出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

出版社になりたい人たち

2009年06月18日 | 出版取次口座の取得
最近、「出版を始めたいのだが会ってほしい」というリクエストがすごく多い。相談に乗ってくれとか、話を聞いてくれとか、実際どうなんだとか、それぞれ微妙に違うのが面白い。

うちはひょんなことで大手取次の口座がとれてしまったので、これから書くことは一部の方々からとてつもない反発を食らうのは承知している。が、最近の皆さんの訪問でちょっと考えたことを書く。

まず、著者なら著者でいいんじゃないかということ。他の出版社から本を出したり自分で手売りしてきた人たちのケースで、好きなように書きたいとかもっと売れるとか、出版社になりたい理由はいろいろだ。

私は自分で本を書いたとき、版元より絶対ラクだと思った。今、製造原価の締める割合は上がってる(初版部数の関係)し、流通コストもかかるので、版元の取り分ったら、2割、よくて3割じゃなかろうか。印税が1割とすると、対して変わらないではないか。で、そのたかだか1割から2割の違いのために、版元がしなきゃいけないことを考えたら、著者のほうが絶対いいと思う。

実際、取次に年10冊新刊の出版計画を出したとして、どうやって「書いて、売って」いくのだろうか?

そんなに、自分が書きたいように書きたいんだろうか? 売れたかどうかってのはある程度結果論的なことでもあり、版元の言うとおりにしていなかったらどういう結果になっていたかってのは、わからない。でも、こういう人たちは、自分で書きたいように書いたらもっと売れたと思っている。で、それは著者をしている限りわからないことなんだろうけど、かといって、みんなが出版社になればいいのにとは思わない。好きなようにすればより売れたケースもあったかもしれないけど、きっと「いつもそう」ではないと思う。

あとは、「大手で門前払いだったので、今週XXX(小さい取次)に行ってみる」という人たち。中に、「XXXに言ってみたが、トーニッパンから取ってくださいと言われた」という人もいて実際はよくわからないんだが、そりゃそうだろうと思う。

大手以外は業界じゃないという意味ではなくて、読者や書店のことを考えたら、ある程度仕方ないと思う。売る気満々で新聞広告の予約をした人がいたが、お客さんが新聞を見て書店に行って、書店が「取次経由で仕入れられない」とわかったら、どうしてもらうつもりなんだろうか。

で、なぜこういう人たちに対して、「そんなに出版社になりたいか」って気分になってしまうかというと、みんな「自分の会社が出版社になること」に異常にこだわるからである。読んでもらうということを考えたら、違う道もあるのに…と思う。

でも、「どうしてもらうつもり」に対してきちんと対策を練っている(あるいは短期的改善プログラムが存在する)のであれば、それぞれ頑張ればいいと思う。私にはできない「直取引でWINWINを実現する」とか、そういうことだが、でもホント、なんでそんな苦労したいのか、わからない。

取引条件

2008年02月01日 | 出版取次口座の取得
何回もダメだったとかアマゾン経由でEC口座をトライしたとかいろいろあったが、ようやく大阪屋との取引がOKになりそう。いろいろあった…というのは主に「苦労したけどダメ続き」ということなんだが、やはり最後はある方にお力添えいただいた。「コネを使いなさい!」と叱られたし、ありがたくお世話になることにした。

前にも書いたと思うが、心の底では「コネ使っていいのかな」とか「ダメならダメでしょうがない」とか「でも本屋さんのことを考えたら、何が何でも…」とか「ただでさえ、こんなちんけな出版社に取次口座があって、コネなんか使ったらもっと妬まれる」とか、あれこれ考えたりはした。

でも世界が広がるのは確かだし、営業も少しずつ慣れてきてこれを機会にもっと頑張りたいし、よしとする。第一、いつまでも「他業種からの参入」とか「素人が始めた」とか言い続けるわけにはいかない。人前で話す(前の記事)なんてこともしてしまったし、ちゃんと「版元らしく」ならなければならない。

