出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

売れる判断

2009年01月24日 | 営業
今回の新刊の著者はまったく無名な人だが(うちの場合、8割がたそうだが)、前職の取引先に、ある書店の社長さんがいらした(以後敬称&敬語略)。著者が当時いい仕事をしたんじゃないかと思うが、付き合いが続いていて、刊行前からいろいろ応援してくれた。うちでの発刊が決まる前には、知り合いの出版社に原稿を回したりといったこともしてくれたらしい。ちなみにうちから出すときには最初の原稿とはまったく違う物になったんだが、ありふれたものじゃなくなったと褒めてくれた(手前味噌)。

その社長が著者に、その書店が入っている「由緒ある書店の会」を紹介し、業界の大物みたいな人も紹介し、その大物の人と昵懇の書店を紹介してくれた。著者が一所懸命それらを回って、いっぱい注文を取ってきてくれた。

私でなくて著者が行くのにはいろんな理由がある。

刊行前に3人で飲んだとき、社長が著者に「版元が営業に行ったって冷たくされるだけだから、あなたが回らないと。著者が売らないと本なんか売れないんだよ」と言ってくれたことがひとつ。まあ、版元によって違うんだろうが、うちの場合絶対そのとおりである。なので、私はふたりの横で大きく頷いていた。どんな新人著者も、多かれ少なかれ「自分は書く人、出版社が売ってくれる」と考えているから、書店という別の立場の人からもそう説得されて著者が信じてくれたのはありがたい。

最初は私も一緒に回ろうかと思ったんだが、書店のバイト先にある著者が営業に来たとき「なんで版元は来ないんだろう」なんてこれっぽっちも思わなかったことを思い出した。どうせこのクソ寒い中営業するなら、別のところに行けばいいやと考えた。

実際のところ、わからない。版元と著者が連れ立っていれば、それだけ「力を入れている」なんて思われるんだろうか。自分が書いた本の営業のときは、営業の人は店員さんとすでに仲良しで、私は横で頭を下げる程度のことしかできなかったし、私が行ったことを書店が特に喜んでくれたとは思えなかった。(ちなみに、あの本を面白かったと言ってくれたらしい書店に自社の営業をしに行っても、店員さんの冷たさは変わらないと感じたので、私は以前以上に営業嫌いになった) なので、いい(効果のある)営業に悪い(効果のない)人間がくっついていっても意味はなかろうと判断した。

本日の本題はそういうことではない。実はこの本は、私が一番苦手とする若い女性をターゲットにしている。だから作っていても常に「これでいいのか?」と悩んでいたし、女性から褒められると「そうなのか(あたしゃわからんけど、まあ、よかった)」と妙に感心したりしていた。

それがずっと続いていたので、その3人の飲み会のとき社長に「○○会を通して大きく展開するか?」ときかれても迷ってしまったのである。そうでなくても、売れなかったら申し訳ないという気持ちは強い。バイト先で、「返してくれたらいいですから」という版元営業の言葉を聞いて、「返すのも手間なんだけど」と思ったことがあったから。実際は、私が品出しや返品作業をするわけじゃないんだが。

で、「普通に配本してみて、動きがよかったらそのときに改めて、その大きな展開というのをお願いできるか?」みたいな返事をした。社長はそのときは「こっちが協力すると言ってるのに反応悪いなあ」という気持ちだったと思うが、あとから「堅実でよろしい」とお褒めをいただいた。おそらく本心はその両方だと思う。

社長が売れると仰るなら喜んで…なんてつもりだったんだが、そういう言葉は出てこない。なので、私は「売れるとは思われていない」のだと思っていた。でも、営業先でもらうコメントや著者から聞く「書店営業の話」を聞いているうちに、そうじゃないとわかってきた。なんというか、「本屋さんもわからない」ということ。

ただし、ここで私が言いたいのは、巷で聞く「本の目利き」ということとはちょっと違う。先日もある人から「取次も書店も全然わかってない人が増えた」なんて話を聞かされたが、その人みたいに文句を言いたいわけではない。

そういうことではなくて、例えばまったく売れなそうな本を0点として、ベストセラー間違いなしの本を100点とすると、「積んでみる価値はある/仕入れて並べても構わない」は60点くらいで、「売れるんじゃないか、わかんないけど」は70点なのではなかろうか。

で、その10点の差は、積み方や著者のアピールやマスコミ露出などのわかりやすい影響ではなくて、「たまたま来たお客さんが…」みたいな、よく言う「本は一期一会」みたいなことに左右されるのではなかろうか。だから、その10点の差がどっちに転がっても30点の本よりまし、まずは合格点であって、本屋のせいでも版元のせいでもない。だから協力すると言ってもらえたんではなかろうか。ベンチ入りはOK、でも試合に出られるかどうかは、「積んでみなきゃわからない」と。

もしかして自分の都合のいいように考えているだけかもしれないが、店頭で「こんなの売れません」と言われるより全然いいんじゃないか。けれども「いっぱい返ってくるかも」という不安は消えないので、まあ様子見です。

