発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

福岡バレエ協会バレエフェスティバル

2011年10月30日 | 物見遊山
◆なんて優雅できれいなの!!

 福岡バレエ協会バレエフェスティバル。
 この公演は、アクロス福岡シンフォニーホールで地元の4つのバレエ団の合同発表会に、九州交響楽団が伴奏をつける、というものである。
オーケストラとバレエ!!
 チケットをいただいたので、迷わず行く。
バレエ。それはダンス界の純文学。1日休めば自分でわかり、2日休めば仲間たちにわかり、3日休めばお客さまにわかってしまう、日々是精進の賜物。筋肉と骨格、それをコントロールする脳。人体の芸術。
 バレエをよく知らなくても、九響の音楽だし、楽しめるでしょう。
 毎度おなじみの福岡シンフォニーホールだが、レイアウトが変更となっている。前から6列めまでの席が消え、その場所は、オーケストラ・ボックスとなっていて、九響の人たちはすでに練習をしている。1階、前方の私の席からは、ハープの上方と指揮者しか見えない。
 
 幕が開くと、ピンクのロマンティック・チュチュを身につけた4人のダンサーが美しいポーズで静止している。
 パ・ド・カトル、4人のダンス。有名な演目らしい。
 音楽とともに動きがはじまり、2人のダンス、3人のダンス、1人のダンス、とフォーメーションを変えていく。
 ステージに近い席で大正解。微笑みを絶やさずに、手指の先までの表現に気を配る様子や、トゥーシューズのトゥーのトン、カタンという音だけでなく、足裏で歩く音まで聞こえる。
 バレエってこういうものだったの。
 たぶんこの人たちが、一番うまい人たちなのだな。
 次は、「青少年のための管弦楽入門」。このシンフォニーホールに初めて来たときのコンサートで聞いた曲だ。
 その曲に合わせて、木管楽器、金管楽器、弦楽器、打楽器を、それぞれ違った色のレオタードを着たダンサーたちが表現する。打楽器ダンサーは小さい人たちで、たぶん、今日来てる団体の中で一番上手な小学校低学年の選抜なんだろうな、と思う。
 休憩をはさんで、それぞれのバレエ団の発表があった。
 2時間半、ずっとステージに釘付けだった。
 客席のほとんどは、ご両親、きょうだい、おじいさんおばあさんなど、身内の人たちだったようだけど、他人が行っても、十分楽しめます。贅沢な時間でした。
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マネーボール試写会

2011年10月28日 | 映画
マネーボール試写会、西鉄ホール。

 高校野球中継なんかを見ながら、つねづね不思議に思っていた。
 なんで、あんなあからさまなボール球に手を出すのだろう? この流れだとどう見ても押し出しなのだが、フォアボールを待たずに、わざとボール球に手を出すのは、相手ピッチャーへの思いやりなのか? あーあ、キャッチャーフライでスリーアウトだ。
 なんでそこで敬遠かなあ? 今のコントロールなら、敵に見送られてしまうと絶対次は敬遠しなくてもフォアボールだ。今相手のランナーを増やしてどうするんだ? 敬遠せずに、ボール球に手を出させて、フライとか凡打にして早いとこアウトとった方が良くないか? あーあ、押し出しだ。
 とまあ、素人解説者はこんなことを思っていたのだが、あながち間違いではなかったらしいことが、この映画を見てよくわかった。

↓物語の核心には触れていませんので、見に行きたい人も安心して読んでね。

 高校野球のスーパースター。一流大学の特待生を蹴ってドラフト1位、高額の契約金でプロ入りしたものの、鳴かず飛ばず。わが国でもよくある話です。
 そんな、ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、最後の選手生活を送った球団、オークランドアスレチックス(今、松井秀喜さんのいる球団ね)のスカウトを経て、GM(シボレー、キャデラックなどのブランドを持つアメリカの自動車会社……ではなくゼネラルマネージャー)をやってる。

 そのころのアスレチックスは貧乏球団だった。だから、いつも予算が足枷。育ったスター選手は、高額で引き抜かれる。トレード交渉も思うようにいかない。これもまあ、ありがちな話。

