発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

「トノバン」音楽家・加藤和彦とその時代

2024年06月06日 | 映画
「帰って来たヨッパライ」が、すべてを変えた
 物語じゃないのでネタバレはない。
「トノバン」音楽家・加藤和彦とその時代を描くドキュメンタリー映画。ユナイテッドシネマ、キャナルシティ博多。夕刻の回。チケットを買って店をぶらぶら。無印良品の書店が4階に移っていた。
 映画冒頭は2022年のオールナイトニッポン55周年番組オンエアの様子。「ビタースウイートサンバ」の響きに一足飛びにラジオ少年少女だった時代に連れて行かれる。
 年老いた初代DJ斎藤安弘、なんかお爺さんがしゃべっているぞと思っているうちに、本調子を取り戻し違和感なく聞こえてくる。彼がかける曲が「帰って来たヨッパライ」。
 1967年開始のラジオ深夜放送番組オールナイトニッポンから加藤和彦の活躍がメジャーとなった。「トノバン」は、加藤の愛称。大人が仕掛けたのではなく、アマチュア学生バンドの卒業記念盤から始まった。すべてが新しく、まさに一世を風靡した「帰ってきたヨッパライ」。「Ⅽ」のコードの開放弦にひとつ指を足して、不協和音にして。
 映画ではその言葉はなかったが「東芝レコードが買い取れるくらい儲かった」という談話を読んだ記憶がある。

◆気分は「イエスタディワンスモア」なのさ
「イムジン河(が発売中止になったくだり)」「悲しくてやりきれない」
 曲と関係者のインタビューが続く。存命である北山修、つのだ★ひろ、高中正義、吉田拓郎、泉谷しげる、坂崎幸之助、レコードやラジオの関係者。存命ではないが、高橋幸宏、坂本龍一。
「あの素晴しい愛をもう一度」(
以前も紹介したが映画「愛と誠」の中で武井咲演じる早乙女愛が踊りながら歌っているのが最高に可愛いから貼った。大賀誠が妻夫木聡なのは一目瞭然だが、斎藤工演じるメガネの岩清水弘からも目を離せない)(歌の題名の正しい表記は「素晴らしい」ではなく「素晴しい」なんですと)。リズムがサイモン&ガーファンクルの「ボクサー」のリズムであると言われれば、確かに「ライラライ」に乗っかるなあ。
 サディスティックミカバンド。高橋幸宏がドラムを叩き高中正義がギターを弾いてるじゃないか。映像で見る豪華さ。
 さまざまなヒット曲、レッテルを貼られることへの抵抗、続く進化。
 だが突然それは終わった。
 怒りと悲しみのこもった高中正義の追悼のメロディに心を揺さぶられた。
 ものを作り続ける努力というものについて考える。
 映画の最後は「あの素晴しい愛をもう一度」で締めくくられた。
 まったく気分は「イエスタデイワンスモア」。
 キャナルシティの噴水(写真)は「タイムトゥセイグッバイ」に合わせて踊っていた。物販店は終了している。21時30分のこのプログラムが、一日の噴水の最終回なのかな。
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(あくまでKバレエにおける) クレオパトラと男たち

2023年03月16日 | 映画
◆映画館でバレエ鑑賞
 Kバレエカンパニーの「クレオパトラ in Cinema」を見に行った。
 去年の秋、ネットで公演の広告をしていてちょっと気になっていたのだ。
 オペラやバレエは、チケットがお高いし公演も少ない。だから、ひょいと行くには敷居が高い。
 実際クレオパトラ公演を生鑑賞しようと思えば、大阪か東京か札幌まで出向く必要があったし、チケットはすぐ売り切れたらしいし。潤沢な資金力と機敏なチケット購入への熱意を要するが、そこまでのバレエファンではない。
 だが、映画館なら気軽に行ける。