コネというのは素晴らしく、今までは電話で断られるばっかりだったのが、初めて担当の人と会えたその日に、取引条件の話にまで進んだ。もちろん、念のためコネの方にもついていってもらったんだが(笑)

条件自体は守秘義務があるので書けない。ちなみに『日本でいちばん…』では「よくいろいろ書いたな」という感想もいただいたが、法的に(というか明文化されている)書いちゃいけないことは書いていない。自分で言うのもなんだが、そのへんは律儀なつもり。

ただ、担当の人の話で気になったのが、「根拠のある数字ではないので、まあ、これでお願いしていると言うか、なんというか・・・」みたいな微妙な表現だ。

根拠のない数字ってのは「売れ部数予想」や「配本数を決めるとき、期待もこめて多めに…」などをいうのだと思っていた。掛け率や返品手数料はもちろんだが、口座開設手数料も採算を考えて決めるんだと思っていたが、根拠のある数字じゃないらしい。たとえ予測数字だとしても、自分たちなりの根拠(統計)はあると言い切られてもこちらに文句はないが、そのへんあちらは非常に低姿勢。

ちなみに私自身は、「取次との取引条件は、各取次と各版元の契約次第」という考え方で、まったく問題を感じない。うちだけ悪くったってしょうがないし、交渉不可と言われてるわけじゃないし、民間企業同士の商行為として普通だと思っている。根拠があるかないかってのは、交渉段階になって相手に納得してもらうために必要になるわけで、こっちが呑める数字なら根拠があろうがなかろうが問題はない。

そう思っていたら、ちょうど本屋のバイト先に流対協というところのFAX通信みたいのが送られてきた。新文化の「出版界の大モンダイシリーズ 『取引条件』を考える」という記事についてのコラムだった。基本的に「新規・零細出版社を虐げるのはけしからん」という論調。

私は、なんで取引条件に基準がなければいけないのか、あるいは基準があるとして、なんでそれを公開しなければいけないのか、まったくわからない。「相手が払ってくれそうなら高く請求して、そうじゃなければ勉強する」ってのは、誰でもすることだと思う。力関係ってのはすぐ悪役にされるが、影響して当たり前。嫌なら交渉すればいいんだし、交渉能力も要望の根拠も、自分の商売能力のうちだと思う。で、うちはその能力は低かったんだが、コネを使えたというある意味別の能力があったわけである。

今回の「根拠がない数字ですが…」には、「皆さんに根拠を示さないといけないって言われてますし…」みたいな取次側の苦悩も感じられて、すごく面白かった。うちはそんなこと全然言わないし、皆さんの条件とは関係なしに交渉したいところはするつもりで行ったんだが、相手側の反応は違ったというわけである。うちの反応がどうということでなく、今までいろいろ文句言われてきた経験に則って説明するという感じ。

コネを使ったから、徒党を組むと思われたのか? いろいろ勉強になった。

ありがたいコネ

2007年08月21日 | 出版取次口座の取得
最近、このブログへのアクセス数が多くて、ちょっと怖い。もちろんあの本の影響でありがたいことなんだが、妙に緊張もしてしまう。

が、最近会った大きな書店のえらい方から、「今度は日付と実名を挙げて書け」と励まされた(?)。本でさえそうなんだから、もうこのブログも開き直っていいってことかもしれない。

そのえらい方を訪問した理由は、直取引のお願いである。アマゾンのあれやこれやから始まって、3ヶ月ほど前に大阪屋に取引開始の申込をしたんだが、埒があかない。それなら…ということで、行ってみた。もちろん、えらい方に会えたのには理由があって、あの本でお世話になっている晶文社さんに紹介してもらったからである。

ちなみにアマゾンサイドとの経過を報告すると、「定型文じゃなくてちゃんと返事をくれる」部署であるなかみ検索の担当の人と、ちょっとやりとりできた。が、やはり行き詰った。「今度からトーハンからの書誌データが漏れないように、注意します」と言ってくれたが、4月に出した本をその人に登録してもらうのは無理のようだった。ついでに言うと、e託へのお誘いが相変わらず来る。ベンダーセントラルは、意味のないことしかできないIDをもらって、そのままになっている。

