ハロー人骨です。
さて、以前こちらで紹介した青い眼の即身仏ことモペッドのSACHS OPTIMA50が、ついに当クリニックへ入院してきた。
残念なことに、売却前提での入院である。修理後にはザクコの手を離れるのだ。二度と元の場所には戻れない悲運のクランケである。
しかし新たなオーナーの手で愛されたほうがこのモペッドにとっては幸せなことであろう。現在のオドメーター、200km弱。
ということで、モグリの整備士である私がこの即身仏を徹底的に洗いなおすことにした。今回はザオラルではない、ザオリクである。しかも、ザクコが金をかけられないというので、部品交換をしない前提での修理である。これは難しいオペだぞ。
「自賠責は大丈夫?」
「へーき、ちゃんと払ってるよ!」
しかしナンバーに貼られたシールを見ると、平成18年で終わっている。書類をチェックしたが、更新されている様子はない。どうやら彼女は自賠責と自動車税と勘違いしているようだ。っていうか、前回これで試運転しちゃったじゃないか…
公道における試運転については断念せざるを得ない。そこで今回はトランポで当医院まで持参し、普段私が使用している総延長数kmにおよぶテストコースへ持ち込み試運転を試みてみることにする。
すると次々と不具合箇所が明るみになった。前回の修理時は、ワイヤーに注油しただけで取りあえず無事に走ってくれるような気がしていたが、そうはいかなかった。やはりいくらナチスドイツであっても、3年放置のマシンでは注油だけでは復活しないようだ。
まず不具合の症状は次のとおり。
1.満タンにもかかわらず、走行中に突然ガス欠症状を起こしエンスト。
しかし、エンスト後しばらく放っておくと、何事も無かったのかのようにエンジンがかかる。
2.アイドリング状態で放っておくと、どんどん回転が上がっていく
濃いのか薄いのか知らないけど、やっぱり吸気系統だな…
3.空ぶかしは軽く回るのに、なぜか加速しない時がある。
常にではない。タマにである。こういうのは厄介だぞ
ネット等で調べてみたのだが、このOPTIMA50というモペッドに関する整備情報はほぼ皆無。無いことは無いのだが、役に立つものは皆無といって過言でない。そこで私は急に色めきたった。何故なら私が整備してその詳細をこのクソウェブログで発表すれば、本邦唯一のザックスの整備情報となるからだ。これは皆さんの役に立てるに相違あるまい!
私はこういうのに弱い。
ということで、セオリー通りキャブレターから分解清浄するよ。
写真1.エアクリを外したところ
エレメントを外しただけです。金属製の留め金で固定されているので、マイナスドライバー等をテコにして留め金を外しましょう。
写真2.キャブレター外観
黒いキャップが、マニュアルにも書かれているナゾのボタン。今回こいつの正体が明らかになります。
写真3.エアクリ側から覗いたインテーク
白いフタみたいなのが見えますね。こいつが、何とこのバイクのチョーク機能の本体。チョークワイヤーを引っ張ると、この白いフタがキャブのインテークを軽く塞ぐのだ。確かにエアが減って濃くなるけど、そんなのってアリですか?!カルチャーショック。
写真4.キャブ上部
上のワイヤーがアクセルワイヤーで、下のホースはガソリンね。
写真5.アクセルワイヤー撤去
ピストンは、スプリングを縮めれば抜けます。この辺はそこらの2サイクルの原チャリと全く同じ。
写真6.スロットルバルブ
アクセルワイヤーとピストンが直結。これも一般的な2サイクル仕様。
写真7.ガソリンホース撤去
普通ホースはクリップで留めてあるものだけど、こいつは使い捨てのタイラップで留めてある。ニッパーでカットします。当然再利用不可。日本車と比べてメンテナンス性で劣ると言える。
写真8.キャブ撤去
アクセルとガソリンを外せば、あとはマイナスドライバーで本体クランプを緩めてクリクリと捻るだけで抜けます。これもまあ一般的。
写真9.キャブ下側
ここでまた驚き。ガソリンを抜くためのドレンは存在せず、オーバーフロウホースも存在しない。底部に空いてるこの穴からガソリンが抜けるのだが、仕組み的にはオーバーフロウ穴と言える。フロートチャンバー内の油面が一定に達すると勝手に抜ける。かつ、ドレンを兼ねているわけだ。日本車ではお目にかかったことが無いシンプルさ。
写真10.キャブ撤去後のインテーク付近
