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【348】ヨーゼフ

 普段は一時間に一度しか鳴らず、時には三日も四日も途絶えてしまう一方で、唐突に激しいリズムを連打することもあるヨーゼフの心臓【333】は、今日明日で停止するだろうと評論家筋に言われながらも、すでに五十年近くも耐え続けてきたため、死と隣り合わせの人々にとっては希望の放送となっている。ただし、ヨーゼフの時間感覚に同期してしまうとパニック状態に陥り日常生活に支障を来すため、リスナーは鼓動をひとつ確認して安否を確かめるとすぐにチャンネルを変えるのが常だが、ミラー氏の母親【338】だけは台所仕事をしながらずっとヨーゼフの放送を聴き流している。それはヨーゼフがミラー氏の母親の心音を聞き続けているおかえしであり、ふたりは遠く離れた場所にいながら親密にワルツを踊り続けているのである。

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【343】長い間不平を独りごちていた

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【347】耳打ち

 お通耳とも呼ばれる。部外者に知られてはならない極秘の内容に関しては、相手の耳袋に中指(任意の指でよく罰則はない)でモールス信号を打って伝えるため、話しの具合によっては痛みを伴う。90646号【274】が側にいなくなってからというもの、デューイ所長【90】がなにも打ち明けられずに苦悩しているのをファーネス課長はよく知っていた。今ではベグライテン記念日【339】と呼ばれているその日、これまで経験したことのない耳打ちの痛さにすべてを把握したのだった【352】。ただ、どうして一階にいる一介の一塊の課長にすぎない私に? と不思議でならなかったのだが。
 デューイ所長はオーガスト先生が主宰したパーティー【34】で二十年もののケーキを寸分の狂いもなく十等分に切り分けているときに、ノキタハ博士【147からある研究成果を耳打ちされたという—— ご承知の通り、普段我々が目にしているのは、視線の交流によって得ている限定的かつ相対的な仮装世界にすぎません。このことは、カメレオン【305】眼球【66】など真似菌【312】の存在や、ポップコーン【99】といった現象からも明らかですが、区役所【106】員ともあろうあなた方はこのありきたりな事実の重要性を見逃しています。あなた方は夢の存在を否定なさっていますが、それは第三世界【268】を切り離すための方便にすぎません。このパーティーに出席している面々なら誰だって承知している明白な事実です。そう怖い顔をなさらないでください、わたくしは第三世界に対する処置を非難しようというのではなく、あなた方の処置が間違った前提に基づいていることをお伝えしに参ったのです【353】。

 

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【339】ベライデイゲン公爵

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