◆さあ、世界史バレエですよ
 ユナイテッドシネマ最終日。先着順で貰えるクリアファイルはまだあった。6列目真ん中の席で予約なし鑑賞はバレエ公演ではあり得ない。
 最初にオーケストラピットが映し出され、カール・ニールセンの「アラジン組曲」から「祝祭行進曲」が演奏される。
 クレオパトラと共同統治していた弟のプトレマイオス13世が、緑の衣装の孫悟空という感じで現れ踊る。彼を教育する高官たちがスキンヘッドなので、悟空っぽさが増し増し。姉とは仲が悪い。派閥争いが起こっている様相から物語は進む。
 華麗な群舞、美しいソロやパ・ド・ドゥ。

◆3つの関係 
 2時間のバレエのなかで、クレオパトラと男たちの関係を3つ選ぶとしたら
1「奴隷」
2「カエサル」
3「アントニウス」
 あくまで熊川哲也プロデュースのバレエの話ね。

◆そこに愛はあるのか
 1はもう、ね、身も蓋もないハーレムなわけ。クレオパトラは、まさに女王蜂のよう。アピールするセクシー奴隷たちから「今日はどれにしようかしら、ホーッホッホッ」とばかりにひとりを選ぶ。
 選ばれし奴隷は、夜伽のあと毒殺される運命。もちろん奴隷もそれを知っている。女王は毒瓶を口に咥えて「こと」に及び、毒薬を奴隷の口に垂らして死に至らしめる。大地真央ならずとも「そこに愛はあるんか!」と言いたくなる女王の日常である。
 似た話は、よしながふみの「大奥」にも出てくるが、それは日常茶飯の話ではない(しかも、男性は結局殺されない)。

◆計画通り!の甘い誘惑
 2は、かの有名な、ハニートラップの元祖。エジプトにやってきたカエサルの前で、美女ダンサーが入れ代わり立ち代わりソロで踊るのだが、関心なさげ。そんな彼の前に、カーペットに巻かれて登場するクレオパトラ。カエサルを落としたその瞬間のクレオパトラの
「計画通り!」
な、会心の笑み!
 色仕掛けも厭わぬ策略家、政治家クレオパトラの本領発揮である。
 とはいうものの、可愛い子どもも生まれて幸せなら結果オーライ。
 でも、カエサルは、独裁を行い、ブルータスに殺されるのも有名な話で、落ち込み悲しみにくれるクレオパトラのところに、元気出して、とやってくるのが第3の男アントニウス。

◆単なる恋人同士なの
 エジプトに帰る船の中、カエサルはもういないし、おつきの人たちがクレオパトラを元気づけようと、珍しい食べ物やいろんなものを持って来ても、何か面白いことをしても、クレオパトラは、しょんぼり。
 そういえば、首飾りをくれたアントニウスはどうしているかしら。

 そこに、アントニウスが追いかけてきた。
 そこからの再会のパ・ド・ドゥが、このバレエ最大の山場だと思う。傷心のクレオパトラの心を動かしたアントニウス。女王でも英雄でもなく、恋人たちのダンス。会いたかったのはあなた。愛しくて愛しくて、とても大事なの。

 ネット上のレビューを見ると、奴隷たちとの絡みは要らないんじゃないか、という評が結構あるが、前半の人の生命を何とも思わぬ冷徹な女王ぶりを見せることで、幸せな恋人たちの悲劇がよりくっきりと浮かび上がる。
 愛を知らない女性が愛を知って死んだというストーリーとして見れば、やっぱり必要な場面なんだ、あれは。
 
 


 

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ラーゲリより愛をこめて 1

2022年12月09日 | 映画
映画の冒頭はハルピンでの結婚披露宴。1945年8月になるに至って円卓にはご馳走がたっぷり並んでいる。内地の空襲や広島原爆投下の話も聞こえ、戦況の深刻さも伝わっているが、8月9日のソ連参戦ですべてが変わる。父親は爆撃でケガをして動けなくなる。妻と4人の子どもたちに「日本へ帰れ、日本で落ち合おう」と告げる。
 その後父はシベリアに抑留。母子は引き揚げの旅ののち帰国し、父の帰りを待つ。冬には極寒となるシベリアでの強制労働。そのうちに内地にハガキが書けるようになり、家族が無事帰還したことを知る。ところが。
 その後に起こった奇跡のような物語。

