さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

タクシードライバー日記 「どちらまでですか④」 技能試験

2022-12-23 | タクシードライバー日記


こんにちは

小野派一刀流免許皆伝小平次です

実は、この小平次、今の生業に就く直前、タクシードライバーを4年半ほどやっていたんです
その時のことを、インド放浪記風、日記調、私小説っぽい感じで記事にしていきます

前回、鬼教官、岡山のスパルタ教習の成果、二種免許学科試験、一発合格、同期の山田、伊勢、田村とささやかな祝杯をあげた、というところまででした

では、続きです

*************************

 無事に学科試験に合格、本社で制服を支給され、今日からはその制服を着ての技能教習だ。

『おら! もっと左に寄せえや!』
『目視を忘れとる! 何べん言えばわかるんや!!』
『ミラー、もっと見ろや!!!』
『コーナー出たらスムーズに加速せんかい!!!!!』

 案じていた通り、技能教習に入ると、岡山のスパルタぶりは学科教習の比ではなかった。まずは、場内での教習、コースをぐるぐる回るところから始まり、普通免許と同じような、車庫入れ、鋭角、S字、クランク、などを練習する。
 一種普通免許の場合、丁寧に操作をしながら、標識等、交通ルールを守っていれば、まあOKである。だが、二種免許は、これらのことは当たり前、よりミラー、目視などの周囲確認の徹底、が求められる上、カーブや右左折で減速、停止後、再発進した際、スムーズに制限速度まで加速しなくてはならない、ここが一種免許との大きな違いである。タクシーを利用する人の多くは急いでいるのだ、だから『加速せんかい!!!!』と、岡山の怒号が飛ぶのである。

 場内での教習も終わり、いよいよ実際の道路を走る。東京府中試験場が、二種免許を取るのに一番緩い、そういう理由で住所まで都内に異動させられていた。教習所では府中の二種免許技能試験のコース、全部で3コース、それを完全に把握していた。おれと、山田、伊勢、田村はセットでコースへ出て、徹底的に重要ポイントを叩きこまれた。そしていよいよ技能試験受検にGOが出る。

 学科の時と同様、おれたちは試験場の前で待ち合わせ、手続きを済ませ、セットで受験となった。まずは場内、トップは田村、ソツなく粛々とこなす、叩き込まれたしつこいほどの周囲確認も怠らない。次はおれだ。おれも緊張しながらもまずまずの手応えで終了、次に秋田から出て来た山田、中盤まで問題無し、ところが、車庫入れで突然試験官から非情な言葉…。

『はい、ここで終了です、スタート地点へ戻って下さい』

『えっ!!??』

 理由は、ミラー等、周囲確認が不十分だったとのことだ。山田はそれこそ狐につままれたような顔をしながらもスタート地点へ戻る。次に伊勢、問題無く最後まで行けた。だが、伊勢もここで終了を告げられた。理由は全体的にスムーズさを欠いていたことらしい。同じ目標に向かってともにここまでやって来たジイサンと中年男、初めての躓きだ。

 おれと田村は、引き続き外での試験、今日まで岡山に怒鳴られながら何度も走ったコース、大丈夫だ、そう言い聞かせ、おれたちは路上コースへ出る。
 外での試験での一種免許試験との違いは、突然、試験官から『あの信号を超えた、緑の看板のところで停車して下さい』と、指示が出るのだ。つまりは、客に呼び止められたことを想定して停車するのだ。後部座席のドアが、指定された位置とずれないように、慎重に停める、おれたちは全て無難にこなせた、そういう手ごたえを感じていた。 だが…。

 合否発表、おれたち2人とも不合格…。なぜだ?何が悪かった?不合格を告げた試験官の言葉、

『ミラーの確認が甘いです。もっと周囲確認に気を付けてください』

 二人とも同じ理由だった。

 いくら府中が緩い、と言っても、一発合格者はほとんどいない、大抵は2回3回、酷いのになれば、6回、7回、なんてこともあるそうだ。それでも、神奈川や千葉は、6回、7回が当たり前だそうだから、府中はまだ良いのだろう。人様の命を預かり、車を転がす商売なのだから、厳しいのは当たり前なのだ。

 翌週、おれたち4人は再試験に向かう、今回は山田も伊勢も無事に場内通過、路上試験に臨む。
 トップはおれだ。前回の不合格理由を胸に刻み、嫌味なほどの周囲確認をしながら順調にコースを走る。しかし、…、アクシデント…。

 右折をしようと、前に車を一台置き、交差点内で対向車が切れるのを待つ。歩行者専用信号が点滅を始める、対向車が切れる、今、まさに右折のタイミング、しかし、前の車がなぜか発進しない、試験中だからクラクションを鳴らしていいかもわからない、早く行け!早く行け!心でそう叫ぶ。ようやく前の車が発進、だがその瞬間、前方の信号は完全に赤、おおおお…、ここは行くべきか、止まるべきか!おれは後者を選択、だが、完全に停止線をはるかに超え、交差点内に停車状態…。

