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【335】亀

 海【87】から上陸【46】したばかりでまだ物心がついておらず、なんの抵抗力もない老人の膝頭は、格好の冬眠場所として亀に好まれている。膝頭にもぐり込んだ亀は、甲羅から内容物を表す構造式が消えると、手足を引っ込め、まるで元より人体の一部であったかのように冬眠を始めるが、人間の逆向きの成長サイクルに阻害されていつまでも目覚めることができない。

 出家した僧侶【10】たちは、蝋足から取りだした膝頭をニードロップとして頬張り、じっくりと味わう。喉が渇いた時には、亀甲絞りによる甲羅という清涼飲料水もある。

 一方ユエン家【332】では、シャオロン尊師【332】が自慢の医師免許を活かして、道行く人々を相手に無料の脚気診断を行っている。尊師は大きな鉄のハンマーで、通りすがりの両膝にそれぞれ強烈な一撃をお見舞いする(花束持参で)。膝の皿には瞬時に六角形の亀裂が入る。その構造式どおりの液体を甲羅に満たそうと亀が冬眠から覚醒し、手足を伸ばして膝から這いだしてくる。驚いた通りすがりの足が思わぬ方向に跳ね上がり、亀は無事ユエン家の敷地内に落下。地面にて繁殖を始めるのである。一度でも開放された膝の自由度を経験してしまうと、元いた社会には戻れない。視外線【188】に乗ってお忍び旅行にやってくるリッター元帥【194】は、膝当てを外して無数の亀の上に立つと、なんの遠慮もなくぐにゃりぐりゃりと歩きまわって甲羅を粉々にしていくのだった。

 なんたる開放感! なあんたる、なああんたる開放感! 

 

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【332】シャオロン尊師・ユエン家 【299】通帳 

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【334】考母

 書物【205】の頭部に収まっている葉状体を模した部分は、読者との柔軟な対話を可能にするために文子【216】の変成を行う唯一の器官なのだが、書物(論文などが好ましい)から取り出すとすぐに結合が解け、考母と呼ばれる単彩胞の様態をとる。すると、透分【169】を含む果実や伝聞質をアルコール発考させるようになる(書物の尿のアルコール濃度が高いのはそのためである。なかでも酒びたりのものは亀甲本と呼ばれる)。アルコールを摂取すると、考母の論理構造に沿った脳波【85】が再現されるため、その内容と飲用者が備える知性とのかねあいによって、気持ちよく酔うことにも悪酔いすることにもなる。一時的な駆け引きに過ぎないので、酔えば酔うほど理解や知識が増していくというのは単なる錯覚である。詳しくは考母ガイドを読まれたし。

 

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【332】シャオロン尊師・ユエン家  【186】入院時の足跡検査 【50】聖ジェルマン拍爵・ドーナツ穴

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