テロ特措法の「条件付」延長を提案する (その1) < 不許無断転載・引用>
―A Proposal for a Qualified Extension of the Law on the Special Measures against Terrorism ―
2007.9.22.
9月25日、安倍総理の辞任、内閣総辞職を受けて行われた衆参両院での首相指名選挙において、福田康夫自民党総裁(元官房長官)が選ばれ、福田新内閣が発足した。新内閣での当面の最大の争点は、泥沼の状態の年金問題や「政治とカネ」の問題は別として、11月1日に期限切れとなるテロ特措法の延長問題で、インド洋における海上自衛隊による米国艦船等に対する給油活動が継続出来るか否かである。
福田新総理は、自民党総裁選挙において給油活動は「対外公約」であるとしてその必要性に言及している。しかし、民主党は、インド洋における米国艦船等への給油活動は、「国連の枠外の行動」であり、集団的自衛権の行使に当たるとして反対しており、7月の参議院選挙の結果、野党が参議院の多数を握っているだけに延長は微妙な情勢だ。
2001年9月11日、米国で発生したイスラム過激派アル・カイーダによる同時多発テロを受けて、アフガニスタンに潜伏する首謀者ビン・ラデンを始めとするテロ・グループ、及びこれを庇護・支援していた同国のタリバン勢力に対し、米国は、同国のみならず国際的な脅威であるとして「テロとの戦争(War on Terror)」を開始した。英国などNATO諸国はいち早くこれを支持したが、日本も小泉政権の下で、同盟国として米国の軍事活動の「後方支援」など、非軍事支援に限定した支援策を検討し、テロ対策特措法を4年間の時限立法(その後、2年以内毎の延長可)として国会で成立させ、同年11月より施行した。各国支援の下でのアフガニスタンにおけるテロ掃討活動や治安維持が長期化する中、同法は05年に2年間の延長を行ったが、11月1日に期限切れとなる。
小泉前政権を引き継いだ安倍政権も、ブッシュ政権下の米国との同盟関係を最重要視し、9月9日、APEC 首脳会議後の記者会見において、米・豪との首脳会議やブッシュ大統領との会談結果を引用しつつ、「テロとの戦いを継続する意思」を表明し、インド洋における日本の補給活動は「国際約束」になったとして、その継続を「職を賭して取り組む」とした。しかし、安倍総理は、9月12日、同法延長問題を含め、政権運営に行き詰まり、健康問題等と相俟って辞任を表明した。
今後、同法を延長するか、給油・給水活動などに絞り新法案として提出するかなどは、福田新政権の下での与野党の対応にもよるが、テロ特措法の下での海上自衛隊によるインド洋での給油・給水活動の意味合いをにつき検証し、選択肢として「条件付」延長を提案したい。
1. 日米同盟優先か、国連の枠組み重視か
2001年の同時多発テロは、米国独立後、本土への外国人勢力による最初の組織的攻撃で
あり、また、その残忍性と3千名を越える被害の大きさから、米国民に比類の無い衝撃を与えただけでなく、被害者を出した日本を含め、世界を震撼させた。ブッシュ政権は、「テロとの戦争」を宣言すると共に、国際テロ撲滅のための各国の支持を要請した。英国など多くの同盟諸国は直ちに支持を表明した。
国連安全保障理事会も、01年9月12日、かかるテロ攻撃を「国際の平和と安全への脅威」と認め非難しつつ、(1)国際社会は、取締りの強化や資金洗浄の監視などに関する過去の決議を引用しつつ、「国際テロの抑止と防止に努力」すると共に、(2)9.11のテロ攻撃などに対応し、安保理の責任に従い「あらゆる措置を取る用意がある」旨の決議(1368号)を異例の速さで採択した。
このような国際的な衝撃と怒りの中で、小泉政権(当時)は、同盟国である米国が国際テロから攻撃を受け、戦いを開始しようとしている時に「日本が何もしないわけにはいかない」として、戦闘行為を伴わない後方支援を中心とする自衛隊の支援活動に踏み切り、小泉人気も手伝ってテロ特措法が成立した。
しかし、憲法上、海外での「武力行使や威嚇」となる自衛隊派遣に制約があることから、歯止めとして4年間の時限立法(延長可能)とすると共に、対応措置を「協力・支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動その他の必要な措置」に限定し、武力行使や威嚇を排除し、また、活動地域を「現に戦闘行為が行われておらず、且つ活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる公海等」にしている。更に、「対応措置」について国会の承認(開始から20日以内、変更等についても報告)を義務付けている。
要するに、テロ特措法は、日米同盟関係を重視して導入されたものであり、「国連活動の枠内の活動」を主張する民主党の立場とはそもそも異なる。福田新政権としては、日米同盟を重視しつつもアジアとの関係に配慮するとの立場であるが、給油を「対外公約」と表明しており、アフガニスタンにおけるアル・カイーダやタリバン勢力が鎮圧されていない以上、同法延長、給油継続は避けられないところであろう。
しかし、同法の延長、或いは自民党内で検討されている給油、給水に絞った新法の国会通過は、参議院で第一党となった民主党が延長に反対としており、政治環境が同法成立当時とは劇的に変化していることから、厳しい情勢になっている。国会審議では、国連活動の枠組みか否か、実質上集団的自衛権の行使にならないかという基本的な問題に加え、時限立法である以上何時まで継続するのか、具体的に如何なる活動に使用されているのか、更に成果があったのかなど、従来以上に厳しい質問が予想され、衆議院の優越性があっても、このような議論を通じ、国民の支持を得れるか否かは予断を許さない。
(Copy Right Reserved)
―A Proposal for a Qualified Extension of the Law on the Special Measures against Terrorism ―
2007.9.22.
