「嵯峨野花譜」 葉室 麟著 文春文庫
作者、葉室麟に魅かれて偶然手にした一冊だったが、今回も胸底に響いた。
花の見方が変わったというか、花の心をよむというか、きれいな花を見るたび、何の気なしにカメラに収めていたが、奥深いものを勉強した思いである。
物語の舞台は文政13年の京都。生け花の名手として評判の少年僧、胤舜は、ある理由から父母とわかれ、大覚寺で華道の厳しい修行に励む。「昔を忘れる花を活けよ」「闇の中で花を活けよ」・・つぎつぎと出される難問に、胤舜はまっすぐな心で挑んでいく。歴史、和歌、能の知識と筆者特有の陰影を帯びた美しい物語。 解説より
京都、大覚寺、法金剛院、仁和寺、祇王寺、妙蓮寺、大沢池、広沢池と馴染みの寺の登場で、とりわけ親しく感じた。自身も嵯峨未生流をすこし齧った経験でもあり、花のこころなるものを、今じわーっと考えている。
葉室凛は人の成長を花にたとえただけではなく、この世のあまやかな哀しみすべては、命をくりかえし繋ぐ「花」に重ねたのであろう。
残念ながら葉室凛さんは2年前に帰らぬ人となられた。