出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

オンライン書店の不思議

2005年04月15日 | 注文納品
アマゾンの表紙画像の質にバラつきがあるらしい。実際、例に示されている本を見ると、バラついている。

以前「新刊案内の謎」で書いたけど、うちは取次の関係で、アマゾンには書籍情報を受け取ってもらえない。いや、書店に流れた後なら受け取ってもらえるのかもしれないけど、どうせデータ入ってるし、今は何もしない。

出版社のコメントとか著者のコメントとか、売上アップのためには情報提供が必要とはわかってるんだけど、どうも最初の印象が悪くてアマゾンはほうってある。

それにしても、オンライン書店というのは本当に謎だ。書籍情報についてはTOSHさんが説明してくれて少々理解できたが、本の流れがさっぱりわからない。

よく出版に関する素人の質問なんかには、「オンライン書店も、普通の書店と同じように取次を通して商売をしている」って答が書いてある。

実際は、ちょっと違うんじゃないかと思う。

まず「書店からの注文」が来ない。いや、来るんだけど、取次を経由して来るだけ。

で、うちはスゴク規模が小さいので、各オンライン書店でのランキングと取次からの注文を吟味すると、なんとなく見えてくることもある。

(資本の話とかを調べりゃいろいろわかるんだろうけど、だからどうってことないから調べてない)

BK1だけは、苦労して図書館流通センター(TRC)の存在にたどり着いた関係で、なんとなくトーハンと仲良しなんだとわかってた。あと、TRCが図書館用に仕入れて余った在庫がBK1に流れてるのはわかっている。これは、TRCから来る週報(タダなので申し込んである)で確認できる。

TRCにまだ在庫があるのに、トーハンから「EC取寄注文」が来るときもある。この注文は、トーハンと関係ある他のオンライン書店に行ってるってことか。

日販は複雑だ。(知ってる人には複雑じゃないんだろうけど)

「ネット受品口」に持って来いという注文が、電話で来る。その他に、郵送してもらってる注文票の中に、「NET」と書いてある赤いスリップも入ってくる。これらは、納品口も、普通の注文納品(検数のおじさんのところ)とは別で、建物の隅のテーブルに置いてくる。

まず、この「ネット受品口」と「NET」の違いがわからん。「ネット受品口」は急ぎなのかと思うけど、どうなのか。

7&Yのランキングを注意していると、こちらは日販だなと想像がつく。急にランキングが上がると、「ほうっ! そのうち日販からおみくじ(うちではスリップが送られてくる封筒をこう呼んでいる)が来るな♪」と喜ぶ。

が! しばらく封筒が来ないで「?」と思ってると、3週間前の日付のついた「NET」注文票が来ることもある。オンライン書店で注文して3週間以上待たされるんだから、お客さんは怒ってるだろうな~と思うが、しょうがない。

なんか、e-honとかいうのもあるらしいけど、これはさっぱりわからない。

さらに謎なのは、楽天ブックス。「1~4日」を経て「出版社に在庫確認」になった後納品していないのに、「在庫あり」に勝手に変わっている。

「オンライン書店も、普通の書店と同じように取次を通して商売をしている」のは確かだろうが、普通の書店とはまったく別のものだ。

これについても、どなたかレクチャーしてくれないでしょうか。

本の値段の話

2005年04月13日 | 出版の雑談
私の別のブログから適当にたどっていったら、あちこちで本の値段の話で盛り上がっていた。読者の好み、原価のこと、ネットや携帯との絡み…などなど、いろんな考えがある。

ちなみに私の場合、「最悪のケース=あの遠い日販に1冊だけ注文納品しに行くこと」なので、自分の時給(東京都の最低賃金の目安として)が出る定価1600円がひとつの目安になっている。

こんなことを言うと、読者からは総スカンを食らいそうだが、しょうがない。でも、私みたいな調子でひとりでやってると、製造原価どころか人件費も知れたもんだから、いろんなことに金をかけてる大手版元の本より「上乗せ」は少ないと自負している。

ところで「読者から総スカンを食らいそう」なのは、内容云々の話を優先するほうがウケがいいからだ。

ネットや携帯は、紙の話をすれば同列から外れるけど、書籍どうしの読み応え比べだけはどうにもならない。

個人的には、高かろうが安かろうが、まったく構わない。これはひとり出版社としても、一読者としても、意見は変わらない。ついでに暴言を吐かせてもらうと、出版界の衰退なんてのも、マクロ経済レベルでは興味がない(自分が読みたい本が本屋にあればそれでいい)し、向こうだって私のことなんざ気にしちゃいない。

ある編集者さんのブログに「その値段を高いと感じさせない本を作るか」とあった。基本的には、私も常に心に留めてることだし、「値段を下げる」ことよりも個人としての出版人間には取り組みやすい。

でも例えば私はアストンマーチンが好きだが、車なんて何千万もするのは絶対おかしい。でも好きだ。おねえさんたちが好きなブランドも、同じことが言える。

その値段を高いと感じるかどうか自体、個人で違っちゃうんだから、ゴールの見えない話ではあります。値段なんかと関係なしに、とにかく頑張ればいいんじゃないでしょうか。

で、本日は部決の前の「お伺い」に行くつもり。

自分のミスによる無駄な印刷代を避けるためという情けない目的のためだが、相手(取次)はそんなこと知らないので、例によって「値段がどうのこうの」とか言ってくるに違いない。

