さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

タクシードライバー日記『どちらまでですか?』② 教習所

2022-11-08 | タクシードライバー日記


こんにちは

小野派一刀流免許皆伝小平次です

実は、この小平次、今の生業に就く直前、タクシードライバーを4年半ほどやっていたんです
その時のことを、インド放浪記風、日記調、私小説っぽい感じで記事にしてみたいと思います

前回、法律の資格をとるまで、タクシードライバーになることを決断、面接後慌ただしい入社手続きを経ていよいよ正式採用が決まった、というところまででした

つづきをどうぞ

******************

 慌ただしく住所を移転、健康診断、血圧治療、警察からの違反履歴書類の取り寄せ、などを終え、正式に採用の決定の連絡を受けた。その電話で明日の午前11時に本社へ来いと指示を受ける。
 翌日、指示通りに本社へ行くと、コワモテから契約書等の書類を渡され署名、年金手帳の提示、その他必要な入社手続きを済ませた。

 もう一人、おれと同年代と思われる、井川と言う小柄な男もおれと同じ手続きを済ませていた。

『では、井川さん、澤田さん、あなたたちは今日からウチのタクシードライバーとして、まずは二種免許の取得のため、教習所へ行ってもらいます、教習期間、研修期間は手当として一日1万円が支給されます、午後の授業に間に合うよう、急いで行ってください』

 と、コワモテから地図を手渡された。最寄り駅は東京都内であったが、東京都下、ここ、東京の中心地からは電車で一時間以上はかかりそうだ。おれと井川は急いで本社ビルを後にした。

『澤田さん、結構慌ただしいですね、午後からの授業と言うと、お昼食べてる時間もあまりないですね』
『ええ、乗り換えで新宿を通りますので、地下街で何かさっと食えるもの食って行きましょう』

 おれたちは乗り換えの際、新宿の地下街でカレーを急いで流し込み、教習所を目指した。
 井川はおれより2つばかり年上で、前職は「戦場カメラマン」だったそうだ。安定して食っていけないので、ここらで定職につこうと決めたらしい、いろんなやつがいるもんだ。

 教習所は、さびれた感じの建物に、せまい教習コース、敷地の左端にプレハブがあり、そこに数人の男たちの姿が見えた。おれと井川はまずはそのプレハブを目指した。
 プレハブの外のベンチには中年から初老の男が腰かけ談笑していた。中には数人の「生徒」たちが教習本のようなもの開き勉強していた。その奥に、おそらくは教官席、そこにはまるでホストのような顔といで立ちの、にやけた顔をした比較的若めの男が座っていた。おれたちは周囲のうだつの上がらなさそうな「生徒」たちに軽く会釈をして、ホストに声をかけた。

『ああ、新人さんね、二人は教習の前に適性検査を受けて』

 そう言われ古びた建物の方へと案内された。
 適性検査、最初にモニター画面を見ながらの模擬運転であった。免停になると受けさせられるやつだ。画面を見ていると気持ち悪くなるアレだ。



 その後は「動体視力検査」、前後左右から線が動いてきて、線と線が重なったところでボタンを押す、これも少し気持ち悪くなる。

 適性検査終了後、おれと井川はプレハブの「校舎」でいよいよ二種免取得に向けて勉強の開始だ。まずは学科の講習、大の大人、それも半数はジイサン、中年初期のおれはこの中ではおそらく最若手だろう。

 主任教官の岡山という男の授業だった。まずは100問の模擬試験を解き、その後解説付きで答え合わせをする、という授業だ。
 岡山は小柄ではあったが、関西弁で、実に厳しいスパルタ教官だった。

『おれは、この仕事に命かけてる、一日でも早く、優秀なドライバー送り出すのがおれの役目や!そのためにはビシビシ行くで!』

 机並べて「授業」を受ける、そんなことは数十年ぶり、というやつがほとんどだ、さらにおれを含め、一般社会でうまく行かなかったうだつの上がらないやつが大半だ、厳しくせざるを得ないのだろう。

『何かここまでで質問はあるか?』

 だれも質問をしない。

『ほー、質問無いんか! ほな、田中、これこれこういう場合、車はどこに停車させたらええんや?』
『え、? えっと、、、わかりません…』
『わかっとらんやないかい!!わからんのやったら何で質問せえへんのや!』
『あ、あ、すみません…』

 これから学科試験の合格、その後の実地試験の合格、早いやつでも1か月はかかるらしい…。その間このスパルタ教育に耐えなければならない…。少しばかり辛いかもしれない。それでも、本当に数十年ぶり、周りはジイサンと中年ばかりだが、同じ目標に向かって机を並べて勉強する、切ないような、恥ずかしいような、よくわからない、教室の一番後ろの席で、目の前の光景を眺め、おれは複雑な気持ちになりながらも、同じ目標に向かって共に学ぶ「仲間」がいること、少なくともこれは幸せなことだ、そして家族のためにも頑張るしかないのだ、おれは岡山の怒声交じりの講義に耳を傾け、鉛筆を強く握りしめた。


*********** つづく

今の感想
もちろん全てではありませんが、いい歳してタクシードライバーになろうって人は、なんかしら人生うまく行かなかった、とか、組織での人間関係がいやになったとか、もちろん自分も含めてそういう人が多い、というのは今後実感していきます。本来書きたいのは、デビュー後のお客様のことなんですが、もう少しデビューまでかかりそうです




コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
面白そうですね (猫の誠)
2022-11-09 16:55:34
タクシードライバー体験、期待しています。
猫の誠さん、こんばんは! (小平次)
2022-11-09 18:51:44
猫の誠さん、こんばんは!

コメントありがとうございます

期待に応えられるようがんばります(笑)

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