◆事実に基づいたお話。
 シベリア抑留に関しては、香月泰男の絵画「シベリアシリーズ」、帰還を待つ人々については、二葉百合子の「岸壁の母」。たくさんの話がある。帰れた人、そうでない人、何十万通りの過酷な物語があるが、そのなかにこういうこともあった。

◆二宮和也演じるところの本編主人公、山本幡男さんというのは実在の人物で、このお話の元となったドキュメンタリーが出版されてその名が広まった。重要な4人の人物がポスターになっているが、実際は6人だったんですって。ともかく立派な人です。

◆人間愛の話であり、約束を果たす話であり、戦争はなかなか終わらないという話でもある。続きがあるかも。 
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「空の青さを知る人よ試写会」 10/7 Tジョイ博多 おら東京さ行ぐだ物語

2019年10月09日 | 映画
「空の青さを知る人よ試写会」
「私はミュージシャンだ」というのは、70年代から80年代にかけてのサブカルチャー漬け少年少女の世界では、掃除当番などをやりたくないときに使う言葉であった。
それはさておきこの映画、高卒後、彼はミュージシャンの夢をかなえるために東京に出、両親に事故死された彼女(姉)は幼い妹を育てるために地元に残ることを選んだ。13年の月日が経ち、姉は市役所勤務、妹は孤高のベーシスト高校生。これは恋人たちの再会と少女の成長物語なのだ。ありえないファンタジー設定で、少女の恋は叶わないとすぐわかるが、どう終わらせるかに注目して鑑賞。えらいぞ妹!!
 この映画ではなんと七角関係が展開される。六角ともいえる。
◆松野兄弟がもし一人っ子だったら
 脇役として登場する市役所職員にしてドラマーにしてシングルファザーの父とその小学生の男の子が、おそ松さんに似たデザインで可愛い。
◆ひねくれ者は手口にツッコミを入れる
 離ればなれになり音信不通になっていた恋人たちの再会。
 って、車が埼玉ナンバーをつけてるところであれ?と思った。埼玉って東京の隣県で、舞台である秩父からは、西武線で鈍行でも池袋まで2時間かからない。電車代も片道800円かからない。渋谷や原宿に出ても1000円以内で、直方や大牟田から天神に出るよりも安い。早起きができれば相当遊べそうだ。終電の時間にさえ気をつけていれば、毎週でも遊びに行けるところではないのか。中学生だって夏休みに友だちと誘い合わせて出かけたりできる場所じゃないのか。それがひどく遠い場所のように描かれていた。東京住民から秩父は遠い場所なのかもしれないが、秩父住民から東京は近いと思う。
 なぜ会わないまま13年も過ごす? なぜ普通に遠恋しない? というか片道1000円以内で遠恋? 全国遠距離恋愛連盟というのがあれば、それは遠距離恋愛と認定してもらえないと思う。
 彼は売れっ子の花形ミュージシャンにはならなかった。しかし、一流歌手のバックを務めるミュージシャンはライブに行って私が見る限り一流の演奏をする人たちで、つまり彼はたゆまぬ努力をしたのだ。スターにならなかったからといってそんなに腐って世の中を斜に構えてみるような必要はまったくない。ビッグ(……)になって迎えに来れる確率はすっごく低いんだけど、何か不満? 何が不満? むしろ、時間をかけて、なかなか立派な鮭になって遡上してきたといえるのではないか。
 ついでに意地の悪いことをひねくれ者は書く。東京さ出てスターミュージシャンになったアーティストはなかなか「地元一般女性と結婚」なんてしないよね。ついでに書けば、糟糠の妻と離婚までしてモデルとか女優とかと結婚した人も枚挙に暇がない。スターミュージシャンにならなかったからこその復縁ファンタジーなのだ。