とりあえず汚れていたから綺麗にふき取りました。キャブ本体を避けるように取り付けられたコの字型の金具は、クラッチワイヤーとリフターをつなぐジョイント金具。
今まで見た限りのバイクでは、普通クラッチワイヤーは最低限のテコ目的で小さめの金具を介してリフターにつながっているのだが、これはかなり派手な金具だ。これはリフターがクランクケースの外側に位置しているせいだろうか。無駄な仕組みに思えた。
写真11.フロートと、フロートピン
フロートチャンバー(キャブの下側のフタ)はマイナスドライバ2本でカンタンに外せます。今回は一切の部品を再利用するため、ガスケットを破かないように注意。
中身なのですが、腐ったガソリンも見当たらず、サビ粉も見当たらず、きわめてキレイな状態でした。これならガソリンタンクも錆びていないはずです。
しかし一見キレイでも結構ネバネバして詰まってるのがキャブレター。ここではキャブ洗浄オタクの真髄を発揮します。
最初に顔を出すのがこのフロートですが、フロートのピンは軽く圧入されているため、極小ドライバー等を当てがって、ドライバーの柄などでコンコン叩かないと抜けません。フロートバルブが金具で固定されている仕組み等は、日本車と同じで普通なようですね。
写真12.アイドリング調整スクリューと、ナゾのボタン
大体正規のアイドリング回転数に合わすには、マックス閉めこんでから2回転半戻しくらいです。まああまり気にしなくて良いでしょう。スクリュー取り外してみましたが、Oリング等は一切使われてません。いい加減だなあ。
で、上述のボタンの正体ですが、単にボタンと繋がったロッドが下まで伸びているだけの仕組み。ロッドはフロートに直接接触します。
ナゾのボタンを押す→フロートが押し下げられる→強制的にフロートチャンバー内部にガソリンが流入する
たったそれだけの仕組みでした。マニュアルには5秒程度とか書いてますが、適当に押してるとすぐにオーバーフロウして例の穴からガソリンがこぼれてきます。。
なおこのキャブはオーバーフロウしようがなんだろうが構わずにスグエンジンがかかります。
素晴らしいというか、なんというか…
写真13.メインジェット
写真の真ん中のが、メインジェットと、そのホルダー。その左下に見えるのはフロートバルブ。
これを見て、私はビビってしまった。
そう、このキャブレターには、スロー系統が無いのだ!
こいつにはのけぞるほどたまげた!思わず傍にいた3さいの息子に声をかけてしまいました。
「おい見ろよ、このキャブ、スローが付いて無いぞ!」
「ンー、ソッカア・・・ソロウガ付イテ無イカア・・・」
なんていうか超シンプルではないか。
どこがナチスドイツの科学力だ。
写真14.ジェットニードル
いちおうクリップが付いています。段数は一番上に止まってるので、そのまんまにします。チューンナップの余地とかは皆無。
写真15.メインジェットとジェットホルダーならびにスペーサー
ホルダーの穴のなかに、スペーサーをポトンと落としてあり、その上からメインジェットが付きます。
分解してポロリと外れて初めて気づきました。こんな場所に付いているスペーサーは初めて見ました。無くしやすいので注意。
いい加減なバイク屋とかにキャブレター清掃を依頼すると、こんなナゾの部品は紛失されそうな気がします。
写真16.洗浄中
とうとう、内部にOリング類は一切見当たりませんでした。唯一、例のキャブ上部に付いている樹脂製ボタンだけは取り外し不可なので、そのまま洗います。
メイン系統のエアジェットは写真に見える穴1つだけなので、ここには念入りに薬剤を注入しましょう。
写真17.洗浄後の各パーツ
クリーナーに漬けない部品については、パーツクリーナーで丁寧に洗浄します。
写真18.洗浄後のメインジェットホルダー穴
キレイに貫通していますね。
写真19.フロートの組み付け
ピンは、外した時と同じ要領で、ドライバ等を当てがって、ドライバ柄とかでコンコンやって軽く圧入します。
なおフロートバルブには、段付き磨耗とかは一切ありませんでした。走行距離200km未満というのが本当かどうかの傍証になりえます。
写真20.清浄、組み立て後のキャブ
何度見ても良いものです、きれいなキャブレター。
フロートチャンバー合わせ部のガスケットは再利用したので、念のため耐ガソリン性の液体ガスケットを塗布しておきました。我ながら気配り最高!
