出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

返本箱

2006年04月26日 | 返本
おそらく他の出版社では目新しいことじゃないんだろうが、うちでは初めてのことだったので書く。

去年の9月くらいに、「今後は紐で結わくんじゃなくて箱に入れて返すから了承しろ」というトーハンからのお達しにハンコを押した。箱入りだと本が傷まないとかなんとか言われて、そりゃ構わないと思っていたんだが、今までずっと結わいた束で返ってきていた。

早く「傷まない」のに変わらないかと、ずっと思っていた。しかしながら新刊が出た後を除くと、ビニール袋に入った1冊だけが返ってきたりして、紐の被害は少なかった。

で、先週初めて箱入り返品を受け取った。ちなみに、この箱は何とかという名前で呼ばれていたが覚えてない。

インターフォン(カメラ付き)に応えたとき、返本おじさんが何やらでかいカートみたいなものを押してるのが見えたので、返本がそんなに多いのかとビビッていたが、カートでなくて返本箱だった。

さすがに例の著名人の返本がようやくあって、これが入った箱がふたつ。あと、数冊だけ入ってる箱がひとつ。詰めれば箱はふたつでよさそうだった。

伝票の関係なのか。伝票を委託と注文で分ければ、箱は何でもいいような気がするが、例のフルオートの返本センターで自動でこうなっちゃうんだろうか。

で、私が一番期待していた「傷みが少ない」という違いだが、確かに少ない。紐で結わいてないんだから当然である。カバーは、書店で傷む場合もあるだろうし、まあ「以前の返本より少々まし」という感じだろうか。

で、箱が邪魔なので、すぐ改装にかかる。うーん、やっぱりずいぶん違う。さらっと見ただけじゃわからなかったが、本体が全然傷んでいない。カバーを巻き直すだけで改装が終わる。天とかにも傷やマークがついていない。逆に、スリップや中身の確認を忘れそうになるくらいだ。

返本センターの説明会のとき、ビデオでベルトコンベアを見せられたが、ずいぶん進化したってことだろうか。

ふと思ったのは、紐で結わいた束より箱入りのほうが嵩張るということ。返本トラックを増やしたんだろうか。ま、そんなことはうちには全然関係ないんだが。

とにかく、傷みが少ないのは非常にありがたい。早く日販もそうしてくれないだろうか。

直納(取引のない取次編)

2006年04月19日 | 注文納品
以前、書店から「直接送ってくれ」と注文があって、その伝票の処理でちょっとだけ面倒だったことがあった。(例によって日販である)

今回は、普通ならTRCかトーハンから来る注文が太洋社から来て、そこに製本所から直接搬入してもらった。で、またまた仮伝票の処理。(今回はトーハンである)

ちなみに見本納品のときに、トーハンの図書館担当の人に事情を報告に行ったら、怒られるまでいかないが、やはりちょっと嫌そうだった。予想していた通り、「今度からこっちに新刊案内してください」と言われた。TRCへの案内はメールでできるから楽なんだが、後が面倒ならトーハンを訪問するかとも思う。ただ、太洋社ともお付き合いしたいので、悩むところである。

日販であちこち対応が違ったので、前もってトーハンにはたずねておこうと思っていた。が、どうも最近午後忙しいことが多くて、午前中の書籍仕入部に電話する気にはなれず、本日搬入のついでにでかけていった。普段はトーハン→日販というルートなんだが、仕入部まで行かなきゃなんなくても昼過ぎになるように念のため日販から回った。

トーハンで注文納品を終わらせて、はんこを押してくれるお兄さんの顔を見て、ふと前にも「通常の注文納品じゃない伝票」を受け取ってもらったことを思い出した。確か、ブックライナーの在庫を年度変わりに伝票切り替えするとか何とか。納品伝票と返品伝票の両方を持ってく、というようなことだった。

本日もお兄さんにきいてみると、OKだという。

が、「あれ、これ委託ですか?」ときかれた。ポンポンポンと手早くハンコを押しながら、それでもちゃんとチェックしてくれてたってことだ。TRCの注文はいつも委託扱いなのでそのまま委託にしてしまったんだが、仮伝票が注文じゃないってことがありえないのか、よくわからない。

うちとしては、歩戻しがないから注文納品にするに越したことはない。が、届けた先で委託なのにこっちで注文にしたって、後で返本のお伺いFAXか何かが来て面倒なだけなので、委託にしておいた。

お兄さんはすぐにどこかの部署へ連絡してくれたが、担当がみつからないとのことで、「とりあえずそのまま受け取ります」と言ってくれた。

で、先ほど連絡があって、結局太洋社に確認をしてどうのこうの…ということになった。逆に面倒をかけてしまったというわけである。それにしても、サラリーマンには「相手がいいって言うんだし、こっちにお得(歩戻しが入る)なんだからよしとしよう」という思考回路はないのか? そりゃ微々たるもんだが。

で、前回と同じく面倒は面倒だったんだが、面倒具合が違う。やっぱり日販には「なぜ??」ということが多い。

おまけに(仮伝とは関係ないんだが)、本日の日販の返本、共同返本になる前の伝票がついてきていたが、いったいどうしたっていうんだろう?

