出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

著者選び

2005年11月29日 | 制作業務
私は突然出版社になったので、著述業の人に知り合いがいない。始めの頃は当然のように、著述業を生業にしている人が著者になると思ってたので、途方にくれた。有名人にホンの少しコネがあったが、「書いてほしいな」と思わなかったのでやめた。

調べていくと、日本何々作家協会ってのがいろいろあって、会員の連絡先もきちっと書いてある。けれども特殊な「頼み方」があるような気がして、二の足を踏んだ。

実をいうと当時、有名な人に頼むときは「原稿料と印税」を払うのだとばかり思っていた。執筆依頼して受けてもらうといくらか払って、売れたら印税を払うという具合。いったい総額でいくらくらいになるんだろうと思ってた。

そうじゃなくて「印税だけど部数で保証」とかいうことがわかってきたのは結構最近だ。

今までに出した本の著者は、ほとんどが無名だ。ひとり、その業界では有名って人がいたけど、書店に並ぶような著作物はなく、論文がほとんどだった。他は無名。どちらにしろ、本の内容をアピールして売るしかなかった。

さて、今作っているのは、「著者名で買う人」もいそうな著者の本である。著述家ではないが、「知ってる人は知ってる」人。ファンも多い。10年ほど前に一度本を出していて、ご自分でも「結構あちこちで売った」らしい。

余談だが、「手持ちがなくなった頃に、なぜか版元から在庫を買ってくれという連絡が来る。増刷したって話は聞かないけど、次から次へと在庫が出てくる」と苦笑いしていた。

そういうわけで、うちとしても今までとは違う桁の部数を売りたい。また、ある程度それが期待できる状態。

こんなことは初めてなので、「やっぱり無理してでも著名な人に書いてもらったほうがいいのか」と思い始めていた。

やたら図書館にあるような本を年に何冊も出してる著者についての噂を聞いたのも、その頃(半年前くらい)だ。有名な作家なのに「○○の人と××の人の、ナントカ」みたいなありがちなタイトルで変だなと思ってたら、出版社で企画してライターに書かせたものを送って、「この本、先生の名前で出させてください」と依頼するとのこと。名義貸しだけなので、印税2%くらいらしい。

ふ~ん、そんな方法もあるんだ、と思ったが、あまりやりたいとは思わない。

ただ、「桁が上がる」魅力は大きい。出版社側の希望というか理想というか、「大きめの数が読める」ような著者で出したい気持ちが、すごくわかるようになった。そんなの当たり前だろと言われそうだが、今まで無名の著者でもやってこれたので、絶対有名じゃないと!という気はなかったのだ。それがなんとなく実感として解るというか…。

以前、ある編集者さんがブログで、「ライターが持ってきた企画を会議に諮ったら、違う著者で出せみたいなことになりかけて…」と書かれていた。その後どうなったのか知らない。

さすがに人様の企画を他の著者でとは思わない。が、うちの場合、企画は私が立てるので、他の著者で全然問題はない。あ、これが世の中の有名な編集者が言ってた「こういう内容をこの人に書いてもらおうと考えることが、編集の醍醐味」ってことか。ああ、いろいろ寄り道して、原点に戻っただけか。

が、例の自費出版みたいな本が、ちょろちょろと出て行く。プロ向けの本を素人が喜んで買ってる感じか。こんなに売れるんだったら、別の作り方もあったかと思うくらい。

ところがこの本は何の宣伝もしていない。パブ向けに配ってもいないし、ネット書店に「出版社のコメント」も送ってない。巷で使われているデータは、見本納品で取次が打ち込んだ情報だけだ。配本数もめちゃくちゃ少ないのに、補充してくれる書店があって、そこでまたなぜか売れていく。

まあ、当たり前なんだろうけど、「内容と著者」ってことだろうか。今後の課題である。


「返本の中に献本が…」の事後報告2

2005年11月21日 | 出版の雑談
しつこいようだが、本日もムカついたので書く。

出版共同流通センターというところから電話がかかってきた。電話を取り次いだ人間が「返本だそうです」とだけ言ったので、書店かなと思って出たら違った。

ちょっと前に書いた返品流通革命で触れた、新しい日販の返品伝票を振り出している会社である。そのときにも書いたが、いろんな取次の返品をまとめてするところらしい。伝票にはその他の取次の名前がずらりと並んでいる。ただ、トーハンとは足並みを揃えられなかったらしく、トーニッパンだけのうちにとっては、それ以前と何も変わってない。返品おじさんも同じだし、うちとしては「日販の返品」として認識している。