で、大阪屋だが、最初の頃窓口の人に数回電話したが、「こっちから連絡するまで待て」みたいな返事だった。

私は、そう言われるとしつこく電話できないタイプである。大阪屋の別の人から「どれだけ熱意があるのか知りたい。ない人は相手にしない」と聞いていたが、どうもその気になれない。が、今回は今までと違って「ぜひとも取引を…」という気だったので、いつもの私よりはしつこかったと思う。

しつこく電話してお願いすることは、その別の人からすると熱意の表れなのかもしれないが、私はなんとなくそういう泥臭いのは嫌いなのである。人間的には泥臭いが、商売となると「過程より結果」と思ってしまう。「何度もしつこく頭を下げる」んじゃなくて、「ダメな理由を教えてもらって、ただちに対応策を練って再度申し込みする」というように動きたい。

ついでに言うと、「忙しいから週に1回電話してみてくれ」というのであればする。もっとついでに言うと、「こちらから連絡する」と言っておいて連絡しない人はあまり好きじゃない。熱意だけじゃなくて力関係もあるんだろうが、それなら「週に1回…」と言えばいいと思う。

で、話は戻ってその直取引を申し込んだ大きな書店だが、自店でのうちの本の動きを調べたりいろいろ話をした結果、「やはり大阪屋で口座を…」ということになった。「規模から考えて直取引は面倒、だから自分はいいけど現場が嫌がる、なんでかっていうと取次口座がまったくないならまだしもトーハンがある」からだという。

なんか、いろんなところで「取次は大手二社だけ」という状態が妙な影響を及ぼしている気がする。最初の頃は「珍しいケースでいいじゃん」なんて気楽に考えていたが、変に妬まれることも無きにしも非ずだし、こういうことにもなる。もちろん、全体的に考えれば非常にありがたいことで常に自覚もしているんだが、なんか上手くいかないこともある。

で、大阪屋も望みを断たれたっぽいし直取引もダメかと思ってガッカリしていたら、驚きの展開になった。なんと、大阪屋に話をしてくれるという。ま、「プレッシャーかけたろか」というのは冗談で、「どうして何度も断るのか、理由を探ってみる」くらいのことだと思う。

でも、もし冗談じゃなかったら?? 昔、大阪屋の人から「ジュンクやブックファーストから御社と取引してくれと言われたら考えますけどね」と言われたことがあるし、出版の本などに「書店に口添えしてもらって、うんと言わせる」ケースがあるとも書いてある。

もし、そのえらい方のおかげで話がまとまったら、きっと複雑な気分になると思う。もちろん嬉しいけど、「結局、この業界はコネですか」みたいな。いや、ありがたいんですが。。。

アマゾンその後のその後の・・・

2007年06月01日 | 出版取次口座の取得
少し前に、ある集まりで「ベンダーセントラル」という新しいサービスについて教わった。ベンダー側(出版社)で書誌の登録ができるということで、逆に言えば「取次に頼るのではなく、版元でキチッと情報提供をするべし」という流れらしい。情報ぐらいいくらでも提供しますがな、ということで、そのサービスに申し込んであった。

ちなみにうちの新刊(4月上旬発刊)の書誌は、まだ出ない(=アマゾンで買えない)。以前は、トーハンと日販に見本納品をすれば、いつかは出た。正確には、4年前には3日後だったのが、1年前には10日になり、半年前は1ヶ月後。それでも出た。今回は、まだ出ない。

さらに言えば、アマゾンの中で比較的「受け入れてくれるっぽい」対応をしてくれる中身検索には、発刊後すぐに本を送ってある。書誌データでさえ出ないなら「本を返せ」と言いたいところだが、実際言ったらどういう返事が返ってくるのか。(なかみ検索にもいっぱい本が送られるだろうから、うちの本がまだあちらにあるとは思えない)

