出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

返品了承

2008年04月21日 | 返本
バイト先の新しい仕事として、「版元了承済みの返本の束つくり」が加わった。慣れてきたから…というより、上の人が変わって「バイトと社員に振り分けられる仕事の範囲が変わった」という感じ。社員がするべきと考えるか、バイトにさせてもいいとするか、それぞれに理屈があって、面白い。

版元了承済みの返本にもいろいろある。まずは委託期間の切れたもの。この委託期間というのは、わたしが普段契約や計算上の言葉として使っている6ヶ月ではなくて、版元ごとの本当の委託期間=返品可の期間のことだ。11ヶ月とか14ヶ月とかあって、面白い。今はトーハンにこの期間を提示することになっているが、この本屋はトーハン帳合ではない。昔からの決めごとなのか、老舗版元の独自のルールのか。

取引条件とかではなくて本そのものについていうと、「前の店長が好きで非常に長く置いていた本」とか「掃除してみたら見つかってぎょっとした本」とからしい。あと、言わずもがなの逆送品。

出版社としての私は、本屋さんからたまに電話やファックスを受け取る。名前を言って了承し、長く置いてもらった礼を言う。ファックスのときは、ついでに「今、イチオシの本の宣伝」も送る。

で、同じことを逆の立場ですればよかろう(電話したりファックスしたり)と思ったら、これが少々違った。版元ごとに以前了承してくれた人の名前をノートに記録してあり、取次規定のフォームに本のタイトルやISBNと一緒にその名前を書き込むのである。

基本的に返本はすべて受け付ける版元や、経営者かそれに近い人から了承を得ていて何年経っても担当者名が変わらない版元…というケースもあるだろう。が、どうもそうじゃなくて、「この版元にはこの名前」という感じで、本人が辞めていようが関係ないのである。なんか出版業界って転職も多そうだし、もういない人の名前も結構あると思われる。

電話やファックスしなきゃならないのは、うるさいとこ、あるいは「新たに必要が出た版元」だけらしい。

これは、うちからすると1回で済むのでありがたい。返品了承のファックスは、ただでさえ返ってくるのに通信料もよけいにかかるわけで、どうせ返ってくるなら黙って返してくれという気持ちがある。

けど、もしこのフォームが出版社に届くのなら、「こんなヤツ、もう辞めて何年も経つよ」とか「前回は了承したが、この本は了承してない」とかいう事態が発生すると思う。倉庫なら気にしないだろうが、私のようにいちいち覚えている人間だったらすぐわかる。

でもこのシステムが機能しているということは、このフォームはあくまで取次向け(取次対策)で、とにかく紙1枚だろうが何だろうが書類が整っていることが問題だということだ。まるでお役所のようだ。

かといって、委託期間の過ぎた本の返品には、版元ごとにポリシーがあるだろうから、「紙は一切やめ!」ってなことにはできない。最近、フリー入帳の版元との付き合いが多く、それが普通のように感じているが、やっぱりいろいろあるだろう。

「ふーん、そうなのか・・・」といちいち考え込みながら作業をしていたが、5社目くらいから「さっさとやっちまおう」ってな気分になってきた。本屋も板についてきたということだろうか。

取次搬入日、その2

2008年04月10日 | 注文納品
忙しいというより、「忙しい感」に振り回されているような気がする。原因はわかっている。今は著者の原稿を待っている状態で本作りをしていないからだ。ただの営業期間と呼べるだろう。営業が苦手なことは前から自覚していたが、あまり張り切りすぎてもよくないようだ。

ここでいう「張り切りすぎる」とは、「実際に張り切って営業に飛び回る」とはほど遠い。やらなきゃやらなきゃと焦ったり、「でもやりたくない、でもやらなきゃ、でもやりたくない…」というどつぼにはまるだけ。で、その結果ストレスを溜め込んで他のことに支障を来してしまう。

私はほとんどストレスなんか感じないタイプだが、「やりたくないことをする」→「息抜きしたくなる」→「あっ、ダメだ。逃げてないでちゃんとしなきゃ…と、やりたくない仕事に戻る」の繰り返しは、効率という意味では最悪だ。

そうでなくても忙しい。棚卸しでさえ、やっぱり発刊点数が増えてくるとそれなりに作業量は増える(当たり前)。大阪屋との取引が始まったおかげで、ちょっと「いつも通りじゃない」感覚もある。搬入も時間かかるし、計算書も作らないといけない(今までは数字の確認目的の売上管理だけだった)。おまけに決算だ。・・・というわけで、常にバタバタ感が抜けない。

今月末には待っている原稿が上がってくるので、なんとか営業に目処を付けて決算も終わらせて、編集に集中したいところだ。というか、そのときを楽しみにしないと、やってられない。

話変わって、ある書店の方と話していたら、新しい誤解に遭遇した。誤解というか違う見方というか。

曰く、大手出版社では搬入日と言えば「取次に搬入される日」だが、中小は共同流通業者への搬入日だったりするので、書店に届くまでの日数にサバを読む、という。私が知り合いの出版社から聞いた話では、「流通倉庫へ出荷連絡して、翌日取次に搬入される」という。翌日かどうかは契約次第だろうが、書店に答える搬入日は取次に搬入される日だと思う。

その書店員さんによく話を聞くと、「流通倉庫で荷物がたまらないと延びるらしく、版元が答える搬入日をそのまんま信じない」という。客注などからの経験則だろうから、「中小はサバを読む必要がある」というのは、まんざら間違いではないだろう。

本屋のバイトで大手版元の搬入日は1週間後と知って、ちょっと大丈夫と感じた。いや、早く納品したいとはもちろん思っているが、うちみたいなチンケな出版社でさえ比較的早いこともある。けれども、多くの書店が「中小は・・・」と一括りに感じているとすると、なかなか難しい問題だ。

この前読んだ『石塚さん、書店営業に来ました』に、「納期が長いか短いかというより、何日後に入るということがハッキリしていれば、書店としても対処の仕方もある」というようなことが書かれていた。本の流通という大きな観点では、業界全体での努力ってものはあるだろう。

けど、「うちは搬入日と言えば、私が持ってく日ですよ。今日と言えば本当に今日取次に入りますよ」みたいなことは、ちょっと知ってもらいたい気がする。かといって、注文電話をくれる本屋さんも忙しいだろうし、いちいち解説するのも変だろう。ま、いいか。