そのとき(伝票が変わったとき)にも、「受領印を押した伝票がみつからない」とふざけた電話をかけてきたところだ。そのときは確か、1冊分の伝票だったが、受け取ってないし伝票の保留もしてないと返事しておいた。

今回も同じことを言うので、そのつもりで、返品伝票ファイルを取り出して調べ始めた。が、11月9日と言われてハッとした。あの、返品おじさんがそのまま持って帰った一束である。

ちなみにその日応対した人間は、「数量を修正をして受領印を押し、他の返本は受け取るつもり」だったが、おじさんがそのまま持って帰っている。

で、出版共同流通センターの人に「ああ、あれはですね・・・」と、ほのかな期待をしながら説明し始める。

すると、「ということは返品も受け取ってないってことですね」と言う。

あたりめえだろ!と思うが、よほどのことがない限り、声は荒立てないようにしている。昔は喧嘩っ早かったんだが、今やってる別の商売で、その業界の人たちが「とにかく言いたい文句はすべて大声で相手を罵倒しながら言う」のに閉口して、自重している。

「受け取ってませんよ、献本ですから」と言うと、そうじゃなくて…という雰囲気丸出しで、「返本の束を受け取ってないんですね」と確認する。

ほのかな期待をした私がバカだった。出版共同流通センターとしては、ブツと伝票の数さえ合っていれば問題がないらしい。

日販のホームページにこの会社についてのニュースリリースが載っていて、業務内容は「書籍・雑誌等出版物の返品に係わる物流業務の請負いと、出版物等の返品データの収集と計算・事務処理の代行」だそうだから、確かにこの会社に責任はない。少なくとも、「伝票がないぞ」と思って確認の電話をしてきたおっさんには、「責任」はない。

責任はないが、親会社じゃないんだろうか。

「そういうことがございましたか、それは大変失礼いたしました。何かの間違いかと存じますが、調査中と思われますので・・・。申し訳ございませんが、今回の伝票については束そのものもお受取にならなかったということで、よろしゅうございますか」

そこまで言えとは言わない。電話応対能力の問題かもしれないし。

でも、ハァ~。なんか電話を切ったときにはムカついてたが、こう書いてみると力が抜ける。

とにかく、気分の悪いことはしばし忘れる(許さないが、とりあえず黙るって感じ)ことにする。

私だってもっと建設的な記事を書きたい。しつこくお付き合いいただいてありがとうございました。

「返本の中に献本が…」の事後報告

2005年11月16日 | 出版の雑談
(初めて読まれる方、ひとつ前の記事を先に読まれるとわかりやすいかと思います)

1週間たって、また日販の返本おじさんがやってきた。

受品口ではトーハンのお兄さんのほうが優しげだが、返本おじさんは日販のほうがニコニコしている。(たまたまうちのルートのおじさんがそうなのかもしれないので、あまり意味はない)

とにかくそのニコニコ返本おじさんは、「途中でチェックしたんですけど、(ハンコ本)ないですよ~」と、にこやかに束をひとつ置いていった。

うちへの買掛金残高を減らす努力は、やめたらしい。こういう言い方はイヤラシイが、うんともすんとも言ってこないので、「謝る意思もない」と判断させていただく。

実は、「今までの献本も返してきてたんだろう! それぞれの既刊本につき4冊分の金額をただちに払え!」と脅そうと思っていた(いや、きっと事実だから脅すってのは変ですが、殴りこむとか)が、ニコニコおじさんの笑顔に免じて、許す。

許すが、今後の何かの交渉のときのために、うちのカードとして取っておく。

ところで、このブログのアクセス数がたまに妙に多いときがあって、今回なんか「さすがの出版界も反応してるのか」と思ってしまった。が、ブープルでリンクを貼ってくれているのだと気づいた。

ブープルはどこかのアフィリエイトになっていて、自社の本のリンクに利用しようかと思ったがリンクの作り方が面倒なのでやめていた。でもブープログというのは、知らなかった。

で、となると、別に

「なんか日販が変なことしてるそうだよ」
「え、何々?」
「なにやら献本を返品するとか」
「そんなこと、どこで知った?」
「出版屋の仕事ってブログ」

ってな会話があったわけじゃないということもわかる。

「読んで頭に来ました」というコメントもいただけないので、もしかすると「こいつ、青いな」なんて思われてるのかもしれない。

青いのは青いんだろうが、さすがに私も「出版を始めたばかりで…」と言い訳することを躊躇するようになってきた。本の作り方も、すこ~しずつわかってきた。(わかってきたとはいえ、日々学ぶことは多いんですが)