実際、「100円違ったら買うか買わないか悩む人」というのは、読者人口のうちどのくらいいるんだろう? 仮に2割として、3千部刷る(3千人の購読者を想定する)と、つけた値段で売れるかどうか左右されるのは600冊だ。直販だと流通コストがかからないから、5%の150冊を直に売れば、問題は解決する。

仮の話ばっかりで、意味のない試算ですが。

要は、あまり値段で悩みたくない。

仕入部のお兄さんが難しいことを言っても、適当に聞き流そう。装丁に関するコメントだったら、喜んで(カバーのDTPは趣味みたいなもんだから)やるし、自分で作った本の内容についてのコメントだったら、聞かせてくれるだけで嬉しい。

まあ、印刷見積りをとるための配本数の確認はできるだろう。

出版は水物…でいいと思ってるでしょ。

2005年04月05日 | 出版の雑談
出版業界では「人脈がモノをいう」とか「顔を売っとくのが大切」とか言われている。言われているって、私はどうせ蚊帳の外だが、いろんな本にそう書いてある。大きな仕事をしたいのならそうなんだろうな、と思っていた。人脈があればチャンスも広がるだろう。

実際のところ、うち規模だとちょっと話が違う。チャンスというより、マイナス部分を補うために必要と感じることが多い。ちょっと前に書いた「書店営業」とか「出版の経理」とか、あんな当たり前の業務。知ってる人間がいたら、どんなに楽だったか。

で、自分の売込みとかがめちゃくちゃ苦手な私だったが、それでも会ってくれる人がちょろちょろ出てきた。だんだん「ギョーカイの人々」の名刺も増えてきた。ありがたいことだ。

私の自己分析では、出版界について「本」で勉強したのが、ちょいといかんかったと思ってる。

本は情報を得るにはいいけど、他人行儀だ。不特定多数の人に向けて書かれてる(当たり前)。大きな教室で講義を受けてて、ひとりでノートをとっているような気分だ。「ああ、人脈ね。フンフン。んなこと言ったって誰も知らないし~」とか考えてしまう。

他にも、業界人のインタビューとか対話とかの本で、お互い知ってる人について盛り上がってたりすると、「ケッ、マスターベーションかい」と、ひねくれてしまう。

実は愉快な人が多いということが、最近ようやくわかってきた。本を経由しないで、個人的に知り合えると、全然イメージが違う。そういえば、仕事をお願いすることになったライターもそうだった。私が考えていたような「ギョーカイ人丸出しの軽いヤツ」ではなかった。

で、昨日、業界人3人と飲んだのだ。(ホラ、文章にすると自分が書いたものでさえ、ギョーカイっぽくて排他的じゃないか。実際は、ある人が誰それと一緒に飲むときに呼んでもらったと書くのが正しい)

私が「知らないと知ってて無視している」取次と書店の関係とか、大手書店の事情とか、それぞれの担当者の話とかが、身近な話題としてボンボン出てきて圧倒されてしまった。同じ内容の情報を本で得ると、これまでみたいに「知らんわ、そんなもん」と思ってしまうのだが、知り合いになれた人の口から直接聞くと、「ほお~うっ、へえ~っ」て感じで素直に聞くことができる。皆さんいい人だ。これからいろいろお世話になる。

が、(ここからが本題)

少々「違う人種」と思わなくもない。私が特に圧倒されてしまったのは、「出版の会計は税務署でもわかんないから、やりたい放題」とか、「新刊を入れたことにしてどうのこうの(書いていいのかわからんからご想像に任せます)」とかの話。

始めの頃は、そんなこと知らずに細々とやってる自分を極小出版社の甲斐性なしと思っていたが、昨日話を聞いてて気がついた。

出版業界の人、倒産慣れしてませんか?

悪いが、うちは当座預金口座さえ、ない。取次からの支払いも目いっぱい保留にされてるから、忘れた頃に入ってくる。いや、忘れてはいないんだけど、当てにするには先の話すぎるので、自転車操業にもならない。そうじゃなくても、払えないものは注文しない。印刷は金ができてから発注する。

どなたかのブログかコメントに「当座の資金を作るために新刊を出す」と書いてあったが、そんなの完璧におかしい。いや、業界の人が自虐的に「おかしいよね~、出版業界はどうなんのかね~」と言ってるのとは、ちとニュアンスが違う。

実際、計画通りに資金の回転ができていれば問題ない。でなくて、事業計画なんて言葉は聞いたことがないんじゃないかと思うような山師になるのは、いかがなもんか、企業のトップが!

ちなみに私はギャンブル好きだし、小豆だろうがポンドだろうが相場を張るのも好きだ。別に、カタイ人間じゃない。

けど、違うよ~。言葉の商売だから、数字に弱いんだろうか? いったい、この「違う人種」感は、なんなんだ?