今どきの口コミの原理

2006年04月17日 | 宣伝
たまにいろんな話を聞くが、うちでは「やらせ書評」は一切やっていない。やらせ購買ならやろうかと思うこともないではないが、書評がいくつか増えたくらいでどうかな?と思うからだ。

で、今回の「売れ行きの読みづらい、著名人の本」だが、あっという間にオンライン書店で書評が書き込まれている。で、またみんな似たような感想を述べている。

私は企画段階から自分で好きなように本を作ってしまうので、他人の感想には非常にナーヴァスに反応する。原稿が完成に近づいた時点でとりあえず社内の人間に読んでもらうんだが、妙に好評でも全面的には信じないようにする。

で、今回の書評だが、「社内の妙に好意的な感想」と同じなのである。

最初に考えたのは、「私の苦労を知ってる社内の人間が、あちこちに書いている」ということ。それにしては、感想を述べた後は自分の仕事に戻って「出版は○○さんの仕事でしょ」のごとく無視をしている。

次に考えたのは、「ある熱烈な著者のファンが、あちこちに書いている」ということ。それにしては、微妙に言い方が違う。それも、ひとつの文章を表現を変えて書いてみたというのではなくて、アプローチも違う。ただ、言ってることが同じ。

よくわからないが、それぞれのオンライン書店に書き込もうと思ったら、コピーペーストをすればよかろう。それに、表現を変えて書いてみたらどう変わるか、一応「言葉産業」にいるものとしてはわかるつもりだ。

今回はどうも、「それぞれの感想がたまたま同じようなものになっている」としか思えない。今までは人によって反応が違う本ばかりだったので、私自身が変に反応してしまう。

ただ、この書評の書き込みにはずいぶんタイムラグがある。ある書評を書いた人が別の書評を読んだという可能性は充分にある。

…と、そこまで考えて、巷の口コミというのは、そうやって「いい!」という「路線と「ダメ!」という路線に分かれていくのかもしれないんじゃないかと思った。つまり、本自体だけでなく既存の書評にも影響を受けた書評が、どんどん生まれていくってことだ。

思い出してみると、前回の本では「書籍概要と書評を読んでどうのこうの…」というコメントが一人歩きまで始めた。それと似たようなことがちゃんと本を読んだ人にも起こっていて、口コミってのを生むんじゃないか。

今まで口コミといえば、「ある主婦がある商品を使ってみてよかったから友人主婦に勧めて、その友人主婦が使ってみてよかったから・・・」みたいなものだと思っていた。けれど、買う前に読んだ書評」に少々影響を受けるってなことはあると思う。

それが「そうだよな~」となるか「期待はずれ」になるかは、本そのもの次第だったり読んだ人次第だったりするんだろうが。ただ、万人ウケするものに関しては、口コミが口コミ以上に作用するってこともありそうだ。

例えば、比較的括りやすいタイプの女子高生向けの本だったら、その括られた女子高生の感想はほとんど同じになるんじゃないか。で、「これだけ多くの女子高生がいいと言ってるんだから!」と、効果は雪だるま式になる。

これは、ひとりがいいと言って「あら、そう? じゃ、あたしも買ってみようかしら」と反応する普通の口コミとは、別のもののような気がする。効果というか、費用対効果ならぬ「時間対効果」がめちゃくちゃ違うような気がする。

もしかすると、こんなことはマーケティング界では当たり前のことで、それをちゃんと理解&実行している出版社が、「わかりやすい」本を出しているのか。

巷には「わかりやすい」本がいっぱいある。わかりやすいってのは、読みやすいとか理解を促すってことではなくて、企画段階から販売まで一連のやり取りが想像しやすいってことだが、そういう本が多いなと最近感じていたのだ。

もしかすると、これは「口コミの作りやすさ」から来るマーケティング戦略なのか。

うーん、専門家にじっくり質問してみたい課題である。

小さいことだが新たな発見

2006年04月12日 | 出版の雑談
あまりさぼらないうちに更新するために、本日は最近あったことをちょろちょろと・・・。

書店が取次から送られてくる箱を開けもせずに返すだの、新刊が多すぎて知らない版元の本はとにかく返すだの、いろんな話を聞いていた。それでかどうかはわからないが、やっぱり新刊配本をしてすぐに、ある程度の数は返ってくる。

うちの場合、配本数がそれほど多くない(めちゃくちゃ少ないとも言う)ので、返本おじさんが2束も持ってくることは、この時期以外ない。が、やっぱり完璧な束(15冊とか20冊とか)を見ると、めげる。

で、新刊が出て本日で2週間なのに、今日も返本がなかった! 例の著名人の本である。

うちでは書店での動向を知るのに「ジュンク堂池袋店の在庫」か「紀伊國屋で在庫がある店舗のリスト」(つまり読者がネットで調べられる程度)の情報しかない。それによると、まあまあである。

