色の方では宿主の実在を疑っている――ノキタハ博士の論文5【147】弁護士のメイソン氏【140】色から陽力素が消えるわけではない・物質と色の同一性―― ノキタハ博士の論文1【136】太陽に見られて移ろいでいく