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2019年9月順不同 「蜜蜂と遠雷」本、旅などなどにまつわるエトセトラ

2019年09月30日 | 映画

◆9月30日「図書館ブックフェア」設営
 今年の会場は福岡タワー1階。
◆9月13日 丸善博多店 ブックコン参加。
 丸善は、通路吉塚側の突き当たりの壁面に私たちの本が置いてある。
◆同日、JR九州ホール[世界を変えた書物]展。
 世界史の教科書に出て来る本の本物がたくさん。金沢工業大学の稀覯書コレクションだが、革装の上製本、美しい図版や飾り罫。古い紙の匂い。コペルニクスの『天球の回転について』ダーウィンの『種の起源』レントゲン、キュリー、アインシュタインと展示され、とてつもない宇宙が展開されていた。
◆9月7日 山口県長門市へ行く。
 旅に出たかっただけ。日本海を眺める。
◆9月24日 蜜蜂と遠雷試写会。天神TOHOソラリア
 音楽の世界のことはあまりわからない。なにか聞かれても答えられない。楽器もできないにひとしい。楽器を手にしても練習しないのだから、音楽の神様もやってくるわけがない。 でも、チャンスがあればあらゆるジャンルを聞く。どれも楽しい。アコースティックな音は脳細胞の並びが整う(気がする)。だからいつもシアワセな気分で家に帰れる。音楽鑑賞の神様には愛されていると思っている。
 演奏家、特にクラシックの演奏家についての私の見解は「迷ったら負け」。ことにソリストに迷いは許されない。ひとつの音も聞き逃すまいと耳を澄ませている大勢の観客。中にはその曲をいろんな演奏家で繰り返し聴いている人もいる。目はプログラムの確認をする一瞬があるかも知れないが、耳は休まない。コンチェルトともなればオーケストラと指揮者相手に丁々発止。集中しながら長い曲を演奏し続けるエネルギーも相当なものだろう。ソリストに限らない。シンフォニーにほんの二小節だか四小節だかのソロが入るとき思う。この音を出すのにどのくらいの研鑽と努力と準備が必要だったのだろうか。迷う暇などないはずだ。
 ともかく、今回は映画鑑賞の神様が私を愛してくれたようで、試写会が当たった。
 この映画は群像劇だが、かつて天才少女と呼ばれていたが、母親が亡くなったばかりだというのにほんの子どもにコンチェルトのソリストを務めろというのも酷な話で、そのコンサートから逃げ出して以来表舞台から姿を消していた栄伝亜夜20歳が、久々にコンテストに登場、復活成るか?というお話が中心である。一度挫折して、それでも大きな国際コンクールに戻ってこれたというのはすごいことなのだが、彼女には迷いがまだあった。その辺、音楽関係者には見抜かれちゃってるの。
「覚悟がないままピアニストになるっていうのも、結構悲劇よ」(審査委員長)
「失礼、ピアノの音が出なくなったかと思って」(最終選考コンチェルトの指揮者、リハーサルで)
 でも、残酷な世界なのは、他の参加者にとっても同じこと。最終選考に残れなかったジュリアードの学生は亜夜に向かって叫ぶ。
「Why you? This is unfare!」
なんだって長いことピアノ休んでたあんたが最終選考に残れてその間ずっと研鑽積んでた私が落ちるのよ?というわけなのだ。
さて亜夜は音楽の世界に帰れるのか? 

