出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

原稿待ち

2006年09月26日 | 制作業務
編集作業に関して他社の進め方を学ぶ絶好の機会に恵まれている。もう少し先の段階に行くといろいろわかりそうで、今は宿題を片付けている状態。

その編集作業だが、最近読んだ本。確かタイトルは、「原稿を依頼する人・される人」みたいな感じだった。少々古くて、ファクシミリの機械が普及し始める頃の、様々なジャンルの著者や編集者の短いエッセイがたくさん載っていた。

で、その中で、「依頼だけすれば、締切までに原稿が届くと思っている編集者がいる」というようなことを書いている人がいた。

もう本が手元にないのでうろ覚えなんだが、「依頼だけ」というのはつまり、「どうですか?」とか「資料は足りてますか?」とか尋ねてほしいというニュアンスだった。これって普通なんだろうか。

その前に、編集者がいう締切とは、デッドラインのことなんだろうか。

私の想像では、例えば週刊誌みたいな忙しそうな媒体だと、そもそも「どれくらいの原稿を上げてくるか承知している」書き手に頼む気がする。で、締切=デッドライン。

私が本を作るときは、最初にある程度のスケジュールを確認してもらう。で、それぞれの段階で「この作業(作業という言葉は失礼かもしれないけど、ようするに一段階)は締切はいついつ」といちいち言う。

元土建屋なのが少し関係していると思うんだが、工程管理はとても気になるのである。

内容に関して検討して変更してもらいたいとき(もともと余裕は見てるんだが、大きな変更があるとき)は、工程表自体をいじる。で、また細かく「これは締切はいついつ」・・・と進める。目的は、著者に無茶を言わせないこと。言わせないなんていうと喧嘩腰みたいだがそうじゃなくて、著者都合の発刊日があるようなケースで、「努力はしますが、あなたがサボった分どれくらい取り戻せるか、保証はしない」と納得してもらうため。

だから、デッドラインを締切と呼ぶのは怖いんだが、普通はどうなのか。後の編集者とのやりとり(書き直し)も含めての、最終締切なんだろうか。

それで、「依頼だけすれば・・・」に戻るんだが、おそらくこの人は、工程管理の話をしてるんじゃないと思う。昔は原稿依頼ってのは家まで編集者が来て会って…だったそうで、ファックス1枚での依頼を「味気ない」とか「失礼」のように感じている著者が多いようだった。この人も、放っておかれるのが失礼と思っているようで、お伺いされたいようだった。放っておかれるというのは、静かに(催促せずに)待ってくれているとは思わないらしい。

著者が書いたものがそのまま活字になることは、しょっちゅうあるんだろうか。以前、「よりいい本にするために編集者がいる」と教わった。でも、編集者が思い描いていたとおりの原稿が上がってきたら、とりあえず「原稿後の編集作業」ってのはあまりないような気がする。最初のブリーフィングが適切なら、あり得ない話でもなかろう。この場合、編集者の力量は、企画段階とか著者選びで発揮されたと言えるのではなかろうか。

で、またまた「依頼だけ…」の彼に戻るんだが、この人は「編集者が期待している原稿を締切までに渡す」ということは、著者サイドの最低限の仕事とは思ってないということだ。どんな著者もそれを目指して、それでもやっぱり編集者との二人三脚が始まって…ということだと思ってたんだが、書くこと自体に編集者の助けを必要とする人がいるとは知らなかった。

いや、場合によってはあるんだろうけど、うちの場合、書くこと自体に私や第三者のインプットを必要とするときは、印税率に反映させてもらう。フル印税率(うちの場合10%)のときは、資料なんか自分で探してほしいと思う。だって、その著者に依頼する理由に、持っている知識、あるいは調べる力なんかも含まれてると思うから。

うーん、なんだかエラそうな記事になってしまっているが、つまり、一般的に編集者は著者にどのくらいのことを期待するのか、それが知りたい。

土建屋だったら、プロマネは、設計事務所にきちんと設計してもらうことを期待するし、それぞれのトレードにそれぞれの工事をきちんとしてもらうことを期待する。期待通りに流れていくようにマネジメントはするけど、それはあくまでも確認であって、自分の「管理」をスムーズにするためだ。