で、そのベンダーセントラルだが、結構な期待を抱いて申し込んで、うんともすんとも言ってこないので「どうですか?」とお伺いのメールも送り、最近になって「登録完了」のお知らせを受け取った。

が、書誌データの登録はできない。私の勘違いなのか何なのか…と思っていた。

すると、「取引の関係で、現在私がログインして見えるページ以外のサービスは提供されない」という説明のメールが来た。

うーん、やっぱり八方塞がりか。が、ここでいろいろアピール(ちょっと前に世話になった日販の人経由とか、ベンダーセントラルを教えてくれた組織経由とか)しても、結局アマゾンは e託の話を出してくるような気がする。e託に関しては、ある人から「週に1回しか在庫補充の連絡が来ないので、下手すると10日間も在庫なし表示になる」と聞いていた。そうでなくても条件が比較的悪いので、食指は動かない。

結局のところ、やっぱりこの不便さは大阪屋がらみが原因と判断し、取引口座開設を申し込むことに決めた。何度も断られたり、「必要だ、いや必要ない」といろんな人にアドバイスをもらったり、搬入が面倒だという理由で検討を先延ばししたりという状態が続いていたが、ここへ来て決意した。

ジュンク堂さんは直取引の申し込みも受けてくれる…なんて話も聞いてた(なおかつ、仕入部の人を紹介しますよというありがたい話もあった)んだが、もう腹をくくることにする。

実際は、私が腹をくくったって、大阪屋に断られたら終わりなんだが・・・。

無視された訪問

2006年02月21日 | 出版取次口座の取得
ちょっと報告だけなんだが、先週予定されていた「新規取次口座開設のための訪問」は、なかった。うんともすんとも言ってこなかった。忘れていたのか、やっぱやめようと思ったのか、謎である。

電話してきけばいいんだが、めんどくさいし見本出しの時期が来ればハッキリするので放ってある。

ただいろんな人から「どうなったか?」ときかれた。「来なかった」というと皆、「いーよいーよ、放っておけ。トーニッパンがあれば問題ない。どうせxxxな書店しかxxx!」などとまくしたてた。

励ましてくれたんだろうが、別に私は「それならいらん!」とまでは思わない。搬入もトーハンの近くでなんとかできそうだし、もう少し様子を見ることにする。

ベストセラーへの道(半歩)

2006年02月06日 | 出版取次口座の取得
うちは出版を始めるときに、トーハンと日販で口座を開設している。

当時、「トーニッパンでOKなら、他は全部数珠繋ぎ」と聞いたので大阪屋もあたったが、断られた。「数珠繋ぎなんてウソじゃん」と思って、他にはあたらなかった。

ちょっと経ってから、うち向けだと誤解して地方小出版にアプローチしたが、撃沈された。

その後、大阪屋から複数注文が続いたときに、電話をくれた人から「口座開設すれば?」と言われた。じゃあってなもんで行ってみたが、やっぱりダメだった。最近では、そういう電話には「申し込んでも断られるので…」とハッキリ言うようにしている。複雑な反応が返ってくるのがおかしい。

ところで最近、ベストセラーになった本とその理由みたいな本を、数冊読み返した。前回読んだときは、どういう企画でどういう時代背景で…ということしか頭に入らなかった。が、今回は、「配本してみて、売れ行きがどうのこうのだったので、どうこうして、読者層が広がって…」みたいなことばかり気になった。

大きなところは、全国の書店での毎日の売上データがあるだろうし、販売戦略も常に考えているだろう。うちの場合は、何もわからないでヒットを逃したりするのかなと、ちょっと考えたりした。

ひとつ気づいたのは、やはり「初回の配本数が多くて、売れそうだったらすぐにまた配本して、何万部達成と声高らかに宣伝する」本が、ベストセラーになるということ。

うちは採算分岐点がめちゃくちゃ低いし、「この本で勝負!」というような状況になったことがないので、ベストセラーということを今まであまり気にしたことがない。千冊より2千冊、2千冊より3千冊って感じで、「より売れれば」嬉しいわけであって、最初から大きく狙うということはない。

