争点の現場で 09衆院選 あえぐ非正規労働者<下>雇用・景気
世界不況企業も青息吐息
無料のシェルターで過ごす元派遣労働者の男性。「早くこんな生活から抜け出したい」と願う(広島市南区で)
プロ野球・広島カープの本拠地「マツダスタジアム」(広島市南区)。今年2月までマツダで働いていた、元派遣社員の男性(50)は、スタジアムの外壁に大きく掲げられた「MAZDA」の文字を見て、「球場の命名権を買えるなら、私たちに回してほしかった」と、つぶやいた。
男性は2年間、本社宇品工場(同)でエンジンに部品を取り付ける作業をしていた。2月、約100人の仲間とともに工場の食堂に集められ、同社担当者から派遣契約の終了を告げられた。
4月には寮も出なければならなくなり、所持金も尽きた。5月からは、市民団体がワンルームマンション4室を借りて設置した無料の「シェルター」で暮らしながら、ハローワークや求人誌で仕事を探す。だが、年齢などの条件が合わず、応募可能な求人すら見つからない。
8月になって生活保護受給が認められたため、ようやく一息つけそうだ。職探しを続ける男性は「派遣社員は雇用の調整弁。不況になると一気に生活できなくなる雇用状況をなんとかしてほしい」と求める。
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昨秋からの世界的な不況の影響は、今も県内に色濃く残る。広島労働局によると、昨秋から今秋にかけて、製造業を中心に、派遣社員など非正規労働者約5800人が失職する見込み。一方、6月末の有効求人倍率は0・51倍で、失業者の2人に1人しか職を得られない状態が続く。同労働局は「企業の生産量は増加しているが、雇用状況は依然、厳しい」と分析する。
民間調査会社「東京商工リサーチ」広島支社によると、昨年9月以降に倒産した県内企業は234社。企業の財務状況などは、人員整理や生産調整で改善傾向にあるが、「肝心の受注が増えないので、根本的な解決にはなっていない」(同支社担当者)という。
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県南部で自動車部品工場を経営する男性(54)は「最悪の時期は脱したが、経営状態は今も厳しい」と打ち明ける。受注は昨年までの半分以下に減ったが、従業員は解雇せず、休みを増やしたり、国の緊急融資制度を利用したりして、急場をしのいでいる状態だ。
同じように自動車部品工場を経営する知人と居酒屋で食事をした時、「派遣社員はもちろん、20年も一緒にやってきた部下もクビにした」と聞いた。「自分の工場でそんなことはしたくない」。そう思っても、従業員をクビにする夢を見て、目が覚めることもある。
男性は「良い部品を作ることを考えていればよかった高度成長期が懐かしい。あの頃は、職場の仲間である従業員のクビを切ることなんて、思いもしなかったのに」と力なく笑った。
衆院選が近付く。男性はこれまで政策などを考えずに投票してきた。今回は、各党のマニフェスト(政権公約)を集めて、じっくり読み比べようと思っている。「希望を持てる未来を示してほしい」。それが、政治に期待することだ。(おわり)
(この連載は澤本浩二、竹田直人、倉岡明菜が担当しました)
(2009年8月16日 読売新聞)