あくまでも「まあまあ」で、2週間経って1冊も返ってこないほどの動きは感じられない。

もちろん、「本がよくて書店員さんに棚に差してもらってる」と思いたいところだが、考えたことがひとつ。

ちょっと上品な装丁なのだ。実際は工夫の甲斐あって通常予算内なんだが、ちょっと知った人が見ると「金かけてそうな装丁」。

私が書店員だったら、「なんだよ、似たような本ばっかり作りやがって」と邪険にするよりは、「ん? ちょっと変わってる。なんだろ」と思うような。実際書店員をしたことがないので、この仮定は意味ないんだが。

・・・とそこまで考えてやっぱり意味のない仮定だと思い、「本がよくて書店員さんに棚に差してもらってる」と考えることにした。もともと、そのほうが嬉しいことでもあるし・・・

あと、最近の発見。

先日、日販への注文納品が山のようにあった日があって、さすがの私も原付では無理なので王子まで車を出した。

そこはデカイ流通センターみたいに、トラックがケツからつけられるブース(というのか?)がずら~っと並んでいる。こちらは乗用車なのでそこでなく脇のほうに停めて、えっちらおっちら運んでいた。

ちなみにこの「脇のほう」というのも意外と気を遣うものだ。この日販の注文納品口は、先へ行くほど狭くなるという変な形をしている。なるべく納品口へ近いところに停めたいが、あまり先まで行くと、トラックの「切り替えし用スペース」がなくなる。加減が難しい。おそらく他の人は自分の勝手だけ考えてるだろうが、普段原付で誰の邪魔もしていない人間としては、一応いろいろ考える。

と、5分の4くらい運び終わった頃、トラックからバケツリレーをしてるお兄さんたちのうちのひとりが、空いてるブースを指して、「ここへ停めてもいいですよ」と言ってくれた。言ってくれたんだが、もう残りわずかだし面倒なので、ありがたく辞退した。

後になって気付いたんだが、あのブースはトラック用だとばかり思っていたが、もしかして誰でも停めていいのか。

日販には警備のおじさんもいっぱいいて、トラックにあれこれ指示を出している。よく聞こえないが、おそらく「次、お前行け」とか「あっちに停めろ」とか言ってるんだと思う。そういう指示に従わなくていいのは、乗用車か原付(多分私だけ)だけだと思っていた。

しかし、空いてればあのブースは誰でも使っていいってことらしい。

ま、発見したところで、次回もやはり気を遣って脇に停めてしまうだろうと思うけど・・・

予約販売

2006年04月05日 | 発売前
以前、予約販売に必要なことという記事を書いた。

書いたときには、予約販売ってのがすごくいいことに思えて張り切った。張り切って営業した結果は無残だった。つまり、予約販売に成功したオンライン書店がたったの1軒。やっぱりメールじゃなくて個別に訪問して売り込まないとダメだな~と思ったんだが、いろいろ忙しくて忘れてしまった。営業嫌いなので、他のことを優先してしまう。

が、よく考えたら、予約販売は何のためにするんだろう。

予約なんだから、よく言う「口コミで広がってよく売れた」って効果は望めない。タレントの写真集なら「出たんだって!」という口コミもありそうだが、普通読んでもいない本を人には薦めないだろう。

直販だったら「金が先に入る」という大メリットがあるが、オンライン書店じゃ意味がない。予約は注文扱いになるんだろうか。「うち&取次」より「取次&オンライン書店」のほうが仲が良さそうなので、うちの場合は新刊配本数の中に含まれて終わりという気がする。

それとも、予約殺到!と煽るためだろうか。殺到しなかったら、どうするんだろう。

カッコよく言えば、私は出す本の潜在読者数はわかる。その先はわからないんだが、「この人たちには買ってもらいたい」って人たちの数はわかる。

予約販売したとして、その人たちが予約したとして、「発売後に買う人」が減るだけじゃなかろうか。

よく考えたら、購買申込が殺到したら発売前だろうが発売後だろうが、同じ「売れてる!」じゃなかろうか。

以前知り合いが、「書店に新刊営業をしたら注文が多かったので、発売前に増刷した」と言っていた。一瞬、羨ましいと思ったんだが、やっぱり「見本出しのときに出す短冊(指定短冊というらしい)に含まれる」わけですよね。となると、新刊委託配本となって、歩戻し取られるわけですよね。おまけに、入金は7ヵ月後ですよね。

歩戻しはいいとしても、印刷代がかかる。うちの場合、新刊が少なくて、新刊納品月も他の月も入金額は大して変わらないという、非常に「平均された」経営になっている。そこで「新刊刷ったばっかりなのに、また刷る」ってことは、非常に厳しい。

増刷ったって、資金がなきゃできない。納品書なんかを担保にして金を借りるつもりはまったくない。あ、できないのかな、したことないのでわかりませんが。

委託清算が結構多くて、かつ注文数が多くて月々の入金が多くて、やっと増刷への準備も整う。

となると、予約殺到!というのは、なんかすごく怖い。オンライン書店だから返品は少ないとしても、やっぱり怖い。

地道にゆっくり売れ続けてほしい。じゃなかったら、うちが読者から直接購買申込を受けて、先に払ってもらいたい。

版元側のワガママではあるが、そこから出す本のタイプも見えてくるような気がする。