ただ今後の課題として、そういうことも考えたいし、考えたいから、前回とは違う点を気にしながら読んだのだと思う。

つい最近あるライターさんから自著をもらったんだが、そこにも「最初の頃の書店での露出が大きいとよく売れる」と書いてあった。ちなみに、何冊も出して累計が百万部を超えるという売れっ子ライターさんである。

やっぱりな~と思ったが、取次は過去の実績で配本数を決めてくる。始めた頃よりは返品率も下がったんだが、みそっかす版元には変わりない。突然「この本は大々的に売りましょう!」ってな話にはならない。

しょうがないから、トーニッパンは地道な努力を続けるとして、取次を増やすかと考えたりしていた。最近つきあっている印刷所にも、「それだけで初回配本数が違いますからねー」と言われていたせいもある。

と、太洋社からTRCの注文が入って、これを機会に…なんて話が出てきた。大阪屋の件があるので、「話=口座開設」でないことはよーくわかっている。

話はそれるが、TRCの注文に関しては、TRCから直接来たりトーハンから来たり、TRCから注文が来たらトーハンから文句が来たりで、よくわからない。それにしても太洋社から来るのは初めてだ。またトーハンから文句を言われるんだろうか。

ともあれ、過去の電話注文受付ノートを調べてみた。当たり前だがトーニッパンが多くて、大阪屋と太洋社が同じくらい。ただ、大阪屋はトーハンの「おみくじ棚」に入ってる短冊もある。それを考えると、太洋社は4位。ちなみに栗田はほんの少々の電話(書店から直接)注文があって、中央社は電話はない代わりに「おみくじ棚」にほんの少々の短冊といったところだ。

一瞬、こんなこと書いていいのかと思ったが、あくまでもうちの取引高の開示だから問題なかろう。

というわけで、新取次口座は楽しみだし、TRCのストックブックスに選ばれたというわけで、(前回書いた)オンライン書店への営業にも身が入る。

出版社の器だけ残る

2005年03月06日 | 出版取次口座の取得
<メルマガのバックナンバーです。昔の話です。>

書店向けにFAXは送ったが、聞いたこともない資格の対策本なんで、どうも積極的に売り込む気持ちが湧かない。しばらくは、他の仕事の合間に納品や返本消しゴム作戦をのんびり片付けていた。

が!
出版の話を持ってきた例の知人が、普段と違う顔つきでうちの事務所までやって来た。なんと、倒産するはずだった出版社が息を吹き返したのでやっぱりそっちで本を出すと言う。

「それは困るよ、あの出版計画どうしてくれるんだ」と言っても、もう決ったとか何とか。

「うちも困るから、たくさんセミナーやってるんだったら資格2つくらい、うちから出してよ」と言っても、それはできないとか何とか。

どうやら、ただ息を吹き返したんじゃなくて、裏で知人と何らかの駆け引きがあったらしい。

知人は売り込みの押しが強い人間とは知っていたが、逃げるときの押し、いや退きとでもいうんでしょうか、そいつも強かった。

後には、器だけバッチリの出版社が残された。勢いで取れてしまった取次口座。しかし、出す本がない・・・

取次口座付きの会社は高く売れると聞いたことがある。ちなみに契約では、社名や役員の変更、営業権の譲渡は速やかに報告しろとある。報告しろってことは、売っちゃいかんという意味ではないのか。

でも会社を売るのは問題外としても、営業権だって非現実的だ。売ったと報告したとたん、取次が口座閉鎖を言い出さないとも限らない。なにしろ1冊出しただけで、取次がうちを「取引先」と認識してるかは怪しい。

一瞬、お先まっ暗と思ったが、持ち前のノー天気が出てくる。いろんな本を出してみたいと、私自身つい2ヶ月前に思ってたじゃないか。金を出して本を作るのはうちなんだから、誰かに迷惑かけるわけじゃないし。

よし! やってやろうじゃん、出版社!

