出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

返本箱(日販編)

2006年05月25日 | 返本
前回と前々回の記事にいただいたシゲキさんとTOSHさんのコメントに、高度すぎてついていかれない。もっと勉強と努力が必要だ。

もう少し売上を伸ばしていろんな手立てを講じてやっていけば、商売も知識も広がる。が、難しいのはその加減だ。なにしろうちの規模であれば、いつまでも潰れずにやっていける自信がようやく出来てきたところなのである。

まずは資金が外に出て行かないところで私にできることを、次の新刊からトライしてみようと思った。

ところで、昨日来た日販の返本おじさんに、オリコンについてきいてみた。ちなみに日販ではオリコンとは言わないらしい。違う名前だったんだが、それをまた忘れた。

なんと、希望を出せば箱に換えてくれるという。「希望を出せば…」というところに引っかかった(無茶は言いたくない)んだが、日販としても箱に換えてもらいたいんだそうだ。

おじさんの説明によると、トーハンのようにコンパクトにならない(だからオリコンじゃないのか)ので、嵩張って嫌だという出版社が多いらしい。

なんだ、そうなら早く教えてくれ。で、日販なので例によって電話のたらい回しを覚悟しつつ、念のためおじさんに連絡先を尋ねると、言っておいてくれるという。なんだ、そんなに簡単なら早く教えてくれ。

箱になったのは日販のほうが早かったそうなので、私が出版を始める前に一斉に通達が行ったのかもしれない。そういうことは取引開始のときに教えてほしいような、商売の世界(競争)で甘えるわけにはいかないような・・・。

甘えるわけじゃないんだが、ちょっと違うところの話でブックサービス。うちでは直接取引をしている。が、新刊が出たとき以外はチョロチョロしか注文が来ない。が、引っ越したことを知らせてもくれない。

たまたま自社HPでのブックサービスへのリンクを作っていて気がついた。そうじゃなかったら、ヤマトのお兄さんが山のようにプリントしてくれた「ブックサービス行き送料着払い」の伝票をそのまま使うところだった。事務所移転のお知らせなんかは、甘えじゃなくてマナーの話だと思う。

情報の共有ってな話題と繋がるんだろうか、何かきっかけがないと独学も難しい業界だなと思う。

流通の占める割合

2006年05月23日 | 出版の雑談
またしても、小さいことで気づいたことをいくつか・・・

まず、トーハンの返本箱の名前がわかった。「オリコン」。わかったからってどうってことはないんだが、ちょっとスッキリした。横のパネルが折れてコンパクトになるから、元は「折りコンテナ」なのだろうか。

で、そのオリコンだが、一箱に満たないときの返品手数料について説明を受けていたが、実際は一箱に満たないと結わいて返ってくる。返本おじさんから数冊の束を受け取ったときは、「ゲッ、また紐ですか~」とガックリ来た。紐の痕がないのは、本当に改装が楽なのである。少ないから結わいて帰ってくるんだろうか。それとも書店によっては、例の新しい返本センター経由でなしに返ってくるんだろうか。

返品伝票がまちまちになるのも気に入らない。日販もA4の紙だったり昔の伝票だったりするが、早く揃えてほしい。私は意外と細かいところでキレイ好きなのである。

それから、先日あっと驚くところでこのブログの読者に遭遇した。出版なんて全然関係ない人なんだが、「興味があって悪い? あんただって関係なかったじゃんか」と言われた。私はただの読者だった頃に出版業界について知りたいなんて思いもしなかったが、そういう人が多いということか。

で、彼曰く「流通の話が多い」。もっと企画とか編集とかの話も読みたいんだそうだ。けれどもひとりでやってると、編集より品出し関連作業のほうが圧倒的に多い。おまけに、編集なんて具体的な話をしなきゃ読んでも面白くなかろう。このブログは匿名ブログなので、具体的な本の話はあまりできない。宣伝も兼ねて公開したいのは山々だが、そうすると書きづらいことも出てくる。今のところ、ストレス解消を優先することにする。

ただ彼のリクエストに応えて、今手がけている本の話を少しすると、今回初めてライターを使っている。今までは自分で直したり、頼んでもリライトだけだったんだが、原稿完成まで他人の手による文章ってのは初めてだ。本来、ライターさんの他の原稿などを先に読んで「この人に…」と発注するものなんだろうが、ちょっと一緒に仕事をしたい事情があってこうなった。

ところがどんな感じの文章にしてほしいか説明するのが、意外と大変だった。サンプルを探したんだが、こういうのは探すとないもんで、結局自分でサンプルを書いて渡した。

実用書などはあまり関係ないかもしれないが、巷の編集者はどのくらい「文章の雰囲気」にこだわるんだろう? 「もう少し、どうこうして」とか注文して何度も書き直しさせてるうちに、自分で書きたくなることはないんだろうか? ブリーフィングも編集能力のうちということか。