 そんななか、ビリーは、クリーブランド・インディアンズのひとりのスタッフに注目する。メガネをかけて丸々と太ったその若い男は、イェール大学で経済学を学んだピーター。
「金で選手を、ではなく、勝利を買うべきだ」
「(球団は)求めるものを間違えている。それを言うと村八分にされる」
 ピーターの持つものは、インディアンズでなく、自分が活用すべきだ。それを悟ったビリーは彼を引き抜く。データを徹底分析する彼との出会いで、すべては変わっていく。
 「我々の(安い)予算で25人の優勝チームをつくる」
 目標は設定されたが、そううまく行くものではない。
 以下本編をご覧くださいませ。

 確かに、フォアボールとヒットの価値は同じだ。
 プロ野球選手の情け容赦ない世界。GMと監督と選手の攻防。トレード、解雇、ロッカールーム。大観衆の集まるゲームの裏側も、興味深くございます。



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ステキな金縛り 試写会 &さらばソラリアシネマ

2011年10月21日 | 映画
◆「ステキな金縛り」試写会

 夕刻から悪天候。渋滞するので途中でバスを降り、地下鉄に乗り換え、天神へ。
「ステキな金縛り」試写会、都久志会館。

 豪華キャストである。
 
 その晩、容疑者は金縛りに遭い、一晩中動けなかった。
 殺人事件のアリバイが証明できるのは、落ち武者の幽霊だけ。
 見える人間は限られている。
 はたして幽霊は証人として出廷できるのか。
 無罪を勝ち取ることができるのか。

 というめちゃくちゃな設定のもと、大真面目に裁判は進む。

 ↓物語の核心には触れていませんので、見に行きたい人も安心して読んでね。

 西田敏行の落ち武者がカワイイ。阿部寛も中井貴一も、思いっきりおちゃめである。悪女メイクの竹内結子が、どこかで見た顔と思ったら、小野みゆき(燃えろいい女って、32年前!!)っぽいのである。怪しげな山本耕史もいいね。
 出て来る俳優が全部好きになる。
 三谷幸喜は、そういう映画をつくるので、みんな出たいんじゃないかと思う。
 まさに今、ドラマや映画で主役を張ってる人たちが、脇役としてゾロゾロ出て来るのはそういうわけかな、と。
 ともかく、笑えて少し心が暖まるので、殺伐とした日々を送っている人は、見たほうがいいと思う。

◆ソラリアシネマ閉館

 ショックなのは、天神の映画館ソラリアシネマが来月いっぱいで閉館してしまうことである。
 西鉄が、ソラリアスポーツ、ソラリアシネマから撤退するのに伴い、ソラリアスポーツは、譲渡先が決まったらしいけれど、映画館の引き受け手は、なかったということかしら。
天神で唯一、3D設備がある劇場だったから、それなりの設備投資は続けていたと思っているのですが。

ソラリアシネマで見た映画。
もっとあるはずだけど、とりあえず、
ティンカー・ベル
ハゲタカ
マンマ・ミーア
グラン・トリノ
ベンジャミン・バトン数奇な人生
マイレージ・マイライフ
Dr.パルナサスの鏡

 いい映画が多かった。再映といって、大体封切興行が終わったけどDVDはまだ出てない映画を、安く見ることができた。

 それと、ソラリアシネマで好きだったのは、グランドパス65(65歳以上の人のための西鉄バス割引パス)のコマーシャルを、映画の前にやってたこと。
 お爺さんたちがラグビーをしている。
「パス!」「パス!」「パス!」「パス!!」「グランドパァース!!」
 パスをしながら、なぜか「グランドパス!!」と叫んでいる。
 ラガーシャツのまま、全員バスに乗って「ワハハハハ……」と笑っている。
 
 元気なお爺さんのためのバス乗り放題定期ってことがよく伝わる。早く65になりたい!と思わず言いたくなるではないか。



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「一緒に遭難したいひと」1巻、2巻

2011年10月19日 | 漫画など
◆「一緒に遭難したいひと」1巻、2巻
「一緒に遭難したいひと」
 神戸で女の子ふたりがワンルームに共同生活している。姉妹のように育ったおない年の従姉妹どうし。ライターのキリエと非常勤バニーガールの絵衣子。設定年齢27歳。きれいなおねいさんのゴージャスで清貧なライフスタイルが延々と描かれている。

