災害から命を守るー東北大学災害科学国際研究所

2024年03月11日 12時46分07秒 | 社会・文化・政治・経済

一人の声に応える

心理的面では、被災直後は、日々を生き抜くことに精一杯で、目の前の課題に追われています。

その後、ふと我に返り、「自分はなぜ被害に遭わなければならなかったのか」

「これからの仕事はどうなってしまうのだろうか」などと考える時間が増え、将来に不安を感じる人が増えてきます。

孤立しない、させない

「前を向けるまで一緒にいますよ」と、そばで寄り添ってくれる人の存在や、コミュニケーションやコミュニティがますます重要になってきます。

互いに寄り添い合う関係を築くことが重要です。

置き去りにしない

「知の泉」、つまり過去の教訓や災害科学の知の泉を汲み、実の森を育む―ことを大切にしてきたいと考えています。

「実の森」、つまり人の命を守るための<防災実践の森>を育む挑戦なのです。

災害から命を守るための科学的な探求が欠かせません。

もう一度、知の泉を汲み直すのです。

その往復の中で、<誰も置き去りにしない防災>というのものが、実効性のあるものになります。

そうした流れも、互いに寄り添い合い、互いに学び合うという関係性から始まります。

一人一人の復興への道筋はあまるにも多様で、一律の<特効薬>はありません。

だからこそ、幅広いネットワークが不可欠なのです。

これからも起こる災害においても、一人一人の声に耳を傾け、被災した人々の気持ちを分かち合ってほしいと願っています。

はじめに
設立理念
 東日本大震災という未曽有の災害を経験した東北大学は、新たな研究組織「災害科学国際研究所」を設立し、東北大学の英知を結集して被災地の復興・再生に貢献するとともに、国内外の大学・研究機関と協力しながら、自然災害科学に関する世界最先端の研究を推進します。
 東日本大震災の経験と教訓を踏まえた上で、わが国の自然災害対策・災害対応策や国民・社会の自然災害への処し方そのものを刷新し、巨大災害への新たな備えのパラダイムを作り上げます。

このことを通じて、国内外の巨大災害の被害軽減に向けて社会の具体的な問題解決を指向する実践的防災学の礎を築くことを目標とします。

ミッション―「実践的防災学」の創成―
 災害科学国際研究所が推進する自然災害科学研究とは、事前対応、災害の発生、被害の波及、緊急対応、復旧・復興、将来への備えを一連の災害サイクルととらえ、それぞれのプロセスにおける事象を解明し、その教訓を一般化・統合化することです。
 東日本大震災における調査研究、復興事業への取り組みから得られる知見や、世界をフィールドとした自然災害科学研究の成果を社会に組み込み、複雑化する災害サイクルに対して人間・社会が賢く対応し、苦難を乗り越え、教訓を活かしていく社会システムを構築するための学問を「実践的防災学」として体系化し、その学術的価値を創成することを災害科学国際研究所のミッションとします。

ビジョン 中長期的な活動目標
 東日本大震災の被災自治体等との連携を強化し、被災地の復興への具体的貢献を果たしながら、複雑化・多様化する自然災害のリスクに対応できる社会の創成を目指し、新たな防災・減災技術の開発とその社会実装に取り組みます。

災害という脅威を防ぎとめるだけでなく、人間・社会が賢く備えて対応する、さらに災害による被害や社会の不安定から回復しながら教訓を語り継ぐ災害文化を醸成し、社会システムにそれを織り込んでいきます。

①地球規模の自然災害発生とその波及機構の解明
②東日本大震災の被害実態と教訓に基づく防災・減災技術の再構築
③被災地支援学の創成と歴史的視点での災害サイクル・復興の再評価
④地域・都市における耐災害性能の向上とその重層化

設立経緯
東北大学では、2007年、地域社会の防災・減災に関する19分野からなる学際的な研究チーム「東北大学防災科学研究拠点」(事務局:東北アジア研究センター)を発足させました。

当時、東北地方では宮城県沖を震源とする地震が30年以内に99%の確率で発生すると予想されていました。この地震に備えるため、本学の理学・工学・地学・心理学・情報学・経済学・医学・歴史学等、さまざまな専門分野からの研究者が結集し、文理連携で実践的な防災・減災の研究を推進することになりました。


同拠点の活動を展開するなかで、東北地方太平洋沖地震が発生しました。

巨大津波により沿岸自治体の機能が失われ、また原子力発電所事故による環境汚染や全国的な風評被害・生活支障が生じました。

この東日本大震災を受け、同拠点にはさらに多くの教員が参加し、震災に関する多角的な調査・研究の展開のみならず、現地の復興支援にあたることになりました。災害科学国際研究所は、東北大学防災科学研究拠点を大幅に拡充する形で、東日本大震災の約1年後に発足しました。