 審査委員長はこんなこと言ってたわね。
 音大でピアノやる人の多くは「ピアノ教師になるか、趣味として続けるか、やめてしまうか」
 ああ、そうだろうな。あっち側(ソリストとして活躍するような職業演奏家)に行く人はほんの選ばれたひと握りなのだ。でもやめてしまうなんてもったいない。

◆9月の新聞の感想
「あなたたち、一体何をやってるんですか!!」(テレビ「ハゲタカ」大森南朋版、三島由香の台詞)これに尽きる。
または「よくもそんなことを!!」(グレタ・トゥンベリ)。地球温暖化のことを言っているのではない。ことばの骨が抜かれていく。私はこれに静かに地道に確実に抵抗していかなければならない。


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ゴジラ キング・オブ・モンスターズ ブラッドベリの古くて美しい話について

2019年05月31日 | 映画
◆恐竜はブラッドベリに還った

 ハリウッド版新作ゴジラ映画。伊福部昭のゴジラのテーマは、劇場で聴いてこその気がした。ちなみにこの映画にはモスラも出て来るが、モスラの歌(ザ・ピーナッツが歌ってたのを知ってる私は古い)は、「栄冠は君に輝く」の古関裕而の作曲だとエンドロールのクレジットで知った。
 モスラ、ラドン、キングギドラと、かいじゅうだいこうしんの映画である。
 物語の核心には触れていません。
 大事な道具として、「オルカ」というハイテクな発明品、音波発生装置が出て来る。この音で怪獣は目覚めたり、呼び寄せられたり、凶暴さがなくなったりする。
 これを見て私が思い出したのは、ブラッドベリの短編 THE FOG HORN =『霧笛』。
 ずっと昔、萩尾望都が漫画にしてて、それからかなり時間が経って原文で読んだ。(もちろん英語は専門外だが、漫画の粗筋をおぼえていたので、なんとかなった。)
 ブラッドベリに出てくるのは、海底深く眠っている古代の恐竜で、灯台が発する霧笛の音を遠くで聴いて、仲間がいるのではないかと遠く旅をしてやってくる。恐竜の姿をまのあたりにして、「ありえない(impossibleは、こう訳すのがぴったりかと)」と叫ぶ新参灯台守に、恐竜が来ることを知っていた古参灯台守が言う。ありえないのは恐竜ではなく自分たちだと。
 それに近い言い回しが今回の映画にも出て来る。人間こそが地球の病原菌だと。そしてオルカ装置の音はまさしく海底で孤独に眠る古代恐竜を覚醒させるブラッドベリの霧笛だ。

 ブラッドベリの巨大恐竜は、霧笛のスイッチを切ると怒って暴れ出し、灯台を破壊してしまう。
 
 調べてみると、1953年アメリカ映画でその『霧笛』が原作だという「原子怪獣現わる」というのがあったらしいが、粗筋を読むと全然違う。ブラッドベリの恐竜は核実験とも関係なく、都市も襲わない。でもこの映画は初代ゴジラ映画に影響したらしい。で、本編のゴジラは60年以上かけて、オルカに呼ばれてブラッドベリに還ってきたのだと思った。
コメント (4)
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映画「運び屋」 「ダメ、ゼッタイ」な荷物

2019年03月08日 | 映画
◆映画「運び屋」試写会。2月26日、Tジョイ博多

 クリント・イーストウッド様が、麻薬運送業を開業するお話。
 アメリカでは、90(主人公アールの年齢。演じてるクリント・イーストウッド様は御年88)歳でも、日本のように車に高齢ステッカーはつけないのね。
 家庭を顧みずに花き栽培農園を経営してた爺さんが、商品をネット流通に乗せることができなかったため、農園をつぶしてしまう。娘の結婚式もすっぽかしといて今さら家族に頼ろうとて冷たくされるだけ。残ったのはポンコツのピックアッブトラック。途方に暮れていたとこで、エルパソのタイヤショップからシカゴまで「あるものを運んでもらうだけ」というお仕事に乗ってしまうのだ。

