出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

講師

2008年01月25日 | 出版の雑談
この業界では勉強会やセミナーが多いと、日頃から感じていた。私も最近は案内をもらえるようになって、たまに出かけていく。

そのときどきで、いろんな思いを抱く。ひとつは「みんな、自分の周りや目先のことだけにとらわれないで、えらいな」というもので、もうひとつは「大きな話ばかりしないで、身近な問題を解決していくべきでは?」というもの。

ひとつの勉強会で両方感じることもあって、ここで感想を述べるよりは頭の引き出しにとりあえず入れておくことが多い。当日に諸手を挙げて納得することは少なくて、後から役立ったり逆だったりすることもある。

で、今まで勉強する側ばかりだったのが、なんと講師に呼ばれて人前で話すことになった。昨晩の「本の会」。

実は、人前で話すことは苦手じゃない。結構な人数でもOK。なので、あまりよく考えずに、引き受けた。タイトルは「日本でいちばん小さな出版社」で…ということだったので、本の宣伝にもなると思ったのだ。

が、版元に「おかげさまでこんなの来ました」と報告に行くと、聴きに来ると言う。ちょ、ちょっと待って、そいつは少々恥ずかしい。なんというか、身内にはったりをかますわけにはいかないから困るとでも言おうか。

来ないでくださいとお願いしたんだが、主催の方から会場で本を売ってもよいと連絡をもらった関係で、きてもらう(来られてしまう)ことになった。それも、なんと3名様。下手な学芸会(それも、生徒より父兄のほうが多い)のような、小っ恥ずかしさがあるではないか。

よく考えてみると、聴きに来てくれる人のほとんどは、私より出版経験が豊富な人たちじゃなかろうか。今まで(ずいぶん昔)に講師をしたときは、「知ってる人が知らない人に教える」という普通の状態だったんだが、今回はまったく逆である。

本に書いたようなことなら、自分の経験だから気にせず話せる。が、もし本を読んで来てくれる人のほうが多かったら、同じ話を聴かされるのもつまらないだろう。

いろいろ考えた結果、タイトルどおり「小さな出版社」の話をした。巷の「ひとり出版社に対して持ってるイメージ」は承知の上で、それとは違う楽しさとか苦労とか。ま、つまりここに書いているようなことである。

自分で話すことはある程度考えていったんだが、おそらく時間が余るだろう(ハッタリをかませないとノリが悪い)と思われたので、質疑応答の時間を長めに取ることにした。

が、こちらは準備をするわけにもいかず、話し慣れないテーマということもあって、やっぱり今日になって反省材料が出てきた。なので、ここでちょっと補足することにする。

●ブログがきっかけで本を出したが、自分で他人のブログを見て企画を探すようなことはあるか・・・という質問。「年に2点の新刊だと、ネット上で探さなくてもなんとなく決まっていく」と答えたが、ちょっと違う気がする。

どちらかというと、うちの小ささを自覚しているので、「それを知ってて向こうからアプローチしてきてくれる著者」のほうが「こちらから執筆依頼をするより気が楽」というのが正しい。あるいは、「私自身が立てた企画で著者を探すことはあっても、ネタ探し的にネットサーフィンをすることはない」という感じ。

●口座貸しについて。せっかく取れた口座を生かす方法として口座貸しはいつも頭にあるんだが、私が原チャリでちまちま搬入している状態でそんなこと可能なのかという質問。今のところ、口座貸しということで来た話は、共同発行みたいな形に変わって実現している。だから正確に言うと、口座貸しは実現していないと答えた。

それは事実なんだが、本当は、出版業の経験のない人には「原チャリでちまちま」は結構いいんじゃないかという気がする。ある程度経営的なことに携わっていた人は別だが、経験が偏っている人が独立するような場合、小さく始めるのもいいのではないかと思う。編集プロダクションで大手の売れ筋本などを作っていた人などは、最初から何千部(ひどい人は1万部以上とか)の話をする。けれども、看板というものは大きいし、版元(発売元)の営業力もあるだろうし、思ったよりうまくいかないこともあるのではないだろうか。

