人工衛星を空中で自爆させる計画も持ち上がったが、すでに高度がかなり落ちていているので、爆発させると陸地にも甚大な被害が及ぶ。
自爆作戦は中止された。
空を見上げると、人工衛星の巨大な姿を想像したより近くに見れるようになってきた。
Bの周りでは、ヤケになった人々による焼き討ちが始まっていた。
どうせ巨大津波で死ぬのなら、家々を焼いて地球のCO2排出量を増やそうと考えた暴徒たちによるものだった。
山形の実家に避難していたBは、その頃の習慣で、目が覚めると空を見上げた。
人工衛星がいつもより大きく見える。
「いよいよXデーが近づいてきたか…」。
Bは中古車販売の営業をしていたが、すでに開店休業状態。
残っていたロングバンにありったけの荷物を積んで、家族ともに近くの駅そばにある高層ホテルにやってきた。
平時は高級なことで知られたそのホテルも、今は暴動によって建物内部はめちゃくちゃに荒らされている。
山形に疎開してはいるものの、頑丈な建物の方が津波被害も少ないだろうと考えたのだ。
持参したPCでは、ネットニュースで近づく人工衛星の様子を中継していた。
間近に迫った衛星は、まだ飛んでいるのが不思議なくらいだった。
「津波がどれくらいの高さになるかは分からないけど、さすがに蔵王は越えられないだろう」。
Bは妻と幼い息子、実家に一人住まいしていた母親を安心させるためにそう言った。
実際、津波が蔵王山脈を越えるかどうかはBにも想像がつかない。
蔵王は迂回して、東北中央自動車道が通る笹谷峠や。山形南部の国道399号や国道13号のある福島側の谷から水が上ってくる可能性もある。
大気圏を超えてますます地球の引力が強くなってきたため、衛星を自爆させるのは無理だとしても、遠隔操作でユニットをバラバラにすれば、本体が丸々落ちるよりは被害が軽減できるだろう。
そう判断した各国連は、さっそくその遠隔操作を開始した。
ユニットによっては細かく分解できないものもあるが、その破片によって被害を受ける地域を各国連合は計算した。
しかし、地球の引力は各国連合の科学者たちの予想を遥かに超えで、地球に墜落するのも時間の問題になってきた。
いよいよ明日は墜落という時間になって、ユニットの一部が日本に落下することが判明した。
これは津波より大変なことが起きる。
Bは慌てた。
落下する場所は長野の山中だと分かったが、衝突による被害は想像もつかない。
Bの家族は津波被害を避けるため、山形の高層ホテルの最上階で暮らしていた。
会話を聞き取られても一向に差し支えはないが、大声での会話は控えていた。
その時を、別に静かにしてる必要はないのだが、声のトーンを下げて待ってる。
自体がよく理解できてない息子は、都会をもしたジオラマの、ビルの模型をいくつも薙ぎ倒し喜んでいる。
そして、その時は突然にやって来た。
日本に落下したユニットが比較的大きなものだったので、その被害は甚大だった。
Bの妻は、Bが止めるのも聞かず、窓辺で空を見つめていた。
爆発による被害は甚大だった。
津波は山形まではとどかなかったが、ユニットは群馬の三国山脈に落下。
岩石や部品は山形まで飛来した。
「おい!C子、大丈夫か?」
窓辺に立っていたBの妻は、爆発で飛んできた岩に当たって、頭から血を流してうずくまっている。
息子がその傍で泣き叫んぶ。
救急車は暴徒によって全く機能しなくなっていた。
「とにかく病院に行こう」とBは怪我した妻を抱えて外に出た。
市街地は飛来した岩や機械部品によって、かなりの被害を受けていた。
しかし、病院は暴徒たちも両親が咎めたのか、荒らされてはいるものの、まだその姿をとどめていた。
しかし、医者はほとんど残っていない。
医師は一般人より先に人工衛星に疎開していたからだ。
徐々に衰弱していく妻を見て、「こんな時にAがいれば…」と呟いた。
詳しくは知らないが、Aは脳外科の中でも権威に入る部類だった。
怪我の治療もろくにできないまま、彼女は死んでいくのか…。
Bの心は絶望感でいっぱいになった。