映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ペイン・アンド・グローリー

2021年09月05日 | 映画(は行)

老いと向き合うドラマ

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ペドロ・アルモドバル監督の自伝的要素を織り交ぜつつ描く、人間ドラマです。

世界的映画監督サルバドール(アントニオ・バンデラス)。
脊椎の痛みの他、体のあちこちの不調・苦痛から心身共に疲れ果て、
仕事は今やほとんど引退状態。
そんな彼は、この頃しきりに幼少時代のことを思い出すのです。

母(ペネロペ・クルス)と共に過ごした幸せの時。
その頃移り住んだバレンシアの村。
貧しい洞窟の家。
そしてまた、若い折のマドリッドでの恋と破局。

そんなあるとき、32年前に手がけた作品の上映依頼があり、
思わぬ人との再会から、またサルバドールの日常に新たな波が・・・。

 

幼い頃の郷愁とともにあるのは、美しく情熱的な母。
そんな母の役に、ペネロペ・クルスがなんとぴったりはまることか。
洞窟の家というのは、家賃が安くていかにも貧乏人の住まいではあるのですが、
壁は白く塗ってあって、ある部屋は天井がくりぬかれてそのまま広く青空とつながっており、
その光の差し込む情景がなんとも美しいのです。
日本で想像するほどには湿気はないのでしょうね。
悪くない感じです。

本作は、老境に入って体調が良くなく、すっかり生きる意欲もなくした者の再生を描いているわけですが、
それは若者の再生とは少し違う。
若者ならそれほど過去に癒されはしないだろうし、
再生の後はさらなる飛躍が待っていることでしょう。

けれどここでは、過去の失敗に向き合い、折り合いを付けることで、
今の傷が癒えていくようでもある。
そして、再生とはいってもせいぜいが以前のレベル程度に戻るくらいで、
そしてそれ以上のものを得ようとも思わない。

これは「老い」と向き合うドラマだなあ・・・としみじみ感じるのは、
やはり私も老境の域にあるからなのかも知れません。

<WOWOW視聴にて>

「ペイン・アンド・グローリー」

2019年/スペイン/113分

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル

出演:アントニオ・バンデラス、アシエル・エチュアンディア、
   レオナルド・スパラーリャ、ノラ・ナバス、ペネロペ・クルス

 

郷愁度★★★★☆

同性愛の表出度★★★★☆

満足度★★★★☆