何が言いたいかっていうと、「継続は力なり」ってことだ。

今回は例の自費出版みたいな本を除けば、前回の新刊からずいぶん日にちが経っている。今の時点で半年で、今度の新刊はあと数ヶ月先の予定。

これまでだと新刊出てから半年後なんて、トーハンの短冊棚が空っぽとか、日販からおみくじ封筒が2週間も来ないなんて状態だった。今回は、例の自費出版みたいな本を除いても、まだボチボチ来る。

刊行数が多いと食ってけるんだなぁ、楽だなぁと思う。ド素人なりに作った初期の頃の本だって注文が来るんだから、普通の出版社なんか左団扇じゃなかろうか。

もちろん倉庫代がかかってくるだろうけど、出庫とか返本受けとか改装とかなんかを頼まないで預けっぱなしにしておけば、そんなに高いものでもなかろうし。

要は、そのバランスを探し出して忠実に守っていけば、いいんじゃないか。「まるっきり売れない本」を出さない限り、今後ますます楽にはなっても、ピンチに陥るってことはなさそうな気がする。油断大敵ですか、そうですか。

いや、まあとにかく「生き残ってやる! 見てろよ、日販!」ってな気分だってことです。

キタ━━━(゜∀゜)━━━ッ!!

2005年11月09日 | 返本
いや、揚げ足を取るような言い方はまずいんでしょうが、やっぱり来た。返本の束の中に、献本が2冊!

その話を聞いたとき「えっ!」ってなことで次回はマークをつけてやろうと決めたこと、確か半年くらい前にこのブログにも書きました。

で、最近の見本納品のとき、天にはんこを押しておいた。本の中の印じゃ返本おじさんがいるうちに束を解かなきゃいけないし、表紙画像のためにカバーには余計なものをつけられないので、天。

ベッタリというほどではないが、パッと見たら普通わかる程度。つまり、「取次に知られないように証拠収集する」みたいな嫌らしいマネだけは避けようと…。

これも書いたような気がするが、この本の見本納品は社内の別の人間に行ってもらった。そのときは、はんこについては何も言われなかったらしい。

今回の返本も私が外出中の出来事だったので、別の人間が対応した。ただ、そろそろ初回配本で棚に並ばない分が帰ってくる頃だと思って、「はんこ本は受け取るな」と言ってあった。

返本のおじさんに文句を言ってもしょうがないので、はんこ本はうちからの献本である旨、説明だけしたらしい。おじさんはすぐに、「そりゃ申し訳ない」と言って、その束を丸ごと持って帰ったそうだ。ちなみに日販である。

日販は先日「返本は1冊につきいくらにするから」というお達しを送ってきたが、まだ変わってないんだろうか。それともおじさんが「2冊抜いた束」は扱いづらいので、適当なことを言ったんだろうか。

事務所に戻ってその話を聞いてすぐに電話してやろうかと思ったが、とにかく持って帰ったのでやめた。

おそらく、おじさんは返本センターかどこかに持って帰って事情を説明し、返本センターは「めんどくさいな」と思いながら束を解いて抜いて、別の返本を入れ直して、次回の返本となる。例の自費出版みたいな本なのでもっと返ってくるだろうから、束を作るのには苦労しない。

トーハンの新しい返本センターは、ほとんどオートメーション化されている。日販はどうだか知らないけど、説明会に呼ばれたことはないので、トーハンほど「自慢の」設備ではないんじゃないか。

いやいや、返本センターの機能はあまり関係ない。仕入窓口から返本センターに届けられない限り、こんなことありえないから。

とにかくいくらオートメーション化されてるといっても、どこかに今回のような通常返本ルート(書店→取次→版元)以外の本をさばく人間がいるに違いない。

「2冊抜いて別の束を作る」人間もいるはずだ。で、その本どうなるんだろうと思うが、献本したものなので捨てようが何しようが、別に構わない。気分悪いが、うちまで持ってこられたこと自体のほうが、よっぽど気分悪い。

問題はその後である。

「2冊抜いて別の束を作る」人間が、別の部署に報告するってなことに、ちゃんとなってるんだろうか。もし、黙って2冊は捨ててもう1回束を作り直すと、伝票管理上にも異常は現れないかもしれない。