年始の取次

2009年01月06日 | 出版の雑談
あけましておめでとうございます。今年も「出版屋の仕事」をよろしくお願いいたします。

年明け早々、新刊の見本納品に行ってきた。本当は去年の11月頃に出したかった本で、それが不可能になった時点で「年始気分が抜けた頃に見本出しに行こう」と考えていたんだが、著者が「13日書店発売」と前宣伝してしまった。なんとなくスケジュールの話をしているうちに出てきた日付を勘違いされるという、初めて出版する著者にはよくある話ではなかろうか。実際のスケジュールはきちんと説明してるんだが、ワクワクして混乱するのかもしれない。

で、見本納品自体はいつもと変わらなかったんだが、初めて「年明けの取次」を経験した。ずいぶん前に、日販の年始の会か何かに紛れ込んでしまった(勘違いして参加してしまった)ことがある。見知った顔をみつけて挨拶をしまくる会なんだろうと思うが、土産だけもらって帰ってきた記憶がなきにしもあらず。

今回は会ではなくて、いつも行く仕入部である。年末休みのときから5日に見本納品に行くつもりではいたんだが、当日になって「ゲッ! 初日じゃん」と気づいた。迷ったんだが、本日6日の午前中に用事があったので、まあいいかと思ったわけである。ブックライナー伝票切替のときに新刊の予定の話も出て、「正月気分が抜けた頃に・・・」と言ったら「いや、(年明け早々から)普通に営業してますから」と言われたことを覚えていたせいもある。

まあ、やっぱり年始の挨拶をしている人たちもいるだろう・・・くらいに思って行ったら、これが大間違い。

まず日販に行くと、エレベーターに乗り合わせた「いかにも版元」3人組のひとりが年賀の包みを持っている(何やら和菓子かせんべいの様子)。うーん、手土産まで気が回らなかった私も悪いが、こちらはただの見本納品だし、願わくばいつものカウンターはいつも通りであってほしい。

が! 仕入部の右側の入り口から覗くと(3人組の後ろから)、なんとカウンターの内側は並んで起立、そしてカウンターの前には「いかにも年始の挨拶組、それも1社で10人くらい」。そして、その10人組が、団体競技が終わって順番に握手をしていくときみたいに、列になって頭を下げながら移動し始めたのである。3人組はちゃんとわかっていたようで、10人の握手行列の邪魔にならないように、横に退いていた。

まあどこかの大手さんかも。全員の握手行列(正確にはお辞儀行列)が終わったら、カウンターの中は座ってくれるんだろうと思ったら、これまた大間違い。中は立ったままで、3人組も行列組と同じように立ったまま挨拶を始めた。

結論を言えば、3人組が終わった後、まだ立ってるカウンター内の人の中に知った顔があったので、近づいてぼそぼそと「今日、普通の見本納品できますか?」と尋ねたらOKだった。年賀ぐらい持ってこいよと思われたかもしれないが、もうとっとと用事を済ませて帰りたかったので、無視してその人の前の椅子に座らせてもらった。

見本納品を終えて気を取り直して、大阪屋へ。こちらも年始組はいるだろうと思ったら、やっぱりカウンターの外側の椅子や普段待つときのソファが片付けてある。カウンターの中の人たちが立っているのも同じ。が、同じく手前の人にぼそぼそとたずねて、その人に見本を出す。一応、知ってる人がいたら挨拶しようと思ったんだが、いなかったのでそそくさと帰る。

ちょっとした時間差だと思うが、1階まで降りたらエレベーターの前が大混雑で、建物の入り口まで人があふれていてビックリ。受品口のお兄さんに挨拶をして、トーハンに向かうために太洋社の前の道を走っていったら、歩道が「いかにも版元」の人たちであふれていて、またまたビックリ。

トーハンでは、こっちも同じで年始組であふれているだろうと思って、すいているいつもの受品口の入り口から入る。祭りで仲良しになった警備の人がいて(シフト制なので会えないときのほうが多い)、こりゃ幸先がいいと喜んで、受品口のお兄さんたちにも挨拶してから6階へ。

最近は6階まで裏のエレベーターで上がるので、社内を縦断して仕入部まで行く。つまりカウンター付近の様子はよくわからなかったんだが、行ってみたら、こちらもやっぱり立っている。おまけにいつもカウンターにいる人だけじゃなくて、その中にいる人まで(体育会まで)。

もう3社目なのでやけくそで、立ってる人たちにはお茶を濁すようにちょろっと頭を下げて、端の人に見本納品のお願いをした。本日、カウンターは年始挨拶のためのものなので、ロビーへ移動してなんとか受け取ってもらう。

普段、ドキドキしながら「○○日搬入××冊と書かれた紙」や「毎日の新刊点数のグラフ」を眺めたり、他社の営業の人たちを盗み見するのも嫌だが、年始はもっと嫌であった。これに懲りて、もう2度と初日に仕入部に行くなんてことは考えない。

いや、逆に、来年はちゃんと年始の挨拶に行ってみるかと思わないでもない。が、ひとりで行って、あのスタンディング「挨拶を待ってるカウンターの人々」にどう挨拶するか、考えるだけで冷や汗が出る。

帰ってきてから思ったんだが、本当にずうっと立ってるんだろうか。午後になったら挨拶組はもっと増えるかもしれないけど、そうなるともしかして1日中???  それはともかく、年始の挨拶を適当に済ませちゃってすみませんでした。