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「ブラック・ジャック創作秘話」宮崎克・吉本浩二

2012年01月05日 | コミックス
修羅場で生まれたブラック・ジャック

ブラック・ジャック創作秘話~手?治虫の仕事場から~ (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)
吉本浩二,宮崎 克
秋田書店


                  * * * * * * * *

「ブラック・ジャック創作㊙話」・・と聞いて私は、
手塚氏がいかに医学的知識を取り入れ作品を仕上げたか・・・、
そういう話かと思ってしまいました。
しかしそうではなくて、これは手塚治虫氏の人間離れしたモーレツな仕事ぶりを描いた作品です。


手塚氏が「ブラック・ジャック」連載を始める前、
氏は相当落ち込んでいた時期だったのです。
アニメは経営に失敗し昭和48年虫プロ倒産。
劇画ブームとなり、手塚氏の漫画のヒットも途絶えているという・・・。
そんな中でも、原稿の依頼をしたのが、「週刊少年チャンピオン」の名物編集長壁村氏。
この本ではほとんどヤクザのように書かれていますが、
しかし、この方のおかげで、名作ブラック・ジャックが誕生したわけです。
そして「ブラック・ジャック」、「ブッダ」、「三つ目がとおる」など、
大ヒット作が次々生み出されます。
まさに手塚氏は火の鳥、不死鳥のように蘇ったわけです。


ところがです、その仕事の仕方が尋常では無い。
いくつもの連載を引き受けているものだから、常に締め切りに追われている状況。
各社の編集担当者が詰めて、今か今かと仕上がりを待っている。
しかし手塚氏のこだわりも並ではなく、
自身が納得がいかないものであれば、すべて初めから書き直すことさえするという・・・。
粘って、粘って、その上まだ待たされたある編集者が、
いらだちのあまり壁に拳を打ち付けて、壁に穴を開けてしまったという逸話があるくらいです。
しかし、ねじりはちまきで20ページを8時間で仕上げてしまうと言うまさに神業・・・。
つまりはこの本はそうした逸話ばかりを集めたものすごい本なのです。


こんなに一度に様々な作品に取り組んでいれば、
どうしても乱作になってしまうだろうと思えるのですが、
私の記憶の中でブラック・ジャックのストーリーが途中で破綻していたり、
いかにもおざなりの話だったような記憶はありません。
つねに全力を尽くして取り組んでいたのでしょう。
アシスタントは何人もいて、交代もありますが、
もちろん手塚氏は一人しかいません。
こんな状況で、いったい手塚氏はいつ寝ていたのでしょうね・・・。
結局このような無茶な仕事の仕方が氏の寿命を縮めたのだろうと、
妙に納得できてしまいます。


夢と冒険に溢れた漫画作品の裏に、
このような実に生々しい人の生き様、ドラマ・・・。
今だから語られる手塚氏の実像。
すごい本です!

「ブラック・ジャック創作㊙話」原作:宮崎克・漫画:吉本浩二 秋田書店
満足度★★★★☆


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