もし突っ返さなかったら、黙って返本に2冊分の金額が増えて、返品率にも跳ね返る。特にこんな「自費出版だから注文メイン。配本はホントの大手だけで最低数」ってな本は、大きな違いになる。

ただ、金額とか返品率の問題だけじゃないと思う。

普通で考えたら、「ものすごく失礼なこと」をしているわけだ。仮に意図的でなかったとしても、しかるべき部署から謝りに来るのが当然だ。

来ないんじゃないかな、と思う。

私がその話を聞いたときも、話してくれた当人は「取次なんてそんなもん。出版業界っておかしいところあるけど、自衛するしかしょうがない」ってな感じだった。常識じゃ考えられない!という、まっとうな怒りは感じられなかった。

倒産慣れもそうだが、出版界のこういう異常には慣れちゃいけないと思う。何度も書いてるように、私は普通に既存の流通で出版を続けたいと思ってるけど、「業務」と「ポリシー」は違う。

本当ならここに書いている時点で、ある程度のダメージ(悪イメージ)は発生する。他の業界なら、「お客様相談センターの評価」とか「一営業マンの失態」にはピリピリする。不感症の出版業界だから、「私がほざくだけ」で終わるかもしれないけど、情けなくないですか。

もう少し様子を見て、何も言ってこなかったらどうするか考える。

ちなみに、トーハンからは先週の金曜日に「第一弾返本」が来たが、その中には入ってなかった。今のところ気分的に救われるのはそれだけだ・・・

著者とスケジュール

2005年11月01日 | 制作業務
今手がけている本の著者から連絡があった。先月上旬に構成し直したものを届けてあって、「読んだよ、いいじゃない」とのこと。さっそく赤の入った原稿をいただきに行くアポをとった。

今回の著者との進行は、すごくスムーズだと感じる。

以前書いてもらった人は、原稿催促だとわかると携帯に出ないときも多くて、すごくムカついた。だいたい著者になるような人は「忙しい人」で、捕まえるだけでめちゃくちゃ大変だった。

私はそんなに忙しくないので、どこへでもすっ飛んでいくつもりなんだが、すっ飛んで来られたくないらしかった。それでもしつこく、「成田まで送ってくから搭乗前に打ち合わせさせてくれ」と言って会ってもらったりして、結局半年遅れで本が出た。

成田に押しかけるなんて、同じく忙しい編集者にとって別に珍しいことでもないんだろうと思う。けど、こっちは本当に「お忙しいあなたに合わせますから」ってな感じなのに、忙しくてできなかったとばかり言われて延び延びになると、だんだん頭にくる。

最後には、「こいつは要領が悪いから、こんなに忙しいんだな」と思うようになった。

実際、「やっておく」と言った校正が上がってこなかったり、「書いておく」と言ったあとがきを結局私が書いたり、イライラすることが多かった。

「そのくらいどうってことないよ~」と言われそうだが、私は嘘つきは嫌いだ。相手を尊重するので、忙しいなら構わない。もちろん突発的なことも起きるし、そういうときはしょうがないと納得する。

でも「合意した工程どおり進めない」のは、出版云々の前に「人間同士の約束」の問題だ。忙しいなら余裕を持ったスケジュールを組めばいいだけ。言ったことには責任持ってもらいたい。「○○出版だって待たせてるんだからさ~」とかふざけたことをぬかさんでもらいたい。

同じ著者が、契約のときビジネスライクに進める私に、「さすが他の業界から来た人はしっかりしてるねぇ、いいねぇ」なんてエラそうに言うんだ、これが。

バタバタ頑張るのも充実感はあるが、「ああ、やっと原稿もらったよ!」なんて、本来喜んでちゃいけないことだ。それを充実感と取り違えちゃいけないと思う。

で、今回の著者。忙しさは上を行くと見ていた。最初からスケジュールにすごく余裕を見ていた。おまけに自宅の電話だけで、メールとか携帯はない。

「いついつくらいまでに何々できると思います。その頃にお電話ください」なんて言われて、普段の私からするとすごくちんたらなんだが、覚悟してたのでストレスはない。「できたらメールで送ります」なんて言っておいて実はすっとぼける嘘つきより、断然いい。

原稿のやり取り以外にも、結構郵便(お手紙)を使った。この私が「近いうちにお電話いたします」と書いたりする。普段の私の仕事のペースとすごく違うが、昔の出版っぽくって楽しい。楽しいが、字がへたくそなのでちょっと恥ずかしい。

こういう制作進行だと、本当にじっくり余裕を持って進めているという実感がわく。著者次第で、すごく気分が違う。