あの仕入部で断られてた若者や1億の某県人にはちょっと申し訳ない気もするが、これも運だよ。

そう考えたら、ちょっとワクワクしてきた。実はこれが私の長所でもあり短所でもあるのだが、もちろんそのときは、そんなこと気にしない。明日じっくり本の企画でも考えてみよう♪ これがホントの苦労の始まりでした。


取次口座確定の日

2005年02月22日 | 出版取次口座の取得
取次口座の取得が確定した最後の訪問日、納品の流れをさらっと説明してもらった。あまりにさらっとしていて、何の疑問も浮かばなかった。最後に「じゃ、本ができたら、とりあえず僕のところに持ってきてください」と言われた。

新しく本を作ると、まず見本納品として4、5冊、仕入部に持ち込む。カウンターで順番待ちしている人たちはみんなこの見本納品だ。大手の出版社なのか、やたらたくさん持ち込んでいる人もいる。新刊5冊だとそれぞれ4、5冊ずつだから、全部で20冊以上。大きな紙袋を重そうに抱えて待っている。

ちなみに新刊の数は、年間6万とか7万冊とかそのへんらしい。出版界の人たちは、多すぎるだの悪本の垂れ流しだのと言ってるけど、よく分からなくて何の感情も浮かばない。書店員の苦労という意味で、この数字の大きさを理解すべきだと分かったのは、もっと後のことだ。ただ本当に、次から次へとカウンターに本が乗っていく。

で、大きな紙袋の人たちは、仕入部の人とカウンター越しに仲よさそうに話している。こちらは横目でちらちら観察する。大きな出版社だと見本納品担当者とかになって、しょっちゅう会ってるということだなと思う。

出版社というとかっこいい編集者のイメージが強いが、ただのセールスマンの親父みたいな人が多い。編集VS営業職ってな話を知るのも後のことなので、あまりのどん臭さに、ちとビックリする。まあ、ああいうふうに持ち込めばいいんだな、と納得する。

そうやって見本を出すと、その場で仮の納品数が決められる。「こういう本なら、千冊ですね」というような感じだ。次の日の午前中に同じ仕入部に電話を入れて、この数を確認する。その次の日から納品ができて、納品の3日後に書店に並ぶ。

…とこういう流れだと説明を受けた。さらりと。

私は、後のことはそのときでいいやという性格なので、ハイってなもんで腰を上げた。1回目の訪問からずっと相手になってくれた仕入部の人は「分からないことあったら僕に電話ください。一応なんでも僕が窓口になりますから」と言って、にこっと笑った。ありがたいことだ。しかし彼も、後のことは後という性格なのに違いないとも思った。

で、やっと1冊目の本作りが始まる。電話で仕入部にコンタクトしてから、3ヶ月ほど経っていた。

取次口座取得のその他のハードル

2005年02月21日 | 出版取次口座の取得
今までの話を読んだ例の知人が、あれじゃ読者が誤解すると言ってきた。いろいろ大変だったじゃんかーと言われて思い出したので、もう少し取引開始までのことを書く。

どうも物事が解決すると苦労は忘れるって性質でそれはそれでストレスとかと無縁でいいんだけど、それじゃ意味ないから。

仕入部には、新刊の見本納品のために出版社の営業マンが次から次へとやってくるカウンターがある。脇のほうにテーブルがあって、取引申し込みはそこで話す。そこでも順番待ちをするから、いろんな話が聞こえてくる。

継続して本を出していけると自信満々に訴えたと書いたが、実際、断られていた人たちは自信なさそうだった。「いくら企画あってもね~、そんなの売れませんよ」と意地悪く言われていたのは、かっこいい若者二人組だったが、本職に売れないと言われて、返事に困っていた。

うちの場合、例の知人が、セミナーをしているとか宣伝するとかずいぶん脚色すると同時に「もう、何千冊ずつ売っている」と大風呂敷を広げていた。あと私がそれをもとに、何月に何々を何冊ってな収支予測を作って持っていった。でもやっぱり、ポイントは彼の押しの強さだったと思う。