ところで「流通のことが多い」と言われて思い出したが、どこかの小さい出版社の社長のブログに「資金繰りがまったくわからない」と書いてあって、ビックリした。私にとって、商品の流れとか資金の流れってのは基本中の基本だ。

この前会った人たちに「経験なくて出版社始めるなんて、スゴイ無謀」と言われたが、資金繰りがわからない社長のほうがよっぽど無謀だと思う。言ってしまえば、そんな社長についていく社員も無謀な気がするが、いくらでも転職先があるから構わないのか。

注文数どおりの出荷

2006年05月18日 | 注文納品
角川書店の新しい文庫販売戦略云々についてのニュース。新たに導入した「責任販売制」は、書店が注文した冊数を確実に出荷する代わりに、返品は一定割合のみとのこと。実質「買い切り」だという意見が多いようだが、別のところに反応してしまう。

書店が注文した数を確実に出荷する・・・

配本数が違うということは、書店員のブログなどで読んで知っていたが、以前からなんでだろうと思っていた。ほしいだけの数を配本してもらえないという話だった。

売行きを版元で把握していて各書店への配本数もコントロールするからと、誰かから聞いた。が、大きい出版社は小さいところみたいに「フリー入帳」などなくて、契約通りだと想像していたので、なぜ「希望通りに配本して、その代わり返本なし」にしないのか、不思議だったのだ。

このニュースからすると、やっぱり大手も「なあなあ」なのか。

以前、「注文への対応も、返本を頭に入れてやるべし」とどこかで読んだ。それ以降、一応気にはしている。ただ、書店からめちゃくちゃと思われるような注文が来ることはないので(うちの本は地味に売れているのである)、ほとんど注文どおりに納品している。

一度、採用品だったか採択品だったか教科書の納品で、ドサッと返ってきたことがあった。今年も同じ注文が来たので、電話をくれた日販の人にしつこく探りを入れて、その人のシミュレーションによるとOKということを確認してから入れた。

それ以外は、注文どおり。で、疑問が浮かんだ。

トーハンの注文短冊は、おみくじ棚で受け取って、その場で本に挟んで納品するんだが、ときとして持っていった本では足りないことがある。

予想より多い注文ということで喜ばしいことではあるが、ただでさえ納期が長いのに次回に回すのは非常に気が引ける。特に、4冊の注文で持っているのが3冊だったりすると、めちゃくちゃ悔しい。

そういうときは、3冊だけさっさと納品したほうがいいような気もしてたんだが、それでいいってことだろうか。

考えてみれば、納品書さえちゃんと実際の数を書けば、誰にも迷惑はかからない。どうしてももう1冊必要だとすると、再度注文する手間がかかるが、大した迷惑ではないと思う。

今まで、律儀にやりすぎて、「長い納期」という迷惑を掛けていたんだろうか?

うるさい文庫棚

2006年05月11日 | 出版の雑談
最近仕事でしか書店に行ってない。

本は買う。でも、目的を持って探したり(新会社法とか)、「押さえとこう」と思って買ったりで、純粋な書店の客じゃなくなっている。書店さんからしてみれば、どういう理由で買おうと買ったら客だろうとは思うが。

けれども昔は、ふらっと店に入ってウロウロして、結局数冊買うなんてことがしょっちゅうだった。出版社を始めてから、これがなくなった。

まず営業に行くとき、「話をする前にウロウロしてはマズかろう」とか「話が済んだのにウロウロしてはマズかろう」とか余計なことを考えてしまう。行ってから数ヶ月経っていても、なんとなく「ただの客」になり切れない。まったくの自意識過剰なんだが、営業嫌いなのでどうしようもない。あと、企画中の本と同じ本の装丁を見にいったりするが、これも楽しくない。

書店は、受身体制でボケ~っとウロウロするのが楽しい。

で、最近珍しく街中で30分ほど時間つぶしの必要があって、客モードで書店に入った。私はプライベートだと文庫が好きなので文庫棚に行ったんだが、久しぶりに客としてウロウロしてみると、なんとなく雰囲気が違う。

昔は新刊や雑誌の棚と比べると人口密度は5分の1くらいだったと思うが、どうも人が多い。なおかつ「これが売れてます」とか「これがおススメ」みたいな、書店からのメッセージをビシビシと感じる。確かに以前も「待望の文庫化」とか平積みになってたが、どうも雰囲気が違う。まるで新刊棚のようだ。もっと、「好きなの勝手に買ってって」ってな感じのほうが落ち着ける。

最近の消費者研究によると、勝ち組商品と負け組商品の差は開くばかりらしい。売れていることが一種のお墨付きのようになっているという。最近の書店での売り方も、お墨付き頼りが多い気がする。文庫にもその影響が出ているのか。

