発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

ことばの骨

2022年12月14日 | 日記

◆ことばの骨

 

ことばの骨が抜かれていく

それを嘘だと言うひとの声も

だんだん聞こえなくなってくる

真実も痛みも覆い隠され

 

ことばの骨が抜かれていく

ひとがひとであることのわけは

ことばであったはずだが

 

声が汚染されていく

病巣はゆっくりとひろがっていく

美辞麗句の売り文句と

ポジティヴ語彙の順列組み合わせから成る歌を

この期に及んであのひとたちは歌う

嘘だとわかりきってるそんな歌だけが

空中を飛び交うなか 

聞きたいのはあなたの声だ 真実の

 

ところでわたくしのことばの骨はまだ大丈夫か

腐ってはいないか

何者かに抜かれてはいないか

負けずに叫ぶ力はあるか

何かと取りかえようなどという誘惑に

ぼんやりと乗ったりはしていないか

ことばの骨など

抜かれたほうが楽だなどと

よもや頭の片隅を

掠めるようなことはないか

 

ことばの骨が抜かれ粉々になって

できるのは

平滑な荒野

のっぺりした風景は

晴れているうちはまだいい

雨ともなれば

雨ともなれば泥濘となり腐臭を放ち

足をとられて身動きできなくなる

それにすっかり慣れたころには

わたくしも骨抜きとなり

からだ中汚染されて野たれ死ぬこととなるのだ

 

まだその日は来ていないから

声の生き残りを

探しつづけている

自分の肋を時おり指で確認しながら

 

いつもいまだって

あなたの声を探している

(MTJ)

 

2018年初出。4年たって世の中は、もっと悪くなっている。この時代にいる大人しかも後半として、何かしなくてはならないが、何をすればいいのか。

 

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ラーゲリより愛をこめて 1

2022年12月09日 | 映画
映画の冒頭はハルピンでの結婚披露宴。1945年8月になるに至って円卓にはご馳走がたっぷり並んでいる。内地の空襲や広島原爆投下の話も聞こえ、戦況の深刻さも伝わっているが、8月9日のソ連参戦ですべてが変わる。父親は爆撃でケガをして動けなくなる。妻と4人の子どもたちに「日本へ帰れ、日本で落ち合おう」と告げる。
 その後父はシベリアに抑留。母子は引き揚げの旅ののち帰国し、父の帰りを待つ。冬には極寒となるシベリアでの強制労働。そのうちに内地にハガキが書けるようになり、家族が無事帰還したことを知る。ところが。
 その後に起こった奇跡のような物語。

◆事実に基づいたお話。
 シベリア抑留に関しては、香月泰男の絵画「シベリアシリーズ」、帰還を待つ人々については、二葉百合子の「岸壁の母」。たくさんの話がある。帰れた人、そうでない人、何十万通りの過酷な物語があるが、そのなかにこういうこともあった。

◆二宮和也演じるところの本編主人公、山本幡男さんというのは実在の人物で、このお話の元となったドキュメンタリーが出版されてその名が広まった。重要な4人の人物がポスターになっているが、実際は6人だったんですって。ともかく立派な人です。

◆人間愛の話であり、約束を果たす話であり、戦争はなかなか終わらないという話でもある。続きがあるかも。 
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