他には、現金を1億(!)用意しているという人たちがいた。地元で売れた本があるとかで、某県から来ていた。よく売れたので全国で売りたいとのこと。本を納品する窓口は東京にしかないが、どうするんだ?との問いに、えっ!てな顔しちゃって、ビシバシ突っ込まれていた。嘘でも「流通は既存ルートを使います」とか言えばいいのに。結局、東京支店を開いてからもう一度来てくださいと断られていた。

それから大事なことを忘れてた。会社訪問だ。時期は、2回目と3回目の訪問の間。向こうからわざわざうちの会社にやってくる。

通常の「この会社と取引して大丈夫かいな」という疑いの他に、在庫を置くスペースがあるかどうか、が重要らしい。出版は製造業なので当然なのだが、思いもよらなかったので来る前に慌てて机とかを片付けて、5坪ほど確保した。

そのスペースを見た以外は、ほとんど雑談。だけど、彼が営業担当です、彼女が編集です、とか
そのへんにいるスタッフを紹介した。彼らはもちろん、出版担当なんかじゃない。

でもほら、出版って一応マスコミだし、編集ってちょっとやってみたいじゃないですか。だから、そう紹介されたスタッフがニコニコわくわくってな顔をしていたのも、今思えばよかったのかも。

取次との取引条件

2005年02月18日 | 出版取次口座の取得
4回の訪問中に、契約書に捺印して出した。と言っても、取次から渡されて、有無を言わずに印鑑を押すだけ。

実は私は海外での取引経験も豊富で、100ページの英語の契約書なんかも、隅々まで読んでほじくって文句言って…ということも得意だが、今回は違った。

「文句言ったら、じゃあやめよって言われるだけだよ」と例の知人が言うので、まあ交渉不可なんだなと思って黙って押印した。

後日、出版界のことを勉強しようと「誰が本を殺すのか」とかあのへんの本を読みまくって分かったが、新参者とか小さい出版社には結構不利になっているらしい。

それとも、交渉不可ということ自体が不利なのか。実際は、知人のアドバイスに従って、交渉しなかったのでよく分からない、すみません。

で、はっきり言うと、仕入はXX%だ。それに、仕入割引がX%とあった。(注:やっぱりやばいので消しました)

取次への納品は、大きく分けて委託と注文の2種類あって(もっといろいろあるけど、うちはあまり関係ない)、最初に「こういう新刊を出しました」と言うとどさっと仕入れてくれるのが委託。

その後、書店からちょこまかと来るのが注文。本屋で「取り寄せてください」と頼むあれが、注文だ。客からの注文なしで書店が注文してくれることもある。

で、仕入割引は、最初の委託の冊数にかかってくる。その分は、実質XX%の仕入ってこと。このあたりの話は、後日また。とにかくこの数字が不利かどうか、ホントはよく分からなかった。

仕入率の他に、契約書(実際は取引約定書と業務処理基準)に、納品数が不一致のときは取次の把握してる数字を使うとか、連帯保証人(私の他に2人)が破産したら即取引中止とか、いつ締めのいつ支払いとか、支払の保留とか、一方的な条件が書いてあったが、これも読むだけで押印する。

あと、取次が運営してるウェブサイトの運営費の一部も負担とか返品はどうとか、いろんな書類があった。

最後に、出版者記号をとるための書類。この出版者記号というのがないと出版社じゃないわけで、
この記号取得を代行してくれる。ISBNコードも、取ってくれる。本のカバーに、ISBN4-なんたらっていうのがあるが、そのなんたらの前半が出版者記号、後半が書籍ごとのコードだ。

で、日本図書コード管理センターというところに申請してくれる。が、日本図書コード管理センターによれば、誰でも取れるらしい。出版社記号じゃなくて、出版者記号というのは、そういうことか。

そうやってよく理解しないまま、とにかく手続きを終えた。