 報酬に爺さんびっくり。荷物はヤバい麻薬だったのだ。で、そのギャラで、壊れそうなポンコツカー(いきなり往路で故障したらどうするのよ、とハラハラさせられた)は、すぐに黒くてピカピカのリンカーンのピックアップに変わった。ビックアップは、この辺ではあまり見ないし、走ってても大概トヨタハイラックス。でも、高級車ブランドのピックアッブは、アメリカじゃ普通に走ってるみたい。
 エルパソはテキサス州のメキシコ国境の町で、スペイン語っぽい地名が示す通り、もともとはメキシコだったところだ。そこから東北にずんずん進み、ミシガン湖に当たればイリノイ州シカゴ。地図で見ると鹿児島〜稚内くらいなのか。結構な距離である。
 とてつもない末端価格のブツを輸送するのだから、報酬も半端なく、2回目の仕事で家と農園の抵当をはずした。それから、火災に遭った退役軍人サロンの再建資金を出して解散から救い、孫の学費を出した。
 もうそのあたりで十分でしょう、お金の問題はほぼ解決したでしょう、と思うのだが、爺さんは運び屋を続ける。電波が届かないところで車をパンクさせた家族を助け、麻薬犬をやりすごし、監視についた麻薬組織の若者に絶品ポークサンドをごちそうし、荷物チェックしようとしたおまわりさんに「これうまいぞっ」とキャラメルコーンを渡し、顔色ひとつ変えずにヤバい橋を渡りながら、まだまだ続けるのだ。そのうち、麻薬の大量輸送をしている「タタ(アール爺さんのコードネーム。スペイン語でパパって意味)」の存在に麻薬取締局が気づく。
 麻薬取締局の権限は強大である。何せ特殊部隊を持ってる。さあどうなるのか。それとも組織にハチの巣にされてしまうのか? どうやってこの話を終わらせるのか? 映画館で楽しい大陸ドライブと、スリル満点手に汗握る運び屋稼業を体感しませう。

 アール爺さん、家庭人としてはいい加減で、経営者も失格なのだが、運転は無事故無違反、その他の逮捕歴もない、社会的には善良な市民なのだから当局もノーマーク。失うものもないし、老い先短い。だから組織にスカウトされたんだろう。この映画をみた上で「ダメ、ゼッタイ」な運送業をやってみる蛮勇のある方はいらっしゃらないでしょうね。


 ある意味ハッピーエンドなんですよこの話。

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家族はつらいよ2試写会 

2017年05月10日 | 映画

◆豪華な舞台挨拶

 都久志会館。舞台挨拶があるということは聞いていたが誰か来るかは知らされていなかった。小林稔侍、橋爪功、蒼井優である。生小林、生橋爪、生蒼井が、ほんの10メートル先でしゃべってる。

 年老いた親に、いつ車の運転を(人身事故を起こす前に)やめさせるか。運転老人のいる家庭の共通のテーマである。映画の舞台となっている家庭は、長男(西村雅彦)が駅まで歩いて通勤しているようだったから、駅までは徒歩圏、タクシーを使ったところでたかが知れていると推測される。だから運転をやめてもらうのは容易だと思うが、それでもやめたがらない頑固親父(橋爪功)なのだ。これが限界集落かそれに近い田舎の話だったら、もっと深刻な問題だっただろう。

 

◆運転にまつわるエトセトラ

 私の父は、誰にも言われないうちに自分で免許を返納に行き、それから何だか入退院が増え、ゆっくり風船の空気が抜けるように弱り、一年経たずに亡くなった。弱る前段階としてスズキセニアカーのような低速カートに乗って元気に行動するような状況をぼんやり想像していたのだが、それは省略してあちらの世界に行ってしまった。だから車の運転に執着する老人の気持ちもわからないではない。他人の迷惑や事故の危険と、やめると死んじゃうかもという不安を天秤に掛けて考えていたとしたら。

