原題:『DAU. Natasha』
監督:イリヤ・フルジャノフスキー/エカテリーナ・エルテリ
脚本:イリヤ・フルジャノフスキー/エカテリーナ・エルテリ
撮影:ユルゲン・ユルゲス
出演:ナターリヤ・ベレジナヤ/ウラジーミル・アジッポ/オリガ・シカバルニャ/リュック・ビジェ
2020年/ドイツ・ウクライナ・イギリス・ロシア
「マウント」の取り方について
「ダウ・プロジェクト」とは、“ソ連全体主義”の社会を限りなく可能なスケールで完全再現し、独裁政権による圧政の下で暮らす市井の人々を描き、本作はその第一弾である「ナターシャ・ヴァージョン」で、その後も次々と公開されるらしい(因みに「ダウ」とはソ連のノーベル賞受賞物理学者のレフ・ランダウ(Lev Landau)由来らしい)。
しかし本作はソ連の軍事秘密研究所に併設されている食堂に勤めるベテランのウェイトレスのナターシャと若いウェイトレスのオーリャの床掃除を巡る諍いが描かれ、その後フランスから招かれた科学者のリュックとナターシャがオーリャの家で開かれたパーティーの後にベッドを共にし、その後、KGB職員の犯罪捜査官であるウラジーミル・アジッポから外国人と寝たことからスパイ容疑で厳しい尋問を受けて、KGBのスパイとして情報を得ることを約束させられ、最後はいつもの食堂でナターシャがオーリャと相変わらず喧嘩をしている様子が映されて終わり、結局、終始セックスも含めて人々の「マウント」の取り合いだけが描かれているのであるが、飽きることなく最後まで観られるところが凄い。
ところで問題となっているのが、ナターシャがKGB職員に厳しい尋問を受けるシーンである。これが例えば『ある人質 生還までの398日』(ニールス・アルデン・オプレブ/アナス・W・ベアテルセン共同監督 2019年)において主人公で写真家のダニエル・リュ―がIS(イスラム国)のメンバーにリンチされるシーンと決定的に違うのは、『ある人質』ではカメラのカット割りでダニエルが拷問されているように見えるのに対し、本作においてはユルゲン・ユルゲスによるハンディカメラの長回しによりナターシャが実際に膣に瓶を挿入させられるような拷問を受けているところである。ここに監督たちの覚悟を感じるのである。
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