 連載開始が1990年。
 バブル真っ盛りではありませんか。

 彼女たちは背丈と美貌に恵まれ、お金には恵まれていない。働くことに関しての才覚に欠けているわけではない。本気で働けば人並み以上に稼げる。でも、金欠でも自由、を選ぶ彼女たちである。
 Riches I hold in light esteem(富は問題にならぬ エミリ・ブロンテ)ってことかしら。
 でも、彼女たちは気づいているはず。美しいということは、すなわち富んでいる。
 ひとめを引く美女を連れ歩くことがステイタスのバブル期(いや、今もか)。
 アッシー、メッシー、ミツグくん、ということばが80年代後半から90年代はじめ、つまりバブル経済に浮かれていた日本にはあった。
 ステディな彼氏ではなく「お友達」で、無料タクシー代わりになってくれる男子が「アッシー」、お食事を御馳走してくれるのが「メッシー」、服やバッグや靴を買ってくれる人が「ミツグくん」である。今もそういう立場の男性はいるのだろうが、当時は今よりず~っと多かった。若い独身男性の正社員が多く、ボーナスも多かったのだ。不動産だけはやたら高騰していたが、他のものなら何でも好きなものが買えそうな雰囲気があった。
 本編では滅多に登場しない「心優しい」彼らに支えられた生活を送っていたから、収入が少なく、文筆業やバニーの報酬の入金のタイミングによっては、米びつがカラになり新聞代の集金に居留守を使うほど窮迫する彼女たちではあるが、着るもの持ち物には困っていない。すべて自腹でおしゃれしないといけない一般女性に比べて、はるかに富んでいるのである。そして誰かボーイフレンドが食事をごちそうしてくれるので、飢え死にすることはない。
 フワフワと浮き草のように暮らす美女ふたりを地べたにつなぎ止めているのは、キリエのステディなボーイフレンド、心優しく見た目可愛い堅気の青年、税務署にお勤めのマキちゃんである。
 キリエはマキちゃんのことを「一緒に遭難したいひと」と評している。最大限の賛辞ではありますまいか。
 ところで彼女たちは、すでにそれほど若くはなくなっているのかも知れないが、それを補う礼儀だとか心配りだとかがちゃんとある。
 バニーガールの後輩に、礼儀だとか心得だとかを押し付けがましくなく教えることができる。お正月にマキちゃんたちの実家に遊びに行っても、お土産を持って行き、きちんとごあいさつし、台所を手伝う。
 家ごはんは、質素にせよ、きちんとしたものを作って食べているようである。
 見た目は派手だが、たぶん、おつきあいするのに、男女世代を問わず、好感度の高いひとたちだと思う。 
 でも、このひとたち、年とったらどうするのかしら、いつまでこんなノー天気な生活ができるのかしら、マキちゃんはちゃんと結婚してくれるかしら、なんて心配は無用である。だって、2011年現在も、このお話は不定期連載中で、年齢設定も変わっていない。サザエさん方式というか。ちびまる子ちゃん方式というか。つまり、年をとるという問題からは彼女たちは解放されている。
 要するに、これは、妄想全開なファンタジーなのである。
 彼女たちのような生活をしている美女がどこかにいるかも知れないが、20年にわたって年をとらない人はひとりもいないもんね。
 こんな生活はとても無理。でも、女子力アップのヒントにはなる。きれいにしていよう、楽しく過ごそう、家にせよ外にせよ、おいしいお茶飲もう、と思うようになる。
  このコミックは、疲れたときに良いのである。元気な脱力加減が。
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ライムな日々。

2011年10月12日 | グルメ

最近食べたものから。

◆ブリのムニエル、ライムバターソース。
 大きめのブリの切り身を買ってきた。
 ムニエルにすることにした。塩胡椒して小麦粉をまぶし、フライパンで焼く。付け合わせは、同じフライパンでタマネギのみじん切りを炒め、トマトのざく切りを入れてさらに炒めたものと、そのあとのフライパンで、荒くほぐしたブナしめじを炒めて塩胡椒したもの。
 ソースは、バターを溶かした中に、ライムの絞り汁を入れたもの。
 ブリってムニエルに向いてるのね。すごくおいしかった。

◆ししゃも
 ししゃもは、買ってきたら、いっぺんに焼いてマリネにすることが多い。香味野菜とリンゴ酢と薄切りライムと砂糖。これは常備菜として。

◆カッペリーニ
 極細パスタ。ディチェコのが、マキイで安く売られてた。円高ユーロ安のせいか。迷わず購入。0.9mmで、ゆで上がり2分だから、市販のオイルソースをまぶせば、すぐに食べられる。料理の付け合わせがちょっと淋しいかな、というときに便利です。
 ラーメンとか冷やし中華にしてもいいんじゃないかと思う。

