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【266】所蔵者が同伴していない

 書籍が列車に乗るときには所蔵者が同伴していなければならないが、その所蔵者になってもらうために布教しているのだから、所詮ラザロ【261】には無理な相談なのである。
「我々が創りだした神へと至る道【4】列車【193】がなぞっていくのは喜ばしい限りだが、我々が列車の中を通ってしまったのでは本末転倒だ」という、大地の響きと区別のつかない大僧正【214】の言波からも分かるとおり、送り出してくれた僧侶たちは決して列車に乗ろうとしない。よって、どのラザロも一人で身を隠しながら列車に乗り込まねばならない。

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【261】密航者のラザロ

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【265】常軌を逸した世界

 こっちの世界【268】にきてからひどく無駄口が多くなっちまった。そのせいで聞いているお前【237】の方も頁圧が高くなって大変だな。降圧剤の白服【29】を文字通り服用すればいいんだろうが、ここでは見当たらない――これを独り言っていうんだな。違うって? いや、今のも俺の独り言だ、忘れてくれ。お前はただ記録するだけで喋ったりなんかしない。それも違う? やけに否定するんだな。ああ、なるほどお前は喋っているさ。でもお前は過去の俺みたいなもんだ。だからやっぱりこれは独り言さ。この調子なら探偵【242】で食いっぱぐれても喫茶店【224】なら雇ってくれるだろうぜ。とにかく、俺たちはここが第三世界【268】と呼ばれていることを知った。確かに常軌を逸している。普通なら卒倒しかねない場所だ。なにしろ連中は死に向かって生きている。こんな物語めいた馬鹿げた話があるだろうか? 街にはご禁制の品々が所狭しと並んでいるし、めったに頭なんて下げやしない。代わりに紙切れや金属片が使われている【269】。いわゆる偶像崇拝ってやつさ。俺には蟻難いことだがね【270】


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【260】犯人はサランジュ師だ【225】どちらも夢でしか出入りができない

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【264】虹

 各紙面【32】が公転や自転によって特定の状態に整列すると、滑らかな水銀【256】のアーチが鮮やかな七色の帯で彩られる。ただし〈鮮やかな七色〉というのは区役所【106】による推奨語であって、他の表現も可能である。時には、渋い伝統色やその年の流行色が空を彩ることもある。帯の色は、赤道【220】、植物の町並み【213】、空、荘園【108】などが映り込んだものだが、その見え方には審美眼【57】、つまり人種【178】の違いが顕著に現れるため、七色というのも便宜的なものに過ぎない。
 虹という表記から窺えるとおり、生物学的には水銀の外殻をもつ昆虫【26】に分類される。世界にアーチをかけるため、水銀の内部ではエ鋼【336】を次々に組み合わせて自重を支えていると推測される。

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【256】水滴への変態を終える・水星・水銀【182】街路に眼を向ける・集色活動

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【263】海面を大きく波立たせながら

 水星【256】の公転によって一日に二度引き起こされる大波は、ビッグ・ウェンズデーと呼ばれるサーファーたちの聖域である。サーフボードから一度落ちてしまえば二度と戻って来れないフラットラインの海【87】で、サーフィンがスポーツとして成り立つこと自体が奇跡的なことなのである。だからサーファーは誰しもがビッグ・ウェイバーとして崇拝されている。そのなかでビッグ・ウェンズデーに立ち向かえるのは、至上のくるぶし【7】によって超絶的なバランスをとるアンクル・ボブ【291】ただ一人だけであり、ファンにとっては彼こそがビッグ・ウェンズデーなのである。大波のないときのアンクル・ボブなど、レスキュー隊のダイバーに過ぎない。そのことがアンクル・ボブを狂おしく悩ませる。

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【256】背中の殻を割って脱皮し、水滴への変態を終える・水星

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