  車の運転は、脳を含めた全身フル活用なので、私の場合、運転していると全体的に調子が良くなる。頭痛腹痛筋肉痛肩こり眠気倦怠感は消滅し、上機嫌となる。生命がかかっていて手加減できない状況というのは、一般人の日常の生活では、車の運転というのが一番多いのではないか。生命がかかっているから、全体的に好調になるよう努めているのだと思う。私は運転免許はMTでとったが、最初の車(従兄の乗っていたものを中古車屋の引き取り価格で譲ってもらい、自分で登録した)からずっとこの方オートマしか乗っていない。私が乗ってきた車は、乗ってた車がダメになったときにたまたま手に入った現金払いで買える中古車で、だから何の脈絡もない車種が続く。が、どの車も、乗ってるときは大大大好きな車なのである。やはり中古で入手したシトロエンには5年くらい乗っていただろうか。この車は、しょっちゅう故障し、その間に私には怖いものがなくなった。走っている途中で白煙を出し、車を止めてボンネットを開けたことが何度もある。調子が悪い部品はネットで取り寄せ、近くの修理工場で取り付けてもらっていた。乗ってる間は楽しいけど、それと今度また買うかどうかはまったく別の問題である。たぶん今後死ぬまでシトロエンを所有することはないと思う。

 最近老人のペダル踏み違い事故(ブレーキと思ってアクセルを踏んでしまう)が増えている。右足でアクセルもブレーキも踏むからそうなるのだ。私はブレーキは左足で踏む習慣がはっきりついている。これはシトロエンに乗っていたときについた習慣である。シトロエンは、どの車種もそうなのかどうかは知らないが、右足でブレーキペダルを踏むことが不可能なのである。

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雛人形と、ゴースト・イン・ザ・シェル

2017年04月07日 | 映画

◆福島の八女人形会館♪見学ですよ。

 福島へ行った。といっても、福岡県八女市の福島である。市制施行のときに、福島の地名が使いたかったが、福島市というのはすでにあるし、筑後福島市にすると、すでにある筑後市と紛らわしい上に長いということで八女市になった経緯がある。八女は茶どころとして有名だが、街なかである福島は、仏壇仏具、節句人形、石灯籠等の伝統工芸品が多く作られる場所だ。ちなみにこの町にある県立福島高校は、五木寛之氏の出身校である。

 というわけで、通りすがりの八女人形会館♪を見学する。

 なぜ♪かというと、福岡ローカル民放では、八女人形会館のCMには邦楽旋律のサウンドロゴがついていて、長年にわたって放送されているため脳に深く刻み込まれ、八女人形会館の文字列を見ると、反射的にメロディーが浮かんで来るのである。

 平日昼間は暇なのかな。私の他は1〜2組のみ。1階は展示即売。600円台のマスコットから、数百万円の作家ものまで展示されている。親王飾り、段飾り、ぷっくりした木目込みの雛人形、兜や鯉のぼり。屏風に描かれた花模様と、親王飾りの衣装がカラーコーディネートされていたり、いろいろお洒落である。柳川さげもんも「まり飾り」という名で販売されている。端午節句の男子バージョンまり飾りもある。スペインはリヤドロ窯の親王飾りや武者人形が置いてあるのはデパートと同じだが、リヤドロの節句人形は、お顔がやっぱり違うと思う。ちょっと違う、なんか違う、というようなデリケートなところが節句人形にはある。

◆2階は、コレクション展示

 江戸時代から明治にかけての節句人形などを鑑賞。江戸末期の段飾りといえば、芥川龍之介の『雛』を思い出すが、展示されていた段飾りは15人どころではなく、翁媼の高砂人形含めた26人いる大所帯だった。博物館に保存展示されているお雛様はラッキーなり。

 

↑印象に残ったのは、戦士の休息というか、ザンバラ髪の落ち武者人形で、美しいがやや諦念を含んだ表情で兜を手に持っている。あー、私の首を差し出したらなんとかなるんかなーなどと思っていそうな。というか、これは節句人形、なのか?

