出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

書店の棚卸し

2008年11月18日 | 出版の雑談
バイト先の本屋で棚卸しがあった。以前、どこかの支店が移転したときにヘルプ要員募集のFAXが本部から来た。いつもと違う仕事ということで行きたかったんだが、そのときは実現しなかった。今回は店長からきかれて、すぐOKした。

出版社も棚卸しをする。けど、うちの場合は、まだ発刊点数が少ないので非常に楽。強いて言えば、積み直しをするので翌日筋肉痛になるけど。

本屋の棚卸しってのはどういうものか、ワクワクしてでかけていった。前もって、「二人組になって機械に打ち込んでいく」ということは聞いていた。

いつもどおり店を開けていて、「本日棚卸しにつき、ご迷惑をおかけします」のポスター(もちろん手書き)が入り口に貼ってある。棚卸し要員は、全部で20人くらいか。他の支店の社員やバイト、それから1日だけの短期バイトも集めての人海戦術。

いや、人海戦術ってのは知ってたけど、まさか「電卓に打ち込んでいく」とは思いませんでした。なんというか、POSでピッとやるあれで、ピッピッピッとやっていくのかと思ってた。棚卸し専門の会社も関わると聞いていたので、端末を借りるもんだと。あれじゃ、関わると言ったって「人海戦術要員が数えたものをきれいにレポートにして税理士に渡す」程度のことしかしないんじゃなかろうか。

行く前は、なんとなく「タイトルと冊数を記録」ってな感じを想像していたんだが、実際は単純に「次々と本体価格だけ」を打ち込んでいった。書籍と雑誌の区別だけ。棚が分かれているので、電卓から出る紙を1メートルくらいで切って、雑誌か書籍か書いて終わり。

考えてみれば、確定申告のときに税務署に出す資料も、「書籍」とひとまとめにできる。けれども出版社からすると、本が違えば原価も違う。だから、何それが何冊で原価はいくら、どれそれが何冊で…となって最後に全部足す。ちなみに、うちは面倒がないように、半製品は発生しないように発刊する。発刊頻度が低いからできることなんだが、土建屋時代の仕掛かりには懲りてるので、「棚卸し商品はすべて製品」である。

書店からしてみたら、どの本だろうと、どこの版元の本だろうと、本は本だ。だからタイトルに構わずにどんどん本体価格を記録していくだけで、棚卸しは完了する。いやー、考えてみたら当たり前なんだけど、知らなかった。勉強になった。

勉強になったのはいいんだが、やっぱり筋肉痛にはなった。電卓(といっても20センチ四方くらいの大きいヤツ)をずっと持っていたため。平台に電卓を置いて打ち込んでる人もいたけど、なぜか私たちのペアの近くにはいつも他のペアがいて、価格を読み上げる声がだぶって聞きづらい。しょうがないので、ペアの相手の声がよく聞こえるように電卓を持って立って打ち込んでいた。電卓って重さどのくらいでしょうか。1キロくらいか。それで筋肉痛になった。

どうやってするのかわかったということ以外には、あまり収穫はなかった(でも面白かった)。「文庫の値段が上がってきてると感じてたけど、本当に上がってきてる」とわかったくらい。読み上げられる本体価格は、640とか740とかそのあたりが多い。昔は1500円の文庫なんてなかったですよね。ただし出版社としての私は、他社の本(というか全体的に)価格が上がっているのはありがたい。

ところでペアを組んだ人は、他の支店で1日バイトに応募した人で、実はその近所の他の本屋の店員をしているということだった。他店のやり方を学ぶのにいいと思ったと言っていた。巷で「よく勉強してる書店員」というとすぐ「本を知ってる」って話になるが、そういう勉強もいいと思う。出版社が編集だけで成り立っていないのと同じで、書店の仕事も「売り物を熟知している」ことだけじゃない。

昼食休憩のときじっくり話を聞きたかったが、ひとりになりたそうだったので遠慮した。バイトのおばさんと1日中顔合せてるなんて、普通は嫌ですよね。出版社をしてるって言ったら、話してくれたかなぁ。