9月25日、安倍総理の辞任、内閣総辞職を受けて行われた衆参両院での首相指名選挙において、福田康夫自民党総裁(元官房長官)が選ばれ、福田新内閣が発足した。新内閣での当面の最大の争点は、泥沼の状態の年金問題や「政治とカネ」の問題は別として、11月1日に期限切れとなるテロ特措法の延長問題で、インド洋における海上自衛隊による米国艦船等に対する給油活動が継続出来るか否かである。
福田新総理は、自民党総裁選挙において給油活動は「対外公約」であるとしてその必要性に言及している。しかし、民主党は、インド洋における米国艦船等への給油活動は、「国連の枠外の行動」であり、集団的自衛権の行使に当たるとして反対しており、7月の参議院選挙の結果、野党が参議院の多数を握っているだけに延長は微妙な情勢だ。
2001年9月11日、米国で発生したイスラム過激派アル・カイーダによる同時多発テロを受けて、アフガニスタンに潜伏する首謀者ビン・ラデンを始めとするテロ・グループ、及びこれを庇護・支援していた同国のタリバン勢力に対し、米国は、同国のみならず国際的な脅威であるとして「テロとの戦争(War on Terror)」を開始した。英国などNATO諸国はいち早くこれを支持したが、日本も小泉政権の下で、同盟国として米国の軍事活動の「後方支援」など、非軍事支援に限定した支援策を検討し、テロ対策特措法を4年間の時限立法(その後、2年以内毎の延長可)として国会で成立させ、同年11月より施行した。各国支援の下でのアフガニスタンにおけるテロ掃討活動や治安維持が長期化する中、同法は05年に2年間の延長を行ったが、11月1日に期限切れとなる。
小泉前政権を引き継いだ安倍政権も、ブッシュ政権下の米国との同盟関係を最重要視し、9月9日、APEC 首脳会議後の記者会見において、米・豪との首脳会議やブッシュ大統領との会談結果を引用しつつ、「テロとの戦いを継続する意思」を表明し、インド洋における日本の補給活動は「国際約束」になったとして、その継続を「職を賭して取り組む」とした。しかし、安倍総理は、9月12日、同法延長問題を含め、政権運営に行き詰まり、健康問題等と相俟って辞任を表明した。
今後、同法を延長するか、給油・給水活動などに絞り新法案として提出するかなどは、福田新政権の下での与野党の対応にもよるが、テロ特措法の下での海上自衛隊によるインド洋での給油・給水活動の意味合いをにつき検証し、選択肢として「条件付」延長を提案したい。
1. 日米同盟優先か、国連の枠組み重視か
2001年の同時多発テロは、米国独立後、本土への外国人勢力による最初の組織的攻撃で
あり、また、その残忍性と3千名を越える被害の大きさから、米国民に比類の無い衝撃を与えただけでなく、被害者を出した日本を含め、世界を震撼させた。ブッシュ政権は、「テロとの戦争」を宣言すると共に、国際テロ撲滅のための各国の支持を要請した。英国など多くの同盟諸国は直ちに支持を表明した。
国連安全保障理事会も、01年9月12日、かかるテロ攻撃を「国際の平和と安全への脅威」と認め非難しつつ、(1)国際社会は、取締りの強化や資金洗浄の監視などに関する過去の決議を引用しつつ、「国際テロの抑止と防止に努力」すると共に、(2)9.11のテロ攻撃などに対応し、安保理の責任に従い「あらゆる措置を取る用意がある」旨の決議(1368号)を異例の速さで採択した。
このような国際的な衝撃と怒りの中で、小泉政権(当時)は、同盟国である米国が国際テロから攻撃を受け、戦いを開始しようとしている時に「日本が何もしないわけにはいかない」として、戦闘行為を伴わない後方支援を中心とする自衛隊の支援活動に踏み切り、小泉人気も手伝ってテロ特措法が成立した。
しかし、憲法上、海外での「武力行使や威嚇」となる自衛隊派遣に制約があることから、歯止めとして4年間の時限立法(延長可能)とすると共に、対応措置を「協力・支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動その他の必要な措置」に限定し、武力行使や威嚇を排除し、また、活動地域を「現に戦闘行為が行われておらず、且つ活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる公海等」にしている。更に、「対応措置」について国会の承認(開始から20日以内、変更等についても報告)を義務付けている。
要するに、テロ特措法は、日米同盟関係を重視して導入されたものであり、「国連活動の枠内の活動」を主張する民主党の立場とはそもそも異なる。福田新政権としては、日米同盟を重視しつつもアジアとの関係に配慮するとの立場であるが、給油を「対外公約」と表明しており、アフガニスタンにおけるアル・カイーダやタリバン勢力が鎮圧されていない以上、同法延長、給油継続は避けられないところであろう。
しかし、同法の延長、或いは自民党内で検討されている給油、給水に絞った新法の国会通過は、参議院で第一党となった民主党が延長に反対としており、政治環境が同法成立当時とは劇的に変化していることから、厳しい情勢になっている。国会審議では、国連活動の枠組みか否か、実質上集団的自衛権の行使にならないかという基本的な問題に加え、時限立法である以上何時まで継続するのか、具体的に如何なる活動に使用されているのか、更に成果があったのかなど、従来以上に厳しい質問が予想され、衆議院の優越性があっても、このような議論を通じ、国民の支持を得れるか否かは予断を許さない。
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