出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

小ネタふたつ

2008年02月26日 | 出版の雑談
小ネタ

ある版元の営業の方から、聞いた話。その出版社は、ほとんどすべての本がTRCのストックブックスに選ばれて、場合によってはベルにも選ばれるそうなんだが、販売促進料がかかるらしい。

うちはすべて受け身で、昔はトーハンから連絡が来て委託配本に組み入れられるか、最近では大洋社から来て大洋社に納品し(近いから)伝票だけトーハンに回すという感じ。悪くてもトーハンに歩戻しを払うだけだったんだが、世の中そうじゃないらしい。TRCからの請求書なんて、初めて見た。

その版元の方は、「ほとんどすべての本が選ばれ」て、かつ大量に注文してくれるわけだがら「まあ、販売促進料といえば言える」みたいな感じだった。別に、それを払ってるから選ばれるわけではないだろうし、もちろんうちのように払ってない版元があるのもご存知だったが、「半分納得、半分しょうがない」ってことだと思う。

下手に動くと薮蛇になりそうなので、これは単なる知識として覚えておくことにする。

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別の小ネタ。

今日、日販のおみくじ封筒を届けに王子の2階(3階?)に行ったら、ベルトコンペアも何もかもすっかり撤去されて、改修工事前みたいな状態になっていた。奥の方の事務所部分はそのまま残っていて、封筒もちゃんと届けられたんだが、あの人たちは、どこに移動したのか。新しくできた棟のほうに行ったんだろうか。1階(2階?)の受品口もあっち行ったりこっち行ったりちょろちょろ変わるが、最終的に新しい方に移るんだろうか。

けど、新しいところだろうがそのままだろうが、とりあえず日販は王子にいてくれるってことで、トーハンと比べると安心感がある。

今日、トーハンのおみくじ棚に、関西の国会図書館への納品の書類があった。ただの短冊じゃなくて、「返品入帳のお願い」書類なんかも一緒に封筒に入っていたので、また桶川プレッシャーか!と思って一瞬ビビった。違ってよかった。

規模の違う営業

2008年02月18日 | 営業
昨年末に出した本がNHKの人の目に留まって、著者がある番組に出演することになった。凄いことである。

うちの発刊頻度や業界全体の新刊数などのことを考えると、意外とうちの本は「取り上げられ率」が高いんじゃないかと、密かに喜んでいる。類書がなくて苦労すると、同時に取り上げられるチャンスは高まる。今回は特に、「こんなの初めて見ました!」とコンタクトをされたので、やった!という気分だった。

思い返せば、まだ何もよくわかっていなかった頃、新聞に(書評じゃなくて小さい記事)載ったときは、一人でお祭り騒ぎをしたものだった。喜ぶばっかりで、ちゃんとチャンスを活かしたとは言いがたい。今回は、そのへんきっちりと数字につなげなければならない。

ありがたいことにアドバイスをくれる人もだんだん増えてきたので、さっそく相談した。飲み会の席だったせいもあるが、みんな「いけいけ!どんどん!」営業をしろと言う。普段はコストのかかる営業はしていないので、書店へFAX営業するだけで私としてはOKとしたかったんだが、書店チェーンの本部がどうのこうの・・・なんて話が出てくる。

はい、せっかくですから私も頑張りますが、考えるだけで血圧が上がってしまう。紹介すると言われても、ビビってしまう。しかし問題は、営業嫌いでビビっていることではない。

再委託とか、取次の別の部署がどうのこうのとか、書店チェーン本部取りまとめの数を見て増刷しておいてチャンスを逃さないとか、うちの普段の規模からかけ離れているのである。「テレビで見て本屋に行って、あれば買うけどなければ買わない」という理屈だけは理解している。「リスクもあるから、ここは勝負ですよ」と言われると、そうだよなとも思う。

前回(新聞のとき)は、「ま、最悪10人くらいは買うだろう。ただで出るんだからよしとしよう」と思って、ふたを開けたら3ヶ月で500部くらい動いた。うちの感覚では、数的に問題があるわけではない。が、今回はそういう受け身じゃダメだし、だからいろんな人からアドバイスをもらっているんだが、どうにも怖い。

人によって言うことが違う。本部で注文をとりまとめてもらうことに対して、「勝手に注文しやがってと思う支店が多い」という説と、「そういうチェーンは本部仕入れに慣れているから大丈夫」という説がある。それぞれの出版社でそれぞれ経験して得た知識だろうから、うちも「経験」すればいいんだろうが、いっぱい失敗するのは怖い。どちらかというと、少しずつ大きい規模に慣れていきたいのである。

とりあえず、テレビと言ったって紹介のされ方次第だというのはわかった。誰かが「これ、よかったんですよ!」と、損得抜きに褒めると動くらしい。ただタイトルが出るだけなんてのは、あまり動かないらしい。ま、当たり前。

今回は「よかったんですよ!」系統ではなく、下手すると「著者をかっさらって自分とこの番組をうまいこと作る」系統になるかもしれない。それでも全国ネットなので、やっぱり準備はしておきたい。

