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【81】舌鼓

 味蕾の突端部に位置する振動膜で、飲食物の成分に共鳴することで乾いた吸着音を打ち鳴らし、色波(いろは)【94】を発生させて脳に情報を伝えるのだが、その一方で脳からの色波(いろは)を言子【216】へと変換する役割も果たしている。変換された言子は魚に結合することもあるが、話のもたつきから尾ひれがつかず、舌と癒着したまま舌平目(カウボーイに多い症状であることからウシノシタ科に分類される)になることもある。舌平目は横目【38】などと同じような透病の初期症状である。すみやかに舌ごと床屋で切り離し【91】銀交【189】で積み立てておいた念菌の再移植をお薦めする。もしも舌縁状態のまま放っておけば、透病【158】を悪化させるばかりか、世界とのとっかかりを失ってドーナツの穴に落ちてしまいかねない。というのも、それぞれの味蕾が銀河の星々との等しい固有振動数を保持しているおかげで、我々はこの世界に固定されている【92】からだ。

リンク元【71】クチコミ・報道帰省

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【80】尾ひれ

荷伝した文子【216】と空気中に漂う誇張蘭の花粉が結合することによって組成される。話に自立的な推進力(いわゆる言子力)を与える一方で、魚の組織を固定する留め金の役割も果たしているため、デマ枷とも呼ばれている。もし尾ひれが形成されなければ、せっかく肉づけされた話もただの音として空中に霧散してしまう。魚の組織中では最も明確な形状を持ちながら、その曖昧かつ濃厚な味で舌鼓【81】の膜をだらんと伸ばしきってしまうため、料理人によって切り離されて棺詰工場【349】に出荷される。解剖学的には尾、魚、老、日の四つの大まかな部位に分けることができる。

リンク元【78】魚 【71】クチコミ・報道帰省 【18】フランス人

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【七九】泡子・気泡

「上陸後すぐに亡くなった人々の検屍結果【八九】から、側頭葉にはあらかじめ多量の泡子が隅々にまで敷き詰められていたことが判明した。海中では外敵から身を守る恰好の繁殖場だったのだろう。その間何をエネルギーにしていたのかは定かでないが、上陸後は脳波【八五】の照射を浴びて成育しながら泡子を撒き散らし、受精や発芽を繰り返しているようだ」という海洋大学の研究結果は、「側頭葉は〈気〉すなわち〈精神〉が実体化した〈気泡〉を蓄える脳の一器官である」と区役所【一○六】によって校正され、海との関連【九○】を切り離された。いずれにしても我々の意識は空気に触れた途端、泡と消えてしまうのである。

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【78】魚

 尾ひれのついた話の総称が魚であり、クチコミと呼ばれる声帯系を築いている。
 水中には生息しないため、反水魚(たんすいぎょ)とも呼ばれる。
 はなし言波(ことば)(文子結合した言子(げんし)【216】の波)が一定の情報量を持つ起承転結(骨子)を組み上げると、修辞による肉づけがはじまり、空気中に漂う誇張蘭の花粉と結びついて尾ひれ【80】を形成し、言子力によって泳ぎはじめる。喉元まで出かかっていたり、言いかけて飲み込んだりした言波は、胃の中で鍍金加工されて金魚として漂いはじめる。いずれも音玉じゃくしと同じく言生動物門としてくくられているが、一喉(こん)、二喉と数えられているとおり、聴覚ではなく味覚や喉ごしでとらえられる。
 尾ひれ以外は結合が不安定で視覚的にも朧気なので、その存在を明確にしようと、区役所【106】は海洋大学の教授であるオーガスト先生に、〈海に泳いでいるとされる魚【87】〉に相違ない、という署名活動を街頭で行わせた結果、五億人の署名【88】が集まったため、尾ひれのついた話を言生動物門の魚類としてしぶしぶ認定した。味わった話はまた新たな魚となって泳ぎ出すため、すべてを参照魚(サンショウウオ)と一括りにする向きもあるが、咀嚼する人によって一段と身が締まることもあれば、尾ひればかりが肥大することもある。