◆ライム
 ライムは、レモンと同じく、日本の庭で栽培できます。園芸店や植木市で苗を見つけたら、お試しあれ。無農薬、無防カビ剤だと、丸ごと使えます。
 そういうわけで、ライムが今、たくさんあるので、ライムを食べる話が多いのです。
 塩漬けライムの話が出て来たのは『あしながおじさん』でしたっけ。
 私は薄切りにして砂糖漬けにしてます。
 水やお湯や炭酸水で割って。

◆甘いハイボール
 ウヰスキーと、スライスしたライムと、三ツ矢サイダー。見た目美しく、甘い。
 オトナの味である必要はないのですから。
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アジア太平洋フェスティバル

2011年10月10日 | 物見遊山
◆楽しいおまつり
 アジア太平洋フェスティバル最終日。午後からマリンメッセに出かける。博多駅から大博通りを北へ北へと進むと、コンベンションゾーンとなる。
 ここは、2005年5月の宇宙フェアとか、2010年2月の生物多様性EXPOとか、何だか楽しいイベントが多い。
 あちこちでバザーやくじ引きが行われ賑わっていた。旅行会社や航空会社、国内外各地の観光協会などや、アジアやハワイの食べ物やおみやげもののブースがあった。
 ココナツミルク缶やスイートチリソースなどのエスニック食品安し。ライスペーパーがあれば背負って帰ろうと思ったが、残念ながらなかった。
 いわゆるストールなどの巻き物が、ここ数年流行っているせいで、よく人が見ていた。パシュミナを買おうかなと思っていたけど、好みのものがなかった。ああいうのは初日午前中に来ないとダメなのね、きっと。
 中国雑技やNHK番組の収録や、台湾先住民族の舞踊などを見る。NHKは小松政夫の博多屋台にゲストがやって来るというローカル番組。
 実は昨夜見たばかりの、高倉健主演の「居酒屋兆治」のDVDに小松政夫が出てたので、あららと思う。

「居酒屋兆治」
 出て来るのは、大原麗子、東野英治郎、伊丹十三、池辺良など、もういない人たちも含めた超豪華キャストだ。
 函館で、造船所勤めをやめて居酒屋をやってる人とその周辺の日々という話。
 お互い結婚して子供もいるのに、元カレ(健さん)に未練たっぷりの女性(大原麗子)が、他の男と駆け落ちするは、家を火事にしたあげく家出するは、雨の日に、仕込みをしている健さんの店に来て、困惑する健さんを置いて雨の中出て行き、隠れて出て来ないは、健さんの居酒屋に、何度も無言電話をかけるは(以下は本編をどうぞ)はっきり言って困ったちゃんです。でも美しいんです。
 この映画を見たら、自分に女の子がいたら「いいですか、実らない恋はゴミです。さっさと捨てるんですよ」と、小さい頃から言い聞かせるべきだと思うに違いありません。

◆おみやげは駅弁
 九州各地の駅弁も売っていた。人吉旅情弁当を買って帰り、帰宅して食べる。竹皮で作られた弁当箱に、エビとハンバーグと芋天とマスの甘露煮がついた弁当が入っていた。安心して食べられるおいしさである。 
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「BABYFACE」非情のライセンス

2011年10月08日 | 本について
井上雄彦「BABYFACE」(「カメレオン・ジェイル」集英社 収録)

◆殺し屋なる職業というのが存在するのかどうか。

 コミックの世界では、殺し屋といえば老舗のゴルゴ13ことデューク東郷さんだが、この人は何を考えているかよくわからない。
 若い殺し屋といえば、「ルサルカは還らない」(集英社)のレッド・フレア。
 全5巻の2巻末尾から登場する。IRAのテロリスト→CIAのスパイ→日米の秘密機関の特殊部隊の傭兵→最後は要人警護→任務成功、世界の危機を救い→職場恋愛の恋人(本編の主役、日系三世、麻薬取締局という、USA公式殺人機関にお勤めの公務員)と一緒に、殺し屋稼業から足を洗う、という、めでたしめでたしなお話。
 それから「キリコ」(講談社)の榊キリコ。
 これはもう、どノワール。全4巻の中で何人が殺されるでしょう。冒頭、雑踏の中で無表情に弁護士を殺し、末尾で雪の中、泣きながらその弟を殺す。なぜ殺人マシンとして育てられた彼女が泣くようになったのか、なぜ殺される男が微笑んでいるのかというお話。
 いずれも卓越した戦闘力を持つ美女である。
 ともかく、殺し屋は、誰かに恋すれば、別れるか相手を殺すか足を洗うかのハードボイルドな三択となる職業なのである。