なお漬け置き洗浄の所要時間は、60分程度です。
(後編に続く)
さて、以前こちらで紹介した青い眼の即身仏ことモペッドのSACHS OPTIMA50が、ついに当クリニックへ入院してきた。
残念なことに、売却前提での入院である。修理後にはザクコの手を離れるのだ。二度と元の場所には戻れない悲運のクランケである。
しかし新たなオーナーの手で愛されたほうがこのモペッドにとっては幸せなことであろう。現在のオドメーター、200km弱。
ということで、モグリの整備士である私がこの即身仏を徹底的に洗いなおすことにした。今回はザオラルではない、ザオリクである。しかも、ザクコが金をかけられないというので、部品交換をしない前提での修理である。これは難しいオペだぞ。
「自賠責は大丈夫?」
「へーき、ちゃんと払ってるよ!」
しかしナンバーに貼られたシールを見ると、平成18年で終わっている。書類をチェックしたが、更新されている様子はない。どうやら彼女は自賠責と自動車税と勘違いしているようだ。っていうか、前回これで試運転しちゃったじゃないか…
公道における試運転については断念せざるを得ない。そこで今回はトランポで当医院まで持参し、普段私が使用している総延長数kmにおよぶテストコースへ持ち込み試運転を試みてみることにする。
すると次々と不具合箇所が明るみになった。前回の修理時は、ワイヤーに注油しただけで取りあえず無事に走ってくれるような気がしていたが、そうはいかなかった。やはりいくらナチスドイツであっても、3年放置のマシンでは注油だけでは復活しないようだ。
まず不具合の症状は次のとおり。
1.満タンにもかかわらず、走行中に突然ガス欠症状を起こしエンスト。
しかし、エンスト後しばらく放っておくと、何事も無かったのかのようにエンジンがかかる。
2.アイドリング状態で放っておくと、どんどん回転が上がっていく
濃いのか薄いのか知らないけど、やっぱり吸気系統だな…
3.空ぶかしは軽く回るのに、なぜか加速しない時がある。
常にではない。タマにである。こういうのは厄介だぞ
ネット等で調べてみたのだが、このOPTIMA50というモペッドに関する整備情報はほぼ皆無。無いことは無いのだが、役に立つものは皆無といって過言でない。そこで私は急に色めきたった。何故なら私が整備してその詳細をこのクソウェブログで発表すれば、本邦唯一のザックスの整備情報となるからだ。これは皆さんの役に立てるに相違あるまい!
私はこういうのに弱い。
ということで、セオリー通りキャブレターから分解清浄するよ。
写真1.エアクリを外したところ
エレメントを外しただけです。金属製の留め金で固定されているので、マイナスドライバー等をテコにして留め金を外しましょう。
写真2.キャブレター外観
黒いキャップが、マニュアルにも書かれているナゾのボタン。今回こいつの正体が明らかになります。
写真3.エアクリ側から覗いたインテーク
白いフタみたいなのが見えますね。こいつが、何とこのバイクのチョーク機能の本体。チョークワイヤーを引っ張ると、この白いフタがキャブのインテークを軽く塞ぐのだ。確かにエアが減って濃くなるけど、そんなのってアリですか?!カルチャーショック。
写真4.キャブ上部
上のワイヤーがアクセルワイヤーで、下のホースはガソリンね。
写真5.アクセルワイヤー撤去
ピストンは、スプリングを縮めれば抜けます。この辺はそこらの2サイクルの原チャリと全く同じ。
写真6.スロットルバルブ
アクセルワイヤーとピストンが直結。これも一般的な2サイクル仕様。
写真7.ガソリンホース撤去
普通ホースはクリップで留めてあるものだけど、こいつは使い捨てのタイラップで留めてある。ニッパーでカットします。当然再利用不可。日本車と比べてメンテナンス性で劣ると言える。
写真8.キャブ撤去
アクセルとガソリンを外せば、あとはマイナスドライバーで本体クランプを緩めてクリクリと捻るだけで抜けます。これもまあ一般的。
写真9.キャブ下側
ここでまた驚き。ガソリンを抜くためのドレンは存在せず、オーバーフロウホースも存在しない。底部に空いてるこの穴からガソリンが抜けるのだが、仕組み的にはオーバーフロウ穴と言える。フロートチャンバー内の油面が一定に達すると勝手に抜ける。かつ、ドレンを兼ねているわけだ。日本車ではお目にかかったことが無いシンプルさ。
写真10.キャブ撤去後のインテーク付近
とりあえず汚れていたから綺麗にふき取りました。キャブ本体を避けるように取り付けられたコの字型の金具は、クラッチワイヤーとリフターをつなぐジョイント金具。
