注釈の注釈による超現実詩小説
棺詰工場のシーラカンス
【315】恍惚文字
恍惚文字とは、何層にもわたって研磨を繰り返し行うことで刻印される聖なる文字である。百科事典【83】として記され、結果的には墓碑銘となる。読みとるには指先でなぞるだけでいいのだが、虹色にうつろう艶やかな文面から放射される歴史【302】の威光が、精神をやたらと高揚させて思考力を鈍らせるため、今では歴史家【310】を枕詞に使う人々、書物【205】、存在しない第三世界【268】の住人にしか読解できないという。それゆえ恍惚文字そのものの信憑性が疑われている。三百六十にも及ぶ円素【13】に満ちたこれらの項目も恍惚文字で記されていることを鑑みて、各々に公正な判断をしていただきたい所存である。
【314】鵜呑みにした
魚【87】は尾ひれ【80】をきちんと切り落とした上で料理して食するものであるが、なかには宙を泳いでいる魚をそのまま呑み込んでしまうものもいる(その習性から鳥の弟分として鵜の蔑称を与えられている)。尾ひれがついたまま魚を消化すると、カモフラージュとしての信憑性のない話まで盲信してしまい、さらに尾ひれの増した魚を口から泳がせてしまうのだが、見るからに鵜産臭い変種ばかりなので、なんでも鵜呑みにするような連中しか鵜呑みにしない【318】。病院の看護師宛に届けられたオーガスト先生のメッセージ【308】も、きちんと料理さえしてあれば、お隣さん【30】の硝子化を伝えられたはずである。
【313】だらしなく座っている公衆伝話
公衆伝話とは、驚くほど多産なヤドゥア一族が始めた親子伝話で、各地に伝話器として設置された臍帯者が、ビッグ・ママとネーブル・コード(臍の緒【338】と呼ぶのをビッグ・ママは許さない)で代々つながっている。街灯【308】を使うよりも素早く通話できるため便利なはずなのだが、伝話器に面と向かって話さねばならないのでプライベートな会話はしづらいし(なにしろ一族全員に聞かれてしまうのだ)、彼らのだらけた態度や、美しいとは言い難い容姿のせいで不快にさせられる【317】。今では公衆伝話というよりも、胡散臭い商品を売りつけるキャッチフォンや、人々の秘密を覗きまわっては脅迫する監視カメラとしてよく知られている。
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