・・・とそこまで考えて、これが品揃えってことだと気づいた。あちこちで、品揃えの面白くない書店が増えてきたという話を読む。が、地方都市の郊外にあるような、駐車場が大きくてCDも売ってる書店の話だろうと、漠然と思っていた。

いや、厳密に言うと違うな。品揃えの問題だけなら、あまり気にならない(もともとベストセラーは時期をずらして買う性格)。

オンライン書店の「この本を買った人は、こういう本も買っています」メッセージもうるさいが、何を買うかは客に任せて放っておいてほしいと思う。まして文庫棚で、「今はダ・ヴィンチ・コード!」ってのはやめてもらいたい。(うちで出した本を書店さんが売ろうとしてくれたら嬉しいのに、客となるとワガママになる。)

が、ここまで考えるともうダメで、受身体制でボケ~っとウロウロなんか、できないのである。つまらないので、買おうと思っていた本だけ買って出てきた。

引退しないと、「ふらっと書店に入って、ぼけ~っと棚を眺めて、なんとなく2、3冊買う」ってのはできないんだろうか。すごく悲しい。

決算

2006年05月02日 | 出版経理
9連休と聞いて「中2日休むんだな」と思っていたが、5月1日はメイデーだったと本日気づいた。子どもの頃親父に連れられて行進に行ったことがあるが、すっかり忘れていた。零細企業には関係ないことだ。

で、その大型連休に何をしているかというと、「決算」である。ほとんどの人は興味ないと思うが、私の仕事としては非常に重要なので書く。

まず、3月末に棚卸しをしてある。刊行点数が少ないので、楽なもん。

それで締めちゃってもいいんだが、一応取次からの計算書(3月分)を待つ。送られてくるのは大体4月25日頃。なぜ待つかというと、普段消費税の計算を自分のところのやり方でやってるので、1年間で数円の差が出るからだ。計算書でこれを確認して調整して、売掛残高をピッタリにする。

それから、直販を含む当期の売上を書籍ごとに出して、棚卸し処理をする。うちでは断裁処分なんてことはしたことないが、どうにも改装し切れない本を資源ゴミで出しているので、その分が差になって出てくる。パブで送った本も、このとき処理する。

次に、「返品調整引当金」を計算する。この科目は、出版経理がわからなくて困り果てて行った、「出版経理の基礎コース」で学んだ科目のうちのひとつ。他にもあるんだが、雑誌は関係ないし常備もほとんどないので、他のは無視する。

返品調整引当金は、まず前期と当期の平均返品率を計算する。前期と当期の総返品高を前期と当期の総売上で割る。去年よりよくなっている。実際よくなってる気もするが、3月末に新刊を入れたことも大きいだろう。

次に、売買利益率を計算する。当期純売上(割戻しも引く)から売上原価と販売手数料を引いて、当期純売上で割る。正確には広告料収入ってのも関係あるんだが、うちにそんなもんはないので無視する。

最後に、売掛残高に、返品率と売買利益率を掛けて、完成。結構めんどくさい。ちなみに私がしているのは「売掛金基準法」で、「販売高基準法」というのもある。期末2ヶ月の売上を基礎にするものだ。初めて出版の決算をしたとき、期末2ヶ月の売上がすごい小さな額だったので、これはやめた。

これで、決算処理は終わり。他の(出版以外の)処理はしてあるので、税金の計算をして、めでたくすべて完了する。

ひとつ疑問があるんだが、期中に増刷をかけると、原価が変わりますよね。それってどうやって処理するんだろう。

総刷り部数で平均するんだろうか。期中の原価ってことで売上原価として計算するんだろうか。例えば、「一昨年発刊、去年増刷なし、今年増刷」ってなことだと、原価が「下がって上がって…」なんだが、正しくはどうするんだろう?

今回の決算はそういう問題は出なかったので(つまり増刷なしでただ在庫を売っただけなんだが…)よしとするが、出たときには税務署にきかなきゃならない。

昔、誰かが「出版経理は面倒だから、税務署員もよくわかってない」なんて大口叩いてたが、やっぱりそんなことはないと思う。わからない人もいるかもしれないが、わかる人もいるはずだ。

税理士は料金が発生するが、税務署にきく分にはただなので、うちでは問題が起こると税務署に行く。早く「増刷の場合」について質問しに行きたい。できれば来期♪

最後に、参考書を書いておく。「出版経理の基礎」コースでもらってきた「出版税務会計の要点」(社団法人日本書籍出版協会)。持ってるのは平成14年版だ。もう少ししたら再度参加して新しいのをもらおう。

もうひとつは、私の「出版の恩師」からもらった「エディター講座 出版会計」(日本エディタースクール出版部 水品一郎著)。これは古い。布張り上製にビニールのカバーがかかって、なおかつ箱に入っている。

考えてみれば、普段、目先のことしか片付けないので、読んでない項目も結構ある。これらの本を隅々まで読めば疑問も解決するだろう。税務署にいく必要はないかもしれない。