工程が乱れないように予期せぬことをなるべく早く把握するのと、この「依頼だけ…」の著者にお伺いするのは、微妙に違うように思う。例えば、著者の近所で地震があったってなときはお伺いするだろうけど、環境が整っている著者に依頼以外の声掛けをすることが、当然のように編集者に求められているんだろうか。

6 コメント

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Unknown (みむ)
2006-09-28 00:27:35
わたしの仕事にちかい制作の話なので、今日のお話は興味深かったです。



まず、締切とデッドライン。

これを一緒にすると、仕事できない人扱いになってしまうかと。。。

版元、プロダクション、担当、それぞれ本当のデッドラインまではちょっとヨユウがあることを承知で締切までにまわす。という感じでしています。それで、ほんとうに何かの事情で遅れたら、後送でつっこむ。本当にデッドラインしか設定できない仕事もときどきありますが、それはそう宣言します。。。



それから、筆者と編集者の仕事ですが、資料を探したり、筆者に刺激を与えたりは、編集者の基本的な仕事に入っていると思います。

雑誌なんかであっても、ぎりぎりになるとお互いの意見のぶつかり合いで言い合いになることも。時間や取材の流れで、方向性が変わるときもあるので、原稿へのフィードバックは貴重です。あと締切を目の前にして、誰が何の担当とかではなく、とにかく互いに力を合わせるという体験が(ときどき)できるのも、この仕事の魅力のひとつだなぁと。



さて、編集者は著者にどれくらいを期待・・・ですが、「筆者が資料探してくれて完全納品してくれたらラク(コスト的にも)」な面もありますが、「筆者には突っ走って欲しい(オレの線路の上で)」という欲があるものかと。



でも、編集者ってほんとうにいろんなタイプがいるなぁ~って思います。。。

長文失礼しました。
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みむさん、毎度です (タミオ)
2006-09-29 10:49:21
>資料を探したり、筆者に刺激を与えたりは、編集者の基本的な仕事に入っていると



そうですか。私はどうしてもこれを、「尻を叩くため」ではなくて「プラスアルファのための」編集者の仕事だと思いたいんですよ。この「依頼だけで…」の方のように、「それがないと原稿あげないよ」みたいな態度は嫌なのです。



>編集者ってほんとうにいろんなタイプがいるなぁ



著者もそうですしね。だからどれがいいとかではなくて、巷の例を知りたいというところです。
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なるほど (みむ)
2006-09-29 19:58:02
毎度、どうもでございます。



>「それがないと原稿あげないよ」みたいな態度



たしかにそれはいやん。

すんごいいい子な答えをすると、「お互いに作りたいんだよね?」というコンセンサスが…と思います。馬に水を飲ませるはなしをするのはキツイ。サイコーに。



あとやっぱり編集の人が仕切りという立場だとけっこう雑用的な細かい仕事が多いかなって思います。修羅場になってくると、美味しいお弁当を知っているとか、ありがたかった思いでも…

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雑誌的立場から (nn☆)
2006-10-03 17:30:14
一般的に編集者は著者にどのくらいのことを期待するのか、それが知りたい→文章量にもよるでしょうけど、雑誌の場合2000~4000字くらいなので著者の色が出ている程度で十分だと思いますぅ。ま~何の世界でも出来る人とそうでない人がいる訳で、どうしてもこの人というケースでは、口述筆記で切り抜けます。

ちなみに行程管理では、念を入れて印刷・製本のデッドラインも予備で組み入れていますよ。
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みむさん (タミオ)
2006-10-06 09:20:37
>編集の人が仕切りという立場だとけっこう雑用的な細かい仕事が多い



雑用は雑用でも、これは「いろいろ気を配る人かどうか」みたいな話ですね。仕切ってても細かい仕事はしない人もいるかも。
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nn☆さん (タミオ)
2006-10-06 09:25:10
>行程管理では、念を入れて印刷・製本のデッドラインも予備で組み入れています



ちょっとデッドラインの言葉の遣い方が間違っていたかもしれません。印刷まで進んでしまう話ではなくて、締切とは「書き直しなどのやり取り」前までの納期なのか、そういうことも著者側で予定しておいて早めに原稿を渡すものなのか、ということが知りたかったのです。



>何の世界でも出来る人とそうでない人がいる訳で



そうですね。
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