 さて、「バガボンド」「リアル」の井上雄彦、圧倒的画力の人の昔の短編作品「BABYFACE」。20年前も絵がうまいが、今とは全然違う。1988年の「楓パープル」(これも「カメレオン・ジェイル」収録)は、主役が吉田秋生、女の子が弓月光っぽいし、アール・ヌーボーっぽい扉絵は一条ゆかりが当時やってたような気がする。好きな漫画家を見ながらいろいろ試してたのだろうか。それから精進を続けて現在に至るということなのでしょう。
 この、31ページほどの短編「BABYFACE」(初出は1991年暮)に登場する殺し屋は23歳の青年。
 彼の「組織」は、物語の中でははっきりしない。彼に手短かな言葉や簡単なメモで指示を行う初老の背が高くメガネの男、ぱっと見は、定年間近な管理職、もしかして外人、がひとり出て来るだけである。組織は彼のことを「BABYFACE」と呼んでいるらしい。

 物語の核心部分に触れますが↓
 彼の卓越した資質は、殺しの能力だけではなく、その名の通り虫一匹殺しそうにない優しげな童顔にある。それは人を欺くための演技ではなく、天然のようである。無邪気に子犬に語りかける彼を誰も警戒しないだろう。それが、標的の写真と拳銃を指示とともに与えられると、無表情な殺人者となる。
 チンピラとかヒットマンとかいう言葉がそぐわぬ、まさに「組織の優秀なるプリンス」は、任務を遂行すると、すぐさま「組織」の用意した遠くの町の住居へと移らないといけない。
 話の中では、BABYFACEくんの名前はわからない。「組織」が、行く町ごとに違った名前を用意しているのかも知れない。

 さて、北国での仕事を終えた彼は、東京渋谷に居を変え、一ヵ月後には工事現場で働いている。お節介で気のいい同僚・哲也が、憧れのコンビニレジの女の子との仲を後押しし、ついに彼はクリスマスデートの約束をとりつける。
 哲也には「純情で人の良い男」としか見えていない。実際、普段の生活では純情で人が良いのである。
 クリスマスイブ、雑踏で花束を持つ彼。いつもの作業服ではなく、ツイードのジャケットに、ネクタイ、ピーコート。童顔に似合うトラッド系でキメている。
 彼のもとに現われたのは、組織の男。手短かに指示をして去っていく。
 展望エレベーターで実行場所に行く途中で、遅れてきた彼女の姿を認める。もちろんいつものコンビニの制服でも、地味な通勤着でもなく、可愛くおしゃれしている。カチューシャにハートのイヤリング、チェックのミニスカートにタイツ、コートはきっと赤だ。
 エレベーターの窓から外を見て涙する青年。普通の男の子の幸せ(って言うのか?)が、逃げていく。
 次の瞬間、エレベーターのドアが開き、サイレンサーつきの拳銃で、ターゲットを至近距離で撃つ。
 また別の町に行くことになった。ひとなみの恋や青春を置き去りにして。
 まあそういうお話である。

◆話はその後どうなるのか。

 で、続きの展開を勝手に書いてみる。
 またコンビニでレジを打つ日々がはじまった彼女。数日後、彼の同僚哲也が現われる。「奴はどうしてるんだ?」「奴って? 一体何の話よ?」
 クリスマスイブの日、約束の時間の直前に、彼と会っていた件を哲也は彼女に話す。一緒に花屋に入り、彼女に渡す花束を買ってから別れたのだと。
「奴とはそれっきりだ。身内だという人から辞めるという電話が一本かかってきた。詰め所に少し荷物があったんで、昨日、親方と一緒に履歴書の住所に行ってみたら、空き家なんだよ。全然連絡とれないんだ。何か知ってないか」
「知ってるわけないでしょ」
「てか、……おまえら、デートしなかったの?」

 ……どういうこと?

