MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

レガシーの簡単な作り方について

2020-09-04 23:38:26 | Weblog


(2020年8月29日付毎日新聞朝刊)

 通常であれば一般企業や団体などのトップが「嘘つき」ならば、その企業はすぐに潰れるはずなのだが、日本がまだ潰れないのはある意味奇跡なのかもしれない。
 ところで安倍晋三首相は立場的にはレガシーを作れる絶好のポジションにいたはずで、2006年から2007年にかけて首相を経験して失敗したことで何が問題だったのか反省できるチャンスがあり、2012年に首相に返り咲いた時には、その反省を生かしながら七年八カ月の長期政権を担えたのならば得意の外交を活かして日本が長年抱えている大きな問題の一つくらいは解決に導けたはずなのである。
 実際には、北朝鮮の拉致問題は当の金正恩朝鮮労働党委員長に会うこともできず、ロシアのプーチン大統領とは良好な関係らしいが北方領土は一島たりとも戻って来る気配さえなく、アメリカのトランプ大統領とはゴルフ仲間らしいのだが、沖縄の基地問題はもちろんのこと日米地位協定の改定さえ成し遂げられず、中国の習近平国家主席を国賓として招くくらいの関係であっても中国公船の尖閣諸島周辺の領海侵入は今年過去最多なのである。見かけだけを取り繕っているだけの「遊び相手」ばかりなのだが、相手と本気で話し合うということを安倍首相は少しでも試みたことがあるのだろうか?
 「負のレガシー」ならばいくらでも挙げられるのだが、例えば、国会においてヘラヘラしながら不規則発言をしたり癇癪による不用意な発言の連発で国会を「児童会」と化してしまったことは、今後それが当たり前にならなければ負のレガシーになるだろうし、安倍首相の嘘に付き合って嘘をつき通した官僚が出世し、あくまでも正直にいようとした職員が自死しなければならなかったことは官僚のやる気を奪ってしまった。
 今年のコロナ禍において「悪夢の民主党政権」とこき下ろす安倍首相は自慢の政治手腕を世間に示せる絶好の機会であっただろうが、やる気を失っている官僚は、例え良いアイデアがあっても首相に伝える意欲はないだろうから、首相の周辺にたむろしているおっちょこちょいたちのトンチンカンな助言に拠った「アベノマスク」などの対策はことごとくスベり倒し、行き詰まった結果突然、誰も文句が言えなくなる伝家の宝刀である「潰瘍性大腸炎」を理由に辞任してしまうのである。
 しかし安倍首相には辞める前にやろうと思えばできるレガシーがなくはない。首相が代わると首相執務室内の書類を一切残さず、空っぽにして次の首相に引き渡すという官邸に残る慣習を止めることである。私的な文章を含め丸ごと残すことをルールとして定められれば、安倍首相のレガシーとして歴史に名を残せる可能性はまだあるよ。


(2020年9月4日付毎日新聞朝刊)
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/mag2/nation/mag2-464798


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