今まで見た限りのバイクでは、普通クラッチワイヤーは最低限のテコ目的で小さめの金具を介してリフターにつながっているのだが、これはかなり派手な金具だ。これはリフターがクランクケースの外側に位置しているせいだろうか。無駄な仕組みに思えた。
写真11.フロートと、フロートピン
フロートチャンバー(キャブの下側のフタ)はマイナスドライバ2本でカンタンに外せます。今回は一切の部品を再利用するため、ガスケットを破かないように注意。
中身なのですが、腐ったガソリンも見当たらず、サビ粉も見当たらず、きわめてキレイな状態でした。これならガソリンタンクも錆びていないはずです。
しかし一見キレイでも結構ネバネバして詰まってるのがキャブレター。ここではキャブ洗浄オタクの真髄を発揮します。
最初に顔を出すのがこのフロートですが、フロートのピンは軽く圧入されているため、極小ドライバー等を当てがって、ドライバーの柄などでコンコン叩かないと抜けません。フロートバルブが金具で固定されている仕組み等は、日本車と同じで普通なようですね。
写真12.アイドリング調整スクリューと、ナゾのボタン
大体正規のアイドリング回転数に合わすには、マックス閉めこんでから2回転半戻しくらいです。まああまり気にしなくて良いでしょう。スクリュー取り外してみましたが、Oリング等は一切使われてません。いい加減だなあ。
で、上述のボタンの正体ですが、単にボタンと繋がったロッドが下まで伸びているだけの仕組み。ロッドはフロートに直接接触します。
ナゾのボタンを押す→フロートが押し下げられる→強制的にフロートチャンバー内部にガソリンが流入する
たったそれだけの仕組みでした。マニュアルには5秒程度とか書いてますが、適当に押してるとすぐにオーバーフロウして例の穴からガソリンがこぼれてきます。。
なおこのキャブはオーバーフロウしようがなんだろうが構わずにスグエンジンがかかります。
素晴らしいというか、なんというか…
写真13.メインジェット
写真の真ん中のが、メインジェットと、そのホルダー。その左下に見えるのはフロートバルブ。
これを見て、私はビビってしまった。
そう、このキャブレターには、スロー系統が無いのだ!
こいつにはのけぞるほどたまげた!思わず傍にいた3さいの息子に声をかけてしまいました。
「おい見ろよ、このキャブ、スローが付いて無いぞ!」
「ンー、ソッカア・・・ソロウガ付イテ無イカア・・・」
なんていうか超シンプルではないか。
どこがナチスドイツの科学力だ。
写真14.ジェットニードル
いちおうクリップが付いています。段数は一番上に止まってるので、そのまんまにします。チューンナップの余地とかは皆無。
写真15.メインジェットとジェットホルダーならびにスペーサー
ホルダーの穴のなかに、スペーサーをポトンと落としてあり、その上からメインジェットが付きます。
分解してポロリと外れて初めて気づきました。こんな場所に付いているスペーサーは初めて見ました。無くしやすいので注意。
いい加減なバイク屋とかにキャブレター清掃を依頼すると、こんなナゾの部品は紛失されそうな気がします。
写真16.洗浄中
とうとう、内部にOリング類は一切見当たりませんでした。唯一、例のキャブ上部に付いている樹脂製ボタンだけは取り外し不可なので、そのまま洗います。
メイン系統のエアジェットは写真に見える穴1つだけなので、ここには念入りに薬剤を注入しましょう。
写真17.洗浄後の各パーツ
クリーナーに漬けない部品については、パーツクリーナーで丁寧に洗浄します。
写真18.洗浄後のメインジェットホルダー穴
キレイに貫通していますね。
写真19.フロートの組み付け
ピンは、外した時と同じ要領で、ドライバ等を当てがって、ドライバ柄とかでコンコンやって軽く圧入します。
なおフロートバルブには、段付き磨耗とかは一切ありませんでした。走行距離200km未満というのが本当かどうかの傍証になりえます。
写真20.清浄、組み立て後のキャブ
何度見ても良いものです、きれいなキャブレター。
フロートチャンバー合わせ部のガスケットは再利用したので、念のため耐ガソリン性の液体ガスケットを塗布しておきました。我ながら気配り最高!
なお漬け置き洗浄の所要時間は、60分程度です。
(後編に続く)
スポーツ仕様のキャブなんだね(^_^;)
SACHSはもしかしたら、メインではなく、スローしかないのかもしれません。
よくわからんです・・・