ここ数週間、悩んだりビビったり、しなきゃいけない営業を想像して気が滅入ったりしていた。が、やっぱり本屋さんでの展開については本屋さんに聞くのが一番だと腹をくくることにした。本当はうまい売り込み方とかあるんだろうが、こっちもビクビクなのを隠したってしょうがない。プロの判断をあおげばいいのだ。「さっさと在庫をさばく」ことをまず目標にしておいて、本屋さんの意見を聞くことに決めた。

最後に、小ネタをひとつ。

そのテレビに著者が出る本のちょっと後に、委託配本しない本を出した。注文対応だけできるように、取次には書誌の登録をお願いした。トーハン・日販ともに『見本は2冊」であった。ちょろちょろと注文分を出荷していたんだが、TRCから来るTBレポートを見ると、なんと図書館に3冊納品されている。2冊はわかるが、あとの1冊はどこから調達したのか。日販からもらったんだろうか。

取引条件

2008年02月01日 | 出版取次口座の取得
何回もダメだったとかアマゾン経由でEC口座をトライしたとかいろいろあったが、ようやく大阪屋との取引がOKになりそう。いろいろあった…というのは主に「苦労したけどダメ続き」ということなんだが、やはり最後はある方にお力添えいただいた。「コネを使いなさい!」と叱られたし、ありがたくお世話になることにした。

前にも書いたと思うが、心の底では「コネ使っていいのかな」とか「ダメならダメでしょうがない」とか「でも本屋さんのことを考えたら、何が何でも…」とか「ただでさえ、こんなちんけな出版社に取次口座があって、コネなんか使ったらもっと妬まれる」とか、あれこれ考えたりはした。

でも世界が広がるのは確かだし、営業も少しずつ慣れてきてこれを機会にもっと頑張りたいし、よしとする。第一、いつまでも「他業種からの参入」とか「素人が始めた」とか言い続けるわけにはいかない。人前で話す(前の記事)なんてこともしてしまったし、ちゃんと「版元らしく」ならなければならない。

コネというのは素晴らしく、今までは電話で断られるばっかりだったのが、初めて担当の人と会えたその日に、取引条件の話にまで進んだ。もちろん、念のためコネの方にもついていってもらったんだが(笑)

条件自体は守秘義務があるので書けない。ちなみに『日本でいちばん…』では「よくいろいろ書いたな」という感想もいただいたが、法的に(というか明文化されている)書いちゃいけないことは書いていない。自分で言うのもなんだが、そのへんは律儀なつもり。

ただ、担当の人の話で気になったのが、「根拠のある数字ではないので、まあ、これでお願いしていると言うか、なんというか・・・」みたいな微妙な表現だ。

根拠のない数字ってのは「売れ部数予想」や「配本数を決めるとき、期待もこめて多めに…」などをいうのだと思っていた。掛け率や返品手数料はもちろんだが、口座開設手数料も採算を考えて決めるんだと思っていたが、根拠のある数字じゃないらしい。たとえ予測数字だとしても、自分たちなりの根拠(統計)はあると言い切られてもこちらに文句はないが、そのへんあちらは非常に低姿勢。

ちなみに私自身は、「取次との取引条件は、各取次と各版元の契約次第」という考え方で、まったく問題を感じない。うちだけ悪くったってしょうがないし、交渉不可と言われてるわけじゃないし、民間企業同士の商行為として普通だと思っている。根拠があるかないかってのは、交渉段階になって相手に納得してもらうために必要になるわけで、こっちが呑める数字なら根拠があろうがなかろうが問題はない。

そう思っていたら、ちょうど本屋のバイト先に流対協というところのFAX通信みたいのが送られてきた。新文化の「出版界の大モンダイシリーズ 『取引条件』を考える」という記事についてのコラムだった。基本的に「新規・零細出版社を虐げるのはけしからん」という論調。

私は、なんで取引条件に基準がなければいけないのか、あるいは基準があるとして、なんでそれを公開しなければいけないのか、まったくわからない。「相手が払ってくれそうなら高く請求して、そうじゃなければ勉強する」ってのは、誰でもすることだと思う。力関係ってのはすぐ悪役にされるが、影響して当たり前。嫌なら交渉すればいいんだし、交渉能力も要望の根拠も、自分の商売能力のうちだと思う。で、うちはその能力は低かったんだが、コネを使えたというある意味別の能力があったわけである。

今回の「根拠がない数字ですが…」には、「皆さんに根拠を示さないといけないって言われてますし…」みたいな取次側の苦悩も感じられて、すごく面白かった。うちはそんなこと全然言わないし、皆さんの条件とは関係なしに交渉したいところはするつもりで行ったんだが、相手側の反応は違ったというわけである。うちの反応がどうということでなく、今までいろいろ文句言われてきた経験に則って説明するという感じ。

コネを使ったから、徒党を組むと思われたのか? いろいろ勉強になった。