画像引用元:そうだ、世界に行こう。【美しき青い街並み】ジョードプルを観光してわかった本当の見どころ
こんにちは、インド放浪 本能の空腹⑯
『バブーとの出会い』
をお送りいたします。前回は、プリ―行の夜行列車で知り合った、オーズビーの自宅に招かれ、ご家族と一緒に、夕食をごちそうになった上、一晩泊めてもらいすっかりご満悦だった私。ところが、翌朝、目覚めてみると、プレゼントなどした覚えもないのに、なぜかオーズビ―が私のスニーカーを履いて、『ありがとう』 と礼をいう、解せないながらも、諦めたところへさらに追い打ち、私のカメラを父にプレゼントしたい、インド製だけど良いものを代わりにプレゼントするからとオーズビ―。カルカッタで完全に私が大損しただけの『仲良くなった証の物々交換…』がここでも!?
30年近く前の私のインド放浪、日記をもとにお送りしています。
ではつづきです。
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昨日の夕食時、日本製のカメラを見たい、と言うオーズビーの父親におれの持ってきていたカメラを見せた。興味深そうに、ぐるぐる眼鏡の奥から目を輝かせて眺めていた。それを、オーズビ―は父親にプレゼントしたい、と言うのだ。インド製だけど良いものを代わりにおれにわざわざ買ってプレゼントする、と言うのだ。インド製のいいやつが買えるなら、オヤジへのプレゼントはそれでいいじゃないか、ダメなの?どうしても日本製がいいの?
『オーズビー、すまないけどこのカメラはボクの物ではないんだ、父の物だから、キミにプレゼントすることはできないよ』
これは本当の話である。色々おれの家は苦労も多く、父親はあれこれ商売に手を出し借金なども随分したが、このごろ落ち着いて、夫婦で旅行になど出るようにもなり、そんな旅行風景などを撮るために、高級とは言えないが、そこそこ良いものを買って、それをおれが借りてきていたのだ。
だが、オーズビーは諦めない、何とかおれを口説こうと、必死に懇願して来る。
『コヘイジ、ボクは父に苦労をかけた、父は日本製の機械類にとても興味がある、だからどうしてもプレゼントしたいんだ、普通にインドで日本製のカメラを買おうと思ってもとても買えないんだ…。』
うーーーーーん…、だからと言って、くれ、はないだろう、だが、結局、おれは根負けし、オーズビーの懇願にOKをしてしまったのだった。
三たびオーズビーの父の写真
カルカッタで、ジャケット、バッグ、時計、プリーでカメラ、これにより、今後、『仲良くなった証の物々交換』を迫られても、もうインド人が欲しがるようなものは何もなくなってしまった。逆に安心だ。そう思うことにした。
その後、オーズビーの母親の手料理で朝食を済ませ、ベスパもどきのスクーターに二人乗りして走り出す。
ここには大通り、と言ったような交通量の多い道もなく、皆がのんびりと歩いている。道の両側には、雑貨や軽食を売る屋台がポツポツ並び、人、サイクルリクシャ、野良牛、野良犬、野良ネコ、みんなのんびりだ。
少し走り、オーズビーの友人の伯父、が、経営すると言うホテルに着いた。オーズビーの家と同様、青い塗装の壁に、パステルイエローのライン、南国っぽい3階建のホテルであった。見た目は悪くない。
入口は開け放たれていて、開放的だ。オーズビーに連れられ中へ入る。友人の伯父、は、小太りで、トロンとした眼が特徴的な男だった。一泊120ルピーだと言う。おれのような貧乏旅行者にはちょっと高めだが、それでも日本円で600円だ。どれくらいここにいるかはわからないが、仮に1ヶ月いたとしても18,000円、まあいいだろう。
案内された部屋は2階、カーペットなどが敷かれているわけではもちろんなく、壁と同じ青色のむき出しの床、それでも割と広く、シャワールームとトイレ、まあ悪くない。おれはここに宿泊することを決めた。
『どれくらいプリーにいる予定だ? 支払いは前金なんだ』
と、伯父のオーナー。
そうか、そんなこと全く考えていなかった。どれくらいいるのだろう…?おれは少し考えた。このプリーの街は気に入った。元々あちこち動き回りたいわけではない、どこか海の近くの街で、まるでそこの住人になったかのようにして過ごしたい、と言うのが願いであった。そういう意味ではまだ二つ目の街だが申し分ない、それでも、突然気が変わるかもしれない、おれは一先ず一週間分の宿代を払うことにした。
支払いを終え、部屋に荷物をおろしたところで、一人の若い男がやってきた。
『彼はバブーというボクの友人だ』
と、オーズビーがその男を紹介する。ビーバップハイスクールのリーゼントパーマのような天パーのヘアースタイルに鼻の下には髭、そんな風体のバブーはにこやかにおれに握手を求める。おれもそれに応じる。バブーが名刺をよこす。肩書は、ツアー会社か何かの代表者のようだ。名前は確かに『Babu・Dola』と書かれている。あだ名かと思ったが本名らしい。バブーは言った。
『コヘイジ、今日の夜、彼とボクの中学校のころの教師を交えて、一緒に食事をしないか』
オーズビーも頷く。おれが断る理由は何もない、だが、中々一人で行動させてくれないのがインドだ。
『OK、ありがとう、一緒に食事をしよう』
『ボクはまだ仕事があるから、夕方またここへ来るよ、それまでゆっくりしてくれ』
バブーはにっこり笑ってそう言うと部屋を出て行った。
バブーが去った後、おれはオーズビーとともにバルコニーへ出てみる、客室のほかに、2階の一部がバルコニーになっているのだ。
天気も良く見晴らしがいい、海は一段低くなっているからここからは見えなかったが、それでも低い街並みは結構遠くまで一望できる。気持ちがいい。
再び部屋へ戻りオーズビーと談笑していると、開けっ放しのドアの方に人の気配を感じる、目をやると、そこにはくりくりとした目を持つ、将来はとても美人になりそうな、三歳くらいの少女がドアの陰に体を半分ほど隠すようにしておれを見つめていた。おれはにっこり笑って少女に手を振る。
『Hello…、namaste…、』
そう言っておれは、微笑みながら両手を胸の前で合わせる。
少女ははにかみながら、おれと同じように手を合わせ微笑む。
『Hello…、namaste…、』
『お名前は…?』
『マリア…』
『マリア、いい名前だね…』
オーズビーが、
『マリア、こっちにおいで』
そう言って手を広げると、少女はにっこり笑って走り寄りオーズビーの胸に飛び込む、そして抱きかかえられたまま笑みを浮かべてまたおれを見つめる。
『この娘はここのオーナーの娘なんだ…。』
きれいな身なりをしている、そこそこ裕福なのだろう、カルカッタのゴミの山をあさっていた少年少女の姿がよみがえる。だからどう、と言うわけではないが、インドの激しい貧富の差を感じずにはいられない。
それでも、こうしてまたおれの顔を知る者がこの街に増えた。おれのインド旅行の最大の目的、海に近いどこかの街で、そこの住人のようにしばらく過ごす、ゆっくりだが確実に始まっているようだ。
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この時出会ったバブー、私にとって忘れることの出来ないインドの友人、となって行きます。少女のマリアは、その内私に慣れ、勝手に部屋へ入って来ては、私の荷物を物色し、これは何だ? あれは何だ?、と、とてもかわいらしく聞いて来るようになります。
あとですね、この時から泊ったこのホテル、日記のどこを読み返しても名前が書かれていないんです。なんて名前だったかなあ…
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