 神功皇后と武内宿禰とか旧い場面のお人形さんもあり。

◆映画ゴースト・イン・ザ・シェルにお雛様が出てくる

 そういや、今公開中の「ゴースト・イン・ザ・シェル」に、お雛様の段飾りが出て来る。お母さんが嬉しそうで、ちょっと鼻の奥がツンとする。なぜかは本編で。

 呼吸と、それを意識する脳だけの自分、という感覚は、何十年も前、座禅に行って感じたことだ(しばらくすると足が痺れてそれどころではなくなるのだが)。脳だけが自分で、全身つくりもののサイボーグ。記憶が書き換えられているものの、バグとして出て来るのが本来の記憶だと気がつく。自分は誰なのか。「ゴースト・イン・ザ・シェル」は、宇宙に行かなくても機械の身体が手に入る世界なの、鉄郎。コミックも、シリーズアニメもまったく見てない私でしたが、楽しめました。

 

 

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ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜

2017年03月14日 | 映画

◆ひるね姫〜知らないワタシの物語〜試写会 Tジョイ博多

  試写会会場に行くと、女性のデイドリーム・ビリーバーの歌声。忌野清志郎の日本語カバー(セブンイレブンの歌)と同じ歌詞。歌ってるのは本編主役の森川ココネ=高畑充希である。この歌、原語では相手の女性は寝坊をしているが、日本語カバーでは、デイドリーム・ビリーバーは相手とは別れている。写真が飾ってあるということは、亡くなっているかも知れない。元歌はモンキーズ。モンキーズ・ショーは子ども時代テレビで見てた。デイビー・ジョーンズの名前くらいは覚えてるし、モンキーズのテーマ、D.W.ウォッシュバーン、素敵なバレリ、知ってるメロディーもいくつか。

  監督と声優の舞台挨拶ののち、As Time Goes Byが流れワーナーのロゴが映し出されいきなり本編となった。

  舞台は2020年倉敷である。瀬戸大橋の架かる鷲羽山(わしゅうざん。わしゅうやまと言う力士が昔いたよね)の海側の岸。電車はすでに全線廃線となった下津井電鉄のバス。本四架橋児島坂出ルート、児島瀬戸大橋近く。田舎っぽい描かれ方をしているが、町に出れば、中国地方3番目の都会(広島→岡山→倉敷→福山)だ。倉敷駅から観光地のいわゆる倉敷美観地区に歩く道は記憶している。海のほうには行く機会がなかった。

  主人公の高校三年女子ココネは、居眠り常習犯、母と死別し小さな自動車修理工場を営む父親と二人暮らし、という、ありがちな設定であるが、その平凡な日々をどうやってぶっとんだ非日常に持って行くのか。

 夏休みになろうという日に、父親がなんと逮捕される。モモタロー(お父さんの名前)、ココネ、父娘の危機。

 夢の世界と現実がシンクロしているのに気づいたココネは、眠って夢の中で問題解決しようとするのである。夢の中では彼女は魔法が使える王女エンシェン。いきなりファンタジー満開である。

 何しろモモタローは、近所の爺さんの軽トラを完全自動運転にして、ステアリングを持たずとも目的地に安全に行けるように改造しているのである。十分ぶっとんでいる。だが道交法違反で逮捕されたのではない。この自動運転制御プログラムのオリジナルコードをなぜモモタローが所有しているのか。そのあたりが問題となる。

 あとは本編をご覧くださいませ。

 完全自動運転といえば2005年の映画「アイ,ロボット」の、2035年ウィル・スミス刑事の乗るBMWだが、この車は、自動運転だけでなく、ひょいと立ち上がり、駐車場に縦型収納される(トムとジェリーの枠で放送されていた1950年代に考えられた未来の車の話「ステキな自動車」というアニメを思い出す)すぐれものである。

◆懐かしい仕掛け

 登場する「ジョイ」という柴犬の縫いぐるみ、夢の中では話せるし動けるのだが、これは、林明子・福音館書店の、小さな女の子がキツネの縫いぐるみと旅する絵本『こんとあき』の「こん」を彷彿とさせる。色はドラえもんだし。月夜の空飛ぶ側車を観てE.T.を思い出したのは私だけではないだろう。懐かしさを引っ張りだす仕掛けがあちこちに隠されている。エンドロールで流れるデイドリーム・ビリーバーが誰かは、映し出されるアニメーションでわかる。

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