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いつも雑談ばかりなので、出版社としての仕事の話も少々。年明けになってしまった新刊は、着々と。先日、実用書の編集のプロという人にアドバイスをもらって、晶文社さんの編集とはまた別の「編集のすべきこと」を学んだ。学んだっていうと「じゃあ、今までの本は知らずに作っていたのか」と言われそうだが、そうではない。なんちゅうか、プラスαのためにすべきことみたいな、編集と営業のミックスとでも言おうか、そういうことを学んだ。

あと、本日、トーハンの仕入部にブックライナーの伝票切替に行った。またまた「久しぶりですね」と言われてしまった。が、納品の旅の帰りに寄った私は冬期バイク用装束だったので、6階は暑くてそれどころじゃなかった。今の担当の人は優しい(前の人もそうですが)のでいろいろ相談してみたい気もするが、この時期は脱ぐのが面倒で難しい。

ブックライナーの伝票切替、9月頃にしてくれませんか。

近況報告

2008年11月01日 | 出版の雑談
なんと、2ちゃんねるで、このブログが「8月から更新されていない」というコメントを発見。確かにずーっとサボっていたんだが、まさか2ちゃんねる(それも出版社倒産スレッド!)で自分の名前を見つけるとは思わなかった。それでこうして慌てて書いているんだが、カッコ悪いなあ。しかし、業界に知り合いがいなくて疑問だらけだった頃、2ちゃんねるで黙って情報収集していた身としては、ありがたく素直に更新することにする。

で、なんだったっけ?

ああ、その前にサボっていた理由は、身内に入院騒ぎがあって、時間というより頭の半分くらいがそのことで締められていたからである。健康が一番ですね。

で、なんだったけ?

前の記事を読み返してみたら、「仕入れてもらえる本を・・・」ということについて考えていたと書いてあった(まるで他人事)。自分の中では少々古い話なので実況中継みたいに書けないが、つまり「編集&制作段階でもっと努力する」ということである。今こうやって書いていると、あまりの当たり前さに自分でも恥ずかしくなる。が、当時は「営業を頑張りすぎても、効率が悪くなるだけ」という事実を発見して愕然とした頃で、まるで初心に返ったような清々しさを感じていたのだ。どちらにしろ2ヶ月以上前のことだから許してください。

ここで「いや、倒産しませんよ、大丈夫ですよ」と言ったって、2ちゃんねるの人たちは本当の倒産情報に忙しいんだろうが、実は怪しい想像を促しそうな状況ではある。

ます、地元本は、本当に地元でしか売れない。私が普段は嫌っている「出版社の存在意義」みたいな関係で作ったこともあり、ある程度の赤字は織り込み済みだし、地元ではまあまあいい線をいっている。しかし、NHK頼みで初回配本が多かったので、数字的にはすごく悪い。著者の売る熱意も空回りするタイプで、このことはお互いの将来のためにも一度話し合っておいたほうがいいかもしれない。

なおかつ、年内に出す予定だった本が、年明けにずれ込んだ。いや、こんなことは今までもしょっちゅうで、どうってことないんだが、今年の始めには年間3冊を目標にしていたので、ちょっと凹む。そのかわり、来年度は前半に2点刊行予定。それで思い出したが、ただいま同時進行の書籍が3点で、これは私の新記録になる。

話は戻って「仕入れてもらえる本を・・・」のことだが、いつも疑問に思っていたことがある。「仕入に自信がある書店員」とか、「営業の力も技もすごい人」とかと話しているときのこと。この人たちは、そういう能力を活かして本を作りたいと思わないんだろうか。

実を言うと、そういう疑問が生まれたら常に相手にたずねるので、大体同じ答が返って来るのも知っている。「いや、僕はゼロから作るのはダメで・・・」とか、「本を作ること自体には興味がない」とか。編集の人にきかれたら意見を言うけど、それだけがいいらしい。なんともったいないことかと思う。

で、出してからの営業のことはひとまず忘れて、そういう人たちの意見を「出す前に」聞いているところである。次の本は今までと違って、私自身の欲望をどれだけ抑えられるかが重要な気がする。いかに「自分勝手に本を出してきたか」ってことの証明だが、今まではそれが嬉しかった。

今回は、自分を抑えることにちょっと快感を感じつつ作っている。成長の印なのか、「やっぱりそれはダメ」って結果になるのか、来年を楽しみにすることにする。