『あの…、…、バックしてもいいですか?』

 おれは試験官に尋ねた。しかし、試験官、無情な返答…。

『ご自分でご判断して下さい』

 そ、そう来たか! おれはめまぐるしく頭を働かせる、今、とにかくこの状態のままでは左右からの車両の通行を大いに妨げる、かと言って、完全に赤信号状態で今更先には進めない…。おれは決断した。

『バックします!』

 左右のミラー、ルームミラー、目視、首をめまぐるしく回し、入念に周囲確認を行いながら、どうにか停止線付近に戻る、すでに後ろに車両がいるのでこれ以上は下がれない。これは…、アウトか?

 だが、その後も試験は継続、どうにか最後まで乗り切った。

 あの交差点でのバックがどう判断されるのか、おれの頭はそれで一杯、続く3人の試験の最中も放心状態、唯一、田村が制限速度60キロの幹線道路を50キロで走っていたのが気になった程度だった。

 結果

 おれと田村は合格!!! あの交差点での決断は正しかったのだ。山田と伊勢は撃沈…。まあ、路上試験一回目だから仕方あるまい。

『澤田さん、藤沢に帰るんですよね、新宿で軽く一杯やって行きませんか?』

 チンピラのような見た目、同い歳の田村から誘われた。まだ昼を過ぎたばかり、新宿南口の小汚い居酒屋が開いていた、学科の合格時、四人で挙げた祝杯は、二人となり、よりささやかなものとなった。さあ、次は本社での研修、そして最後の難関、地理試験だ。


*****************
今の感想
本文でも書きましたが、やはり人様の命を預かり運転する職業に就こうというのですから、警察も一発合格なんて簡単にはさせられない、というのがあるのかもしれません。この後、地理試験、それに合格して初めて、乗務員証、タクシーの助手席前に掲示している、顔写真付きのアレ、を交付してもらい、デビューとなります




 

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6 コメント

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Unknown (カワムラ)
2022-12-23 16:49:58
小平次さん こんにちは!
試験場の緊張感スゲ~伝わりました。
なんか こういう小説も面白いです!
そして 為になる!

小平次さんのキャラクターを想像しているからか
あのインドとは又、別の面白い物になっていますね

また 今回も引き込まれましたよwwww
Unknown (englico)
2022-12-23 17:19:08
小平次さん、こんばんは。
そうですよね、真剣にやってもらわないと困りますよね。

でも、他人事だから赤信号で立ち往生した姿を思い浮かべてフッと笑ってしまいました。小説書けそうですよ、小平次さん!
カワムラさん、こんばんは! (小平次)
2022-12-23 18:55:48
カワムラさん、こんばんは!

コメントありがとうございます!
カワムラさんに面白いと言って頂くと、インドの時のようにやる気が増しますww

デビュー前、研修編は次回で終わります

その後、実際のお客様との思い出話編に入ります

またお付き合いくださると幸いです~
englicoさん、こんばんは! (englico)
2022-12-23 18:58:40
englicoさん、こんばんは!

コメントありがとうございます!

>>小説書けそうですよ…

いや、嬉しいですね!
実は短編小説を幾つか、と、若干の長編小説も書いてまして、機会があればまた記事にしたいと思いますので宜しくお願いします!

ありがとうございました~(^^♪
Unknown (渡来ジン)
2022-12-27 14:57:23
はじめまして、小平次さん。
読めば読むほど分からなくなります。
というのは、職場近くにタクシー会社があるのですが、そこに約1名、非常にクセの強い人がいます。
気性も運転も荒くて常識はずれ。そんな人でも数々の試験をパスできるものでしょうか? 地域によって難易度が変わってくるようですけど。
渡来ジンさん、はじめまして! (小平次)
2022-12-27 16:42:58
渡来ジンさん、はじめまして!

コメントありがとうございます!

>>そんな人でも数々の試験をパスできるもの…

多分、次回の話で出て来る予定ですが、東京、大阪、横浜、名古屋もだったかな

この地域にはタクシーセンターという法人がありまして、昔から気の荒い人やマナーの悪いドライバーがいたんですが、こういう人たちを教育するような機関ができまして、ダメな人は駆逐されて行きます

それでもまだ、東京あたりではロクなもんじゃないな、って人もいますが、このタクシーセンターに苦情を入れられると、ドライバーはもちろん、タクシー会社も大変な思いをしますので、みんなマナーに気を付けます

それでも素行の悪い人はやはり排除されてい行きます

それでも二種免許までは技術的な問題なので、ここまではクリアーする人も多く、マナーのなってない人も残ると思われます

実態については、少し昔の話になりますが、日記の中で語ってまいりますので、よろしければお付き合い下されば幸いです

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