リンク元【72】ペテローレ御大 【71】クチコミ・報道帰省 【6】リンパ線

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【七七】外部世界のミニチュア

 仮装現実ともいう。眼球の内外どちらが外部世界のミニチュアなのかは、驚くことにまだ実証されていない。そのため衛星局【二三○】では、全人類が同時に眼を閉じても世界が消えてしまわないよう、白服たちから瞼を削ぎ落としている。彼らは瞼がないなりに眠る術を心得てはいるが、眠っている間は目覚めている状態と寸分違わない夢を見続ける。

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【七六】二つの相似する世界をつなぐ味

 それは、つまり、それは、つまり、フレンチクルーラー【八六】のことなんですよう、とスパインおばさんは宣伝を忘れない。

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【七五】脳のひだ

 脳波【八五】を指している場合もあるが、一般的には側頭葉や前頭葉など、人が海中にいた頃の名残りだと考えられている藻類の葉状体のことをいう。音玉じゃくしは、幾重にも折り畳まれたひだを押し広げながら縦横に通り抜けていく。その際ひだの内側に張り付いている無数の気泡【七九】を揺さぶることで、喜怒哀楽の感情を我々に生じさせるのだという。

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【七四】音玉じゃくし

 音玉杓子とも書かれる。音が旋律へと移行した拍子に組成される、黒い玉に尻尾のついたシンプルなデザインの言生動物。表皮はぬらぬらとして手づかみできないが、尻尾を硝子化した杓子という捕獲器具なら、音玉の部位のどこにでもぴたりと吸い付く。杓子に刻印された譜面は計測に最適なため、杓子定規としても重宝されている。
 全身をくねらせながら耳の中に押し入る音玉じゃくしは、脳内を巡りに巡ってもう一方の耳から這いだしてくる。それが快感となるか悪寒を伴うかは人それぞれである。喋っているだけでも声が旋律を帯びるとぽろっと現れて耳孔をよぎることがある。両耳を素通りしたあとは空気の波間にかき消えてしまうが、なかには海馬【七三】のあたりに居座ったまま転生を繰り返すもの【八四】もいる。

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【七三】海馬

〈海に泳いでいるとされる魚【八七】〉の一種で、海底を歩いている老人たちの耳孔に産みつけられた卵が、上陸後に脳内で孵化したものだという。それが真実だとすれば、地上で確認された数少ない本物の魚だということになる海馬は、頭部の側面に密生している海藻の葉状体、いわゆる側頭葉に付着している多量の泡子【七九】を長い口吻で吸い込むと、消化吸収して側頭葉に排泄する。当初は数多く生息していた海馬も、雄の育児嚢を繰り返し蛙に占有されたり(その間はアルコールへの耐性が失われる)、衝撃を受けるたびに鎧状の骨質板が剥離したりするうちに、人が生まれる頃には死滅してしまう。

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【七二】ペテローレ御大

 知恵の輪はずしをしていないときには、気つけ薬として方々の家庭に処方されている、無口でとても小さな男である。こぼれ落ちそうな眼で異変を察知するだけではない。ただ彼が家にいるだけでどんな家族であれ身を引き締められるのだ。
 二月三日付のヨショト家で、ヨショト夫人がヨショト教授のルドヴィクス症候群【八二】に対する抑圧から卒倒してしまったときには、棚から軽やかに飛び降り、夫人の頬に平手打ちを往復させて意識を取り戻させた。
 同じく二月三日付のミラー家では、夫が卵を助手席にのせて今もまだ列に並んでいるため、二人の子供を連れて百科店【八三】の売場を往復しているだけの毎日を送っているミラー夫人が、ケーキ用の卵白を泡立て器でかき混ぜているうちにその楕円軌道から抜け出せなくなってしまったので、棚から軽やかに飛び降り、夫人の頬に平手打ちを往復させて意識を取り戻させた。
 まるでペテローレ御大が何人もいるかのようであるが、ヘンリー八世式【九八】の使用リスト、いわゆるポップコーン【九九】には記載されていないため、複数の場所で同時に存在することのできるごく稀な人物なのかもしれないという魚【七八】は活きがいい。

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