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【164】衝突を装った活字どうしの馴れ合いも絶えない

 新聞各社【152】活字【23】の隊列が急ぎ足で紙面【32】を行進していると、運悪く十字路で鉢合わせすることがある。どの隊列も先を譲ろうとはしないので、当然小競り合いが始まり、ひどいときには虐殺に発展することもある。かつての国家【114】が復活する予兆だ、と期待する者もいたが、戦争にでもなれば記事の当事者になってしまうという矛盾が生じるため、争いごとが起きると活字たちはすかさず劇薬を服用する。効果はすぐに現れる。憎悪に駆られた活字が、〈刀〉を憑依させた右腕で他社の活字を突き刺すところから、すべてが迫真の演技にすり替わっている。役に没頭しすぎて憎悪はみなぎったままだが、〈刀〉は敵の腹を貫いたようにみせて脇腹を滑り抜けていく。相手は痛くもない腹を抑えて蒼白になり、膝を折って地面に崩れ落ちる。十字路一面に散らばった死体は、頬に蠅がとまっても瞬きひとつしない。ひと通り殺し合いが終わった頃には劇薬の効果が薄れ、どこで芝居を終わらせたらいいものか判らなくなる。活字たちはわずかに顔をあげて互いの様子をうかがい、腰をあげたり戻したりしながら不揃いに立ち上がる。通りすがりの観客たちに拍手を送られながら困惑した表情で頭をさげると隊列を組み直し、目的地に向かって十字路を後にするのだ。

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【152】新聞社

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【163】おじぎ・礼・造幣局・礼蔵庫

 かつて神には幣(ぬさ)というお供え物が捧げられていたが、受け取ってもらえたためしがないので、なにも申さず頭をたれるようになった。礼(俗称おじぎ)の誕生である。それはまた礼長類につながる階段への第一歩でもあった。神に向けられていた礼は、民衆の間で個人に向けた感謝の印として用いられるようになり、その度合いに応じて物品が売買されるようになった。指向性を持つ礼は、向けられた対象にのみ記憶され、その対象が同じ動作をなぞった瞬間にかき消えてしまう。脳(【85】【79】を参照のこと)の可塑的な構造に依存していることから、脳疾患や薬物摂取の影響を受けやすく、取引の混乱を防ぐため、これまで幣を生産していた造幣局が基準を管理することとなった。それ以降、処刑場から集められた首切り役人【156】の首が、礼蔵庫として多様な礼儀のパターンを蓄え続けている。首切り役人の脳は、常に多幸症の状態にあるという。

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【151】高級官吏ジジジ・リ【141】貴族のように【129】垣根【115】販売【101】人間のものを観賞する機会【70】ダーツ協会【58】襟(きん)【46】上陸してくる無数の人影・靴【11】最初の顧客【8】目的地【6】リンパ線

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【162】色の方では宿主の実在を疑っている――ノキタハ博士の論文5

 ヒューマニストの方々には少々刺激が強すぎる仮説を述べさせていただくわけですが、そのためにはまず色がどういった存在なのかを考えなければなりません。わたくしを除いた我々のほとんどは、色を生物とすら認識しておりません。いやいやそんなことはない、わが輩は生物として認識しておるぞ、という方でも、物質の寄生虫ぐらいにしか思っていませんし、その寄生虫が言語を持ち合わせているなどとはにわかに信じられないのです。そのため、カラーコーディネーターや塗装屋といった呼称は、精神疾患のいち症状と誤解されているほどであります。色彩賢帝の称号を持つギョエテ氏【125】ですら、正式には交渉人扱いなのです。だからといって彼らを責められましょうか! なぜなら色の方でも、物質、ひいては我々の存在を否定しているからであります。互いに主張を通せばどこまでも平行線です。ではどうすれば良いのでしょうか。遙か遠くを眺めて平行線の焦点を結べばよいのです【172】

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【149】Cを35%ほど増やしてYを0・遺伝情報【147】弁護士のメイソン氏

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