小さく始めるなんてことを言うと取次には怒られそうだが、少人数のセミナーみたいなところでは、言うべきだったと思う。

おそらく時間が経てば経つほど反省材料が出てくるんだろうが、とりあえず気になったことだけ書きました。このブログの話もしたから、見てくださることを祈ってます。

立場の違い

2008年01月17日 | 出版の雑談
年始の挨拶もまだでした、すみません。今年もよろしくお願いいたします。

まずは営業活動の報告をすると、まったくよろしくない。注文をもらう以前に、担当者に会えないこと多すぎ。ある版元の営業の人に聞いたら、「何度も行くうちにオフの曜日がわかるようになる」という。何度も行かないので、ちょうどオフにあたってしまうのか。それにしても週休2日としても7分の5は当たってもいいはずなのだが・・・。もうひとつの話として、「会えなかったら他のジャンルの担当者と話す」というもの。既刊営業というヤツか。

比較すると落ち込んでしまいそうだが、その方たちは10年以上の出版営業経験の持ち主なので、あまり悩まずに地道に続けることにする。

さて、うちの著者たちのうち半分くらいは、うちで書いてもらったものが処女作である。著名な人を知らないとか、似たことを書き変えたような本が嫌いとか、理由はいろいろだ。

初めて本を出す人たちには、少しばかり出版流通の説明をする。どこかの自費出版会社の宣伝文句を見慣れているのか、「日本全国の書店に並ぶ」と思ってる人もいた。ちなみに、10年以上前に本を出したことがあるという著者も、同様に考えていたりする。まあ、出版流通なんて大それたことではなくて、ようするに「うちの規模(と私の営業力)を理解してもらった上で書いてもらうために言い訳しておくわけである。アマゾンに書誌が出るのは遅いことも、ちゃんと前もって言っておかないと面倒だ。

著者によっては、自分の守備範囲内で宣伝する以外に、書店営業にも興味を持ってくれる人がいる。

以前、どこかの出版社から本を出した人が、書店で「私の本がない」と騒いで迷惑をかけたという話を聞いたことがある。書店はもちろん、版元も謝りに行ったりと結構閉口したらしい。

うちはそんな変な人に書いてもらうことはないので、そういう問題はない。けど、さすがに「取次はどこか」くらいのことは説明しておかないと話も通じないだろうから、やっぱり説明は必要だ。

ちょっとした事件というか騒ぎというか、まあ問題なかったのでどうってことないんだが、とにかくある出来事があった。「担当者でなくてチェーンの本部に営業すると、担当の思惑とは違う本が入ってしまってどうのこうの・・・」みたいな状況が生まれて、版元である私が呼ばれたというわけである。

ちなみに騒ぎの本質は「思惑とは違う」とは別のところにあったんだが、その誤解はちゃんと解けて、そのまま雑談をしていた。

「本を出す人には、ちゃんと出版流通について説明しておけ」という話になった。上に書いたように、うちにはうちの理由があってしてると答えたんだが、ちょっとニュアンスが違うのである。

同じチェーンの支店でも帳合が違うと掛け率も違って面倒があるから、そういうことも著者に教えておいてくれ、というのだ。帳合なんか、私だって番線もらってようやくわかるくらいだし、そんなこと説明してたら大変すぎる。

ただ、そういう面倒が起こらないように、版元はいろんな取次を揃えておいてほしいということらしい。なるほど。

ちなみに、「大手取次口座がある→なんで他のと取引しないんだ」という疑問は、この書店員さんに限った話じゃない。出版社の人たちにも、「仲間渡しじゃ搬入に時間がかかるだろ」などといって叱られる。

それはともかく、「こっちが取引してくれと言っても、向こうがダメということもある」と言うと、ちょっと驚かれた。続けて、「○○(取次)は潰れませんか? だって、本屋さんにとっては金払う相手だけど、版元からすると払ってもらう相手です。大手以外は潰れるとかいろいろ言われているし、実際トーニッパンがあればいいじゃないかというアドバイスももらうし・・・」などと言ったら、もっと驚かれた。驚くというか、「新たな観点」という感じ。

こっちが小さいからといって、相手より自分の心配をしろと思われるのは心外だ。小さいけど危なくはないので当然の不安だし、小さいから逆に債権者会議(裏の)に入れてもらえないかもという心配がある。

まあとにかく、この世界も奥が深い。書店さんと版元は同じ出版界で生きているわけだけど、立場が違うといろんなことが違う。

けど、搬入が大変なんて言ってないで、書店さんのためなら他の取次もトライってのはしなければならない。今年の課題である。