沿革
2012年 4月 東北大学災害科学国際研究所 (IRIDeS)設立(初代所長 平川 新 教授)
2013年 2月 宮城県多賀城市と連携協力に関する協定締結(以降、9つの自治体と協定締結)
2013年 3月 東日本大震災2周年シンポジウム(以降、毎年3月に定期開催)
2013年 4月 気仙沼サテライトオフィス設置
2013年 6月 研究成果を書籍化した「東日本大震災を分析する」を上梓
2013年 秋田岩手豪雨土砂災害・フィリピン台風等 現地調査・報告会
2014年 4月 災害科学国際研究所 新体制発足(第2代所長 今村 文彦 教授)
2014年 9月 災害科学国際研究所棟 竣工(青葉山新キャンパス・11月 落成式)
2014年 長野県北部の地震等 現地調査・報告会
2015年 3月 第3回国連防災世界会議 仙台での開催に全面協力
2015年 4月 国連開発計画(UNDP)と共同で災害統計グローバルセンター発足
2015年 ネパール中部地震・2015年台風17号18号災害等 現地調査・報告会
2016年 熊本地震・台湾南部地震等 現地調査・報告会
2017年 4月 今村 文彦 教授 所長2期目
2017年11月 第1回世界防災フォーラム 仙台で開催(以降、隔年で定期開催)
2018年 北海道胆振東部地震・大阪府北部地震・インドネシア パル地震津波等 現地調査・報告会
2019年 山形県沖の地震 現地調査・報告会
2019年11月 第2回世界防災フォーラム
中期目標・中期計画
災害科学国際研究所の理念に則り、以下の重点戦略・展開施策を中期目標・計画に掲げ、活動を行っています。

災害科学研究の世界的拠点を目指す
文理連携及び多様な学際連携による研究の推進
実践的防災学の構築
防災知識を身に付けた人材の育成
防災教育の社会的展開
産官学及び地域社会と連携した防災対策の強化
国際社会との連携強化
共同利用・共同研究への取り組み
指定国立大学「災害科学・世界トップレベル研究拠点」にむけた取り組み

IRIDeS(読み方:イリディス)
「災」の字を上下逆に転じさせたデザインで、「災いを転じて福となす」(東日本大震災の災禍を転じ、復旧・復興を促進し、災害に賢く対応できる社会に変えていく)という決意を表しています。
ロゴはアヤメ・カキツバタ・花菖蒲もかたどり、アヤメの色は、東北大学のロゴマークに由来。
アヤメは「希望」「高貴」の象徴。

 

所長ごあいさつ

世界が必要とする災害科学の知の創造と蓄積に貢献。

得られた知見を迅速に発信し、ローカルかつグローバルに、防災を実践します。

東北大学 災害科学国際研究所所長 栗山進一

 このたびの東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)所長就任にあたり、ご挨拶申し上げます。

 発足以来IRIDeSは、東日本大震災の教訓から学び、被災地の復興を支援するために、工学、理学、人文・社会科学、医学、防災実践の研究者が集まり、分野の枠を超えて学際的に協力してまいりました。当研究所の使命は、世界が必要とする災害科学の知の創造と蓄積に貢献し、得られた知見をすみやかに発信してローカルかつグローバルに実践していくことです。

IRIDeS設立11年目に入った今、私は所長として、これまでに築いた成果をしっかりと継承しつつ、IRIDeSの最重要目標「東日本大震災をはじめとする、災害で被災された方々、また将来被災しうる方々の助けとなること」を見据え、長期展望を持って災害科学を深化させてまいります。

 

 私は医師であり、専門は災害公衆衛生学です。公衆衛生学は、人々の集団の中で病気を予防し、健康を増進させるための科学であり、実践です。
 東日本大震災に際し、私は各地の支援活動に従事するとともに、今日に至るまで、震災に関する大規模な中長期調査を実施してまいりました。

この研究により、東日本大震災がもたらした被災者の方々の健康への悪影響の問題がいまだに続いていることが示されています。このようにして明らかとなったものを含め、被災地の課題に引き続き取り組んでいく所存です。
 また今後、人を健康な生活へと促す公衆衛生学の手法を防災分野にも応用し、一人ひとりが実際に防災行動を取られるように働きかけ、防災・減災をはかっていきたいと考えています。公衆衛生学では、疫学調査による健康状況把握、学習、法律制定、文化としての健康行動の定着など様々な手段を用いて国民健康運動を展開してきました。

防災対策においても、無関心である方々や、その必要性を認識されつつもまだ実践されていない方々への働きかけを含め、同様の手法を用い、災害に対する備えや対応を格段に進めるための貢献を果たしたいと思っています。

「ソナエル、ニゲル、タチナオル」をキーワードに、拡がりのある防災運動に結びつけていきたいと思います。

 東北大学は「社会とともにある大学」であり、IRIDeSは「社会とともにある研究所」です。

これまでもIRIDeSは、災害発生時、情報を必要とされている方々に科学の知見を届けるため、ホームページや緊急速報会で社会発信してまいりました。今後も大きな災害が発生した際は、関係機関とも連携しながら原因を究明し、災害科学の総合知の観点から的確で有用な情報・提言を発信してまいります。
 一方で、災害被害を減らすためには、事前の防災が不可欠です。

これは「仙台防災枠組」の根幹をなす理念でもあり、病気になる前に予防する公衆衛生学の考え方と合致するものでもあります。

IRIDeSも平時からさまざまな方々と連携し、ともにレジリエントな社会を築いてまいりたいと思います。

 社会は、国難とも形容される南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震や、気候変動により激甚化する災害をはじめ、様々なリスクに直面しています。

IRIDeSは、これら社会の重要課題を見据え、東北の復興と国内外の防災に引き続き取り組んでまいります。皆様のご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

 
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