 20分遅刻したら、いなかった? 
 うん。私がついてじきに、何かあったらしくてパトカーとか救急車とかたくさんきて、すごく騒がしかった。もしかして、事故に遭ったとかかな、と思いながら待ってたんだけど。
 ああ、ニュースでやってた。どーせ、ヤクザの抗争かなんかだろうが、何もクリスマスイブにやらなくてもいいのにな。
 多少の遅れは大目に見ろと言ったんだがなあ。ほら、あの角の花屋で花買ったんだ。あんたのために。結構大きなバラの花束だったよ。
 あいつは、本当にあんたのことが好きだったんだよ。それだけは言えるよ。
……しかし、20分待てないってのはあり得ねえ。わけわからんな。

 こんな具合に、大きな「?」を2人が抱えたまま、終わるというのが順当(?)なところか。置いてけぼりを喰らったこの2人が仲良くなるかどうかは不明である。

 では、彼女がもし約束の時間に来ていたらどういう展開になったのか。
 まさか女の子と会ってる彼に、殺人指示を与えるわけにはいくまい。微笑ましいカップル(本当に可愛く描かれているのだ)の楽しいデート。 
 しかし、彼は稼業から足を洗うことができるのか? それができない限り、もっと悲しい別れが待っているのではないか。いずれ次の指示を実行すれば、遠くの町に行かざるを得ないのだから。

 あるいは、哲也が、野次馬根性で、ちゃんと彼女とのデートとなるかを見届けるため、どこかから彼を監視する、という展開もありうる。突然現われた、謎の初老の男と花束を交換し(そのとき、拳銃とターゲットの写真も受け取っている)展望エレベーターに乗った姿を確認されていたとしたら。
 その日起きた殺人事件と、消えた童顔の男が関係あると、哲也が認識したとしたら。

 とまあ、31ページほどの短編ですが、かように楽しめるわけです。

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東南アジア系お献立について 

2011年10月04日 | グルメ
◆焼きビーフンをつくる。
 ニラをいただいたので、ビーフンにした。
 インスタントの味付きビーフンも売っているけど、味のついてないビーフンを使うのも、そう手間ではない。というか、自分で味付けした方が、圧倒的においしい、と思う。ビーフンを戻すのも、お湯に浸すだけだし。これは水洗いして水切りして食べやすく切ってゴマ油をまぶしておく。
 細切り肉野菜炒めを作って、ビーフンと混ぜてスープと醤油と酒で味付けして炒めて、スープの水気がなくなりかけたらニラを混ぜて、塩胡椒で味を調整し、仕上げにゴマ油をちょいとかける。
 肉野菜炒めの油を熱するときに生姜を入れて香りを出したら、それっぽい味になる。椎茸は必要。あれば干しエビを水に漬けて、漬けた水も味付けに使う。
 ビーフン多めで主食、肉野菜多めでおかずとなる。
 おお、台北の屋台の味……って、行ったことないけど。

◆ところで、ライスペーパーって便利
 ライスペーパー=生春巻の皮は、水に濡らすだけで戻ってそのまま使え、すぐ食べられる。熱も油も使わないので省エネかつヘルシーである。しかも、焼いたり揚げたりすれば、普通の春巻の皮のような調理もできる。そのものに大して味があるわけではないのに、何を包んでもおいしくなるのはなぜだ。で、包んで斜めに切ったりすると、単なるサラダや野菜炒めが、なんとなく、おしゃれっぽくなるのはなぜだ。
 おまけに、普通の春巻の皮と違って、常温保存が効く。そういうわけで、ライスペーパーは常備している。

 
 


 
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ホームページ更新

2011年10月03日 | 本について
ホームページ更新 ←クリックすると、図書出版のぶ工房のページに飛びます。


『ぼくらの想い』発刊。←クリックすると、『ぼくらの想い』のページに飛びます。

彼らが、印刷媒体として、自分たちの本をつくろうとしたことに注目したいと思う。
 
 すべて電子ブックになるだろうか。紙媒体は、伝統工芸と化してしまうのだろうか。
 数年前から、紙媒体の本をつくりながら、そのことを、時々考えている。
 誰にどうやって